経理屋が読み解く『MMT入門』

『MMT入門』(L・ランダル・レイ,2019,東洋経済新報社)をベースにMMTを解説します。ときには自分の思うところを書き綴ったり。

番外.税は財源ではない

よくできた標語

 

「税は財源ではない。」

 

誰が考えたのか分かりませんが、政府財政の仕組みを端的に説明する標語としてよくできたフレーズだと思います。

政府財政の仕組みは複雑で、全部説明していくと、それはそれは多くの不幸な脱落者を生んでしまうでしょう。

そもそも国民全員が政府財政の一から十まで理解する必要なんかありません。そんなのはヒマな学者とオタクだけが理解していればいいんです。そして国民は学者からエッセンスだけを教えてもらえばいいんです。

 

そしてそのエッセンスを、短い言葉で、8割くらいの正確さで、示したフレーズがこちらになります。

 

「税は財源ではない。」

 

"財源"とは?

ここで言葉の定義をしておきます。「税は財源ではない。」の"財源"とは何なのかをはっきりさせておきましょう。

「税は財源ではない。」について、これを間違いだと批判される方の多くは、この"財源"の定義が標語の意図するところとズレています。

 

私は、"財源"を"支出を可能にするもの"と定義するのがよいのではないかと思います。

つまり、「税は財源ではない」とは、すなわち「税は支出を可能にするものではない。」という意味だということです。

 

標語に込められた意味

「税は財源ではない。」には複数のメッセージが込められています。それらを1つずつ、以下に説明していきます。

もちろんこれは私の解釈なので、人によっては別のメッセージを読み取る人もいらっしゃると思います。

 

税と支出限界は無関係

まず、「税は支出を可能にするものではない。」という命題を素直に読み取ります。

「税が存在しなくても支出が不可能になることはない」し、もっと言えば「税収が増えたり減ったりしても、政府支出の限界はそれによって何の影響も受けない。」ということになり、

これをもうちょっと端的に言えば、

税収に関係なく、政府はいくらでも必要なだけのカネを支出できる。

ということになります。

詳しくはこちらの記事で解説しましたので、ご興味のある方はご覧いただけるとありがたいです。

xbtomoki.hatenablog.com

 

さて、ガースーがこんなことを言ってたそうですが・・・

www.okinawatimes.co.jp

これは明らかに誤りです。社会保障に必要なカネは国債として発行して作るものです。

なのに、こんなことを堂々と言ってしまう彼はバカなのか、嘘つきなのか、もしくはバカな嘘つきのどれかです。

バカなのであれば、早めに首相の座を降りていただきたいところですが、その前にくそのミルフィーユを解決しないと、残念ながら、次のくそが首相になるだけで意味がありません。

一方、もし嘘つきなのであれば、許せません。こんな秒でバレるウソを堂々とかましてくるわけですからね。「こいつらアホやし、こんな感じで言っとけばコロっと騙されてくるけーの、ほんま助かるわ」くらいに思ってるんでしょうね。

消費税を廃止しても社会保障が維持できなくなることはありません。「税は財源ではない」のです。

 

均衡財政神話と縁を切るべき

「政府は、毎年度の支出を税収の範囲内に抑えなければならない。」という均衡財政神話は、誰もが一度は聞いたことがあるんじゃないでしょうか。この神話に基づけば、税収によって政府支出の限界が決まりますので、たしかに「税は財源」だということになります。

この神話は、素朴な感覚でいくと、納得してしまいがちですが、実は大きな誤りです。なぜ誤りなのかは、次の疑問を解いていけば明らかにすることができます。

 

その支出を制限している"税収"の金額はいったいどのくらいなのでしょうか?

 

例えば、政府が前年度に100万円の税収が得られたとします。よって、神話が真実なのであれば、今年度の支出可能額は100万円です。

そこで政府は、ある民間企業Aに100万円の工事を発注して、代金を支払いました。

Aは社員に給与として90万円を支払いました。

社員たちは貯金をせずに給与を全額消費してしまいました。

さて、税収はいくらになるでしょうか。

  • 所得税を10%とすると、給与から9万円→社員に81万円が残る
  • 社員が81万円を全額消費したら消費税は10%なので、8.1万円
  • Aには10万円の利益が残りますので、法人税率を30%として、3万円

 ということで、税収は合計で20.1万円です。

減りました。

最初は100万円でしたけど、たった1年で1/5くらいにガクっと減りました。

そりゃあ税率が100%以下である限りは当然減ります。そしたら来年度は20万円でやっていきましょうか。そしたら4万円くらいに減るでしょう。どんどん減ります。無政府状態まっしぐらです。

均衡財政神話を信じる人々は"均衡によって持続可能性ガー"と言いがちですが、

逆です

均衡財政は完全に持続不可能です。

たしかに家計なら、メインの収入源である給与が、"支出の一部を回収する"という性質のものではありませんから、均衡財政によって持続可能性を高めることになります。

しかし、政府財政と家計は(全く違うとまでは言いませんが、)基本的に別物です。これをごちゃごちゃにして考えてしまう人を「素人考え」と言ってしまうのは失礼