経理屋が読み解く『MMT入門』

『MMT入門』(L・ランダル・レイ,2019,東洋経済新報社)をベースにMMTを解説します。ときには自分の思うところを書き綴ったり。

1-5.収入と支出の関係

これらの理由から、全体で考えた場合、支出と所得の因果関係は逆にしなければならない。つまり、個々のレベルでは所得が支出をもたらすが、マクロレベルでは支出が所得をもたらす。

『MMT現代貨幣理論入門』kindle版 65/553pp


当ブログは、こちらの複式簿記を説明した記事を読んでいただいている前提で書いています。未読の方は是非ご一読ください。 

 

xbtomoki.hatenablog.com

  

当ブログは、私がこちらの書籍を読んで、理解したことや考えたことを記事にしたものです。

MMT現代貨幣理論入門

MMT現代貨幣理論入門

 

 

所得が先か、支出が先か

個々の支出はたいてい所得によって決定される──まず考えなければならないのは、民間部門の支出に関する決定についてである。個々にとって、所得が支出を決定するという主張はもっともらしく聞こえる。なぜならば、所得のない者は財やサービスの購入を決定する際に間違いなく厳しい制約を受けるからである。しかし、よく考えてみると、個々のレベルでさえも、所得と支出の因果関係がゆるやかなのは明らかである。

『MMT現代貨幣理論入門』kindle版 63/553pp

 ※「所得」とありますが、おそらく「収入」のことを言いたいんだと思います。これが誤訳なのか、それとも原文の問題なのかは分かりません。

 

収入が支出を決定する?

まずは身近な"家計"でイメージしてみましょう。

www.homes.co.jp

こちらのサイトでは年収から家賃や住宅ローン返済の適正額を2割だとか3割だとか、なんかいろいろ説明されています。

マクロ会計の恒等式国内民間収支+国内政府収支+海外収支=0ですが、

家計管理の恒等式は、[収入-支出=貯蓄]です。私が貯蓄を増やすためには、収入>支出となるように家計を管理しなければなりません。収入>支出にするためには、

  • 収入を増やす
  • 支出を減らす

この2つの方法がありますが、通常、収入を増やすのは難しいので、私は支出を収入の範囲内に収まるようにコントロールしなければなりません。

つまり、私の支出可能額は、収入によって決まります。

もし私が高給取りなら、毎食ステーキを食べてお腹を壊し放題ですが、その逆であれば、月1のびっくりドンキーにもありつけません。

 

 

というのはウソです。

どこからがウソかというと「つまり、私の支出可能額は、収入によって決まります。」ここからがウソです。私がお腹を壊すのは牛乳をガブ飲みしたときくらいですし、私がびっくりドンキーに行くのは年に1回か2回です。

 

「貯蓄を増やすためには」が前提

「収入によって支出可能額が決まる。」というのは絶対の真理ではありません。これが真理になるためには、「貯蓄を増やすためには」という前提条件が必要です。

収入-支出=貯蓄ですから、貯蓄がプラス(貯蓄>0)だとすると、収入-支出>0 となります。この式をちょっと整理すれば、【収入>支出】となりますので、収入が支出の上限を決めてしまう、というわけです。

しかし、常に貯蓄を増やし続けなければならない、とはいったい誰が決めましたでしょうか。

人生にはいろんな出来事が起こります。海外旅行に行ったり、知人の結婚式が重なったり、老後はむしろ貯蓄が減っていく方が普通でしょう。貯蓄は減ることだってあるわけです。

そこで前提を付けずに考えてみましょう。

 

収入→支出?

私が失業中で無収入ではあるものの、100万円の貯金は持っている人だとしましょう。

ある日、私は就職活動がうまくいかないので、気晴らしに100万円を握りしめて競馬場へやって来ました。

 

さて、ここで問題です。

私が競馬場で使えるお金の上限はいくらでしょうか?

