この「貨幣創造」ビジネスは、多くの人にとって非常に理解しがたいものであり、錬金術や詐欺のようにすら感じられる。銀行が融資をするだけで、預金は創造されるのか? 政府が支出する(貸す)だけで、現金通貨や中央銀行の準備預金は創造されるのか? 無から貨幣を創造するとでも言うのか?
答えは、もちろん「イエス」である。『MMT現代貨幣理論入門』kindle版 45/553pp
当ブログは、こちらの複式簿記を説明した記事を読んでいただいている前提で書いています。未読の方は是非ご一読ください。
前回の記事税は何のためにあるのか - 国際乱発派のMMT解説では
- 税は財源ではない
- 税は貨幣を動かす
この2つを説明しました。税が果たすべき役割は政府に資金を集めることではありません。ですから、税収が足りないから休業補償ができない、なんてことはあり得ないし、社会保障制度を維持するために消費税が不可欠なんてこともあり得ないし、給付金を配ったら先々に増税をして回収しなければならないという論理も成り立たないわけです。
さて、それでは続いて、税に動かされる貨幣、これはいったい何者なのか、これについて考えてみましょう。
貨幣はどこから生まれるのか
貨幣は資産|負債の取引によって生まれます。
例えば、銀行融資です。それでは、"企業が銀行から100万円の融資を受ける"という取引を見てみましょう。
企業は100万円の融資を銀行に申し込みます。すると、銀行は企業の口座に"100万円の入金"と書き込みます。
この取引の仕訳は次のとおりです。
預金|借入金 100万円
ということで、資産|負債の取引によって企業の銀行預金という貨幣が増えました。世の中の銀行預金の総量が100万円だけ増えたわけです。
貨幣は何も無い所から生まれる
ここで、貨幣が無から生まれていることに気づいたでしょうか。
企業の口座には100万円の銀行預金が生まれました。この100万円はどこから来たのでしょうか?
答えは、どこからも来ていません、銀行が"100万円の入金"と通帳に書き込むことで無から誕生しています。銀行は融資をするときに、もし手元に1円も持っていなくても、顧客の通帳に"●円の入金"と書くだけでいくらでも融資をして銀行預金を作り出すことができます。
ここで銀行が預金を作り出せる限界は通帳に数字を書くためのインクの量だけです。電子通帳なら無制限です。
知識のある方は準備預金制度があるじゃないか、と指摘されるかもしれません。しかし、準備預金制度は人為的に作られたルールですから、ここで私が述べている貨幣創造の"限界"とは別の次元の話です。
また、"銀行が返済見込の無い融資を無制限にするわけがない"という指摘も、同じくここで述べているものとは別次元の話です。
貨幣は資産|負債の取引の記録
"資産|負債の取引"、これが貨幣が誕生させるための必要十分条件です。ですから、ここで逆に"貨幣"を次のように定義することができます。
"貨幣とは資産|負債の取引の記録である。"
このように定義すると貨幣というなんだか身近なのに正体不明な存在の輪郭がだいぶクッキリしてくるのではないでしょうか。考えてみれば貨幣というものは全てがこの定義に当てはまります。
- 紙幣:現金|発行銀行券
- 銀行預金:預金|借入金
- 手形:受取手形|支払手形
貨幣は誰でも生み出せる
資産|負債の取引は銀行融資以外にもありますから、貨幣が誕生させる方法は、その他にもたくさんあるはずです。
例えば私が友人(Aさんとしましょう)に1万円を貸して、借用書を書いてもらうと、
私側の仕訳:借用書|現金 1万円
Aさんの仕訳:現金|借入金 1万円
となり、現金は移動しただけで増えてはいませんが、私側に1万円の借用書という貨幣が生まれました。銀行融資の場合の預金通帳の印字と同じく、借用書は間違いなく資産|負債の取引の記録ですから、借用書は明らかに貨幣です。貨幣は私の友人でも生み出すことができるのです。
貨幣には種類がある