正解は100万円ではありません。

手元の100万円が無くなってしまったら、お金を貸してくれそうな友人に電話をかければまだまだいけます。友人から借りられなくなったら、次は家族・親兄弟・親戚です。それもダメになったら、はじめてのアコムに行ってみましょう。それでもダメなら、最後の手段、カウカウファイナンスの出番です。

つまり、私は借金をできる限りはいくらでもぶっこむことができます。

f:id:xbtomoki:20200820065131j:image

 

さすがにそれは冗談ですが、ここで私が言いたいのは、私の支出限界と収入には、ほとんど何の関係もないということです。

強いて言えば、貸し手が予測する私の"将来の"収入によって、私の借金限界が増えたり減ったりする可能性はあります。そして私の将来の収入を予測するのに今の収入が参考程度にはなるかもしれません。

収入と支出限界は、そのくらい関係が薄いものなんです。

 

 ですから、

収入によって支出が決まる

これは正しくありません。間違いです。 

 収入→支出?そんな因果関係は存在しません。

 

 

家計簿脳の呪縛

"家計簿脳"というワードがあります。

 

ただちょっと、家計簿脳の説明の前に、「貯蓄を増やす」って、要するに、「金融純資産を増やす」と同じ意味ですよね。ということは、

xbtomoki.hatenablog.com

 この記事で説明したとおり、"黒字収支は必ず純資産の増加を伴う"ですから、

「貯蓄を増やす」=「黒字収支」と考えることができます。

 

さて、"家計簿脳"に明確な定義は無いと思いますが、「なんでもかんでも家計簿感覚で考えてしまう思考回路」、だいたいこんな感じじゃないでしょうか。

 

で、"家計簿感覚"ってのは何かと言えば、

基本的な収支が赤字だと、貯蓄がどんどん減っていきます。どんどん減ってマイナスになったら借金生活です。

これは恐ろしいことです。借金は利息が付きますから放っておくと膨らんでいきます。膨らんだ借金にはさらに多くの利息が付きます。毎月の収入が利息だけに消えていき、元本が一向に減らない状態になれば、もはや借金生活から抜け出せなくなるでしょう。

ですので、家計は常に黒字収支になるように管理しないと、いつか必ず破綻してしまいます

ここで、収入は簡単には増えないから、収支を黒字にするためには、いかに支出を抑えるかが重要になります。無駄な支出を削り、支出が必ず収入の範囲内に収まるようにしなければなりません。よって、何か新しい支出をするときには、その一方で、何か既存の支出を削らなければなりません

今このときの節制が将来の私の暮らしを豊かにします。いま贅沢をした分だけ、将来の私は貧しくなります

また、こじらせ気味の方だとこうなりがちです。「私の周りに借金生活してる人なんかいない。みんながんばって質素倹約に励んでいるんだ。赤字なんてのは、努力をしていない、怠け者の証拠だ。収支というものは、がんばれば必ず黒字になるんだ。」

ざっくりですが、"家計簿感覚"ってのはこんな感じです。

 

家計簿脳は、政府財政や企業財務にこれを当てはめてしまいます。というより、自分がやったことのあるカネの管理の経験が、家計簿しかなく、そのレベルでしか考えられないのかもしれません。

私はこれを家計簿脳の呪縛と名付けたいと思います。

しかし、上記でアンダーラインを引いた箇所は、家計にしか当てはまりません。

 

例えばこんな誤り

家計は常に黒字収支になるように管理しないと、いつか必ず破綻してしまいます。

f:id:xbtomoki:20200821140446p:plain

日本・アメリカ・オーストラリア・イギリスの財政収支

データが示すとおり、先進国政府の財政収支は赤字が普通です。この4ヵ国の政府はいずれも長年にわたって赤字収支で、負債残高は今もどんどん積み上がっています。その額はもはや税収で返済なんてとても不可能な額です。

でも破綻はしません。その気配すらありません。

そして、これを危機だなんだと心配をしてるのは、日本人だけです。

  

ついでに家計簿脳の誤りをもう一つ

今このときの節制が将来の私の暮らしを豊かにします。いま贅沢をした分だけ、将来の私は貧しくなります。

今度はこれを企業財務に当てはめてみましょう。

ある企業が今このときの人件費をケチって、半数の社員を解雇しました。さて、この会社の将来はどうなるでしょう?少なくとも明るくはなさそうですね。

 

最後にもう一つ

収支というものは、がんばれば必ず黒字になるんだ

 これについては、この記事で説明したとおり、

xbtomoki.hatenablog.com

 "誰かの黒字は、必ず誰かの赤字の裏返しです"

みんなががんばれば、みんなが黒字になりますか?

そんなことはありません。

私が黒字であれば、必ず私以外の誰かが赤字になってくれています。

 

マクロ経済に家計簿脳を持ち込んではいけない

もちろん、私が自身の家計を管理するときには、収支が常に黒字になるように支出を抑えますし、許容できる範囲で節制に努めます。家計簿脳で家計を考えることは何も間違ってはいませんし、ましてや低レベルなんかではありません。

ただ、マクロ経済について考えるときに家計簿脳を持ち込んではいけません。そんなことをするから、こーゆー記事を書いてしまうわけです。

www.tkfd.or.jp

財政破綻に備える暇があったら宝くじが当たったら何しようかなーとか考えてた方がよほどマシです。宝くじが当たったら私はまるか食品イカ天チップスをたくさん買いたいですね。ちょっとお高いんですが、こいつはマジハンパないリアルだということを自信を持って言えます。1ヵ月前くらいにお菓子総選挙でしたっけ?テレビで日本一のお菓子はどれだー的な番組をやってましたよね。私はまるか食品さんのイカ天チップスが当然ダントツの1位なんだろうと思って見てたんですが、まの字も出てこずに番組が終わりましたよ。どうなっとんだっちゅう話です。まあまあまあ、スポンサー的な事情もあるんでしょうけどね、それにしても不正はよくないと思いますよ。日本一のお菓子はどれだとか言っといてイカ天チップスが影も形もでてこないなんてことありえますかね?

ま、今日はこのへんで勘弁しときましょう。

 

それにしても家計簿脳で慶應大学の教授になれちゃうんですね。これもパリコレ現象なのかもしれません。 

xbtomoki.hatenablog.com

 

 

それでは本日ここまで。

 

【おまけ】
今回のおまけはオススメYouTube動画です。


最速で資産1,000万円を突破するために必要な3つの習慣【きになるマネーセンス#280】

こちらのチャンネルは、経済関連の話では"それちゃいまっせ?"みたいなのがちょいちょい出てきますし、右側の講師役の浅田さんがやたら態度がデカかったりするし、この動画も給料が毎月全額生活費で消えてしまう人がいることとか分かんないんだろうなー、って感じではあるんですが、こと貯蓄とか投資とか保険とか、家計管理関連の話についてはとても参考になる情報を発信されています。

これって、逆に言えば、貨幣や経済の仕組みを理解してなくて、がっつり家計簿脳だったとしても、一般市民として生活するのには何の支障も無いってことなんですよね。浅田さんががっつり家計簿脳だと言ってるわけではありません

そういや、ツイッターでどなたかが、天動説でも暦が作れちゃうわけだしなーって言ってたな・・・

 

 

日本人は本当はもっと豊かになれます。そのためにはもっと多くの人々が貨幣と経済の仕組みを理解しなければなりません。

私たちが、そして次世代の子供たちが、貧困に怯えずに暮らせる日本を目指しましょう。

 

‪最後まで読んでいただき、ありがとうございます^^

応援コメント、指摘コメント、お待ちしております!当ブログの拡散も大歓迎です!

よろしくお願いします!