負債と言えばまず思いつくのは"借金"だと思いますが、負債には借金以外にも
- 預かり金
- 未払い金
- 前受け金
- 買掛金
- 発行証券
等々、いろいろ種類があり、それぞれが貨幣を生み出します。ただ、今後の議論では銀行からの借入による貨幣創造を基本としましょう。ここをごちゃごちゃさせてもあまり意味がないですから。
ハイマン・ミンスキーは、「誰でも貨幣を創造できる。問題はそれを受け取らせることにある」と言った。あなただって、紙切れに「5ドルの債務」と書けばドル建ての「貨幣」を創造できる。問題はそれを誰に受け取らせるかだ。政府なら──何千万もの人々が政府に支払債務を負っていることもあって──受取り手は簡単に見つかる。
『MMT現代貨幣理論入門』kindle版 46/553pp
さて、Aさんにお金を貸した話に戻りましょう。私が手にした借用書は、銀行預金と同じく借入によって生まれたもので、れっきとした貨幣ですが、先の例の銀行預金と大きく異なる点があります。
それは"第三者への支払に使えない"ということです。正確には"使えない"ではなく、"恐ろしく使いづらい"なのですが、実質的には"使えない"と表現しても差し支えないでしょう。
なぜならこの借用書を貨幣として受け取ってくれる人は、おそらく借用書は書いた本人のAさんだけだからです。
もし別件で私がAさんに1万円を払わなければならなくなったら、その借用書と相殺するということで支払を済ませることに何の問題も起こらないでしょう。
しかし、私がAさんではなく全く別の人(Bさんとしましょう)に1万円を支払うとき、その借用書で支払をしたいと言ってもBさんはおそらく受け取ってくれません。Bさんは現金か銀行預金での支払を求めることでしょう。それはなぜか、考えてみましょう。
もし、逆にBさんが優しい人で私を不憫に思い、借用書を受け取ったとしましょう。私はハッピーなわけですが、そうするとBさんは手に入れた1万円の借用書を支払に使いたいときに、Bさんと同じかそれ以上に優しいCさんを探さなければなりません。世の中に優しい人はたくさんいらっしゃいますが、それでもどこの馬の骨が書いたか分からんような借用書を受け取ってくれる人は滅多にいません。そしてさらに、CさんがBさんが買いたいと思うような商品・サービスを提供していなければ取引が成り立ちません。
結局、Bさんは優しさの余りに借用書を受け取ってしまうと、"どこの誰だか分からない人が書いた借用書を受け取ってくれるほど奇特で、かつ、Bさんが欲しいものを提供してくれる"、そんな奇跡のようなCさんを探さなければなりません。さもなければ、その借用書はAさんが返済に来てくれるまでは紙切れ同然です。
一方、現金または銀行預金での支払であれば、BさんはCさんを探す必要がありません。
日本に住む人は誰もが課税されるし、税務署は現預金による納税を受け入れることを約束しているから、誰もが現預金を必要としています。こと現預金に関しては、誰もが奇跡のようなCさんとなってくれるのです。
このように貨幣には種類があり、Cさんの見つけやすさがそれぞれ違います。最も見つけやすい貨幣はダントツで現金です。次は銀行預金でしょうか。その次は、小切手・手形・でんさい、そのあたりでしょうか・・・キリが無いのでこのあたりでやめておきます。(この記事はMMT解説の導入部分のつもりなので、日銀当座預金はここでは脇に置いておきます。)
まとめ
最後におさらいをしておきます。貨幣には上図のとおり5つの性質があります。これらが理解できていれば貨幣の本質はだいたい掴めていると言っていいでしょう。また、MMTの理解に必要な貨幣に関する前提知識をほとんど網羅できていると思います。
それでは今日はこのあたりで・・・ちょっと長くなってしまいました。もうちょっとコンパクトに文章をまとめられるといいんですけどね。また次の記事でお会いしましょう。
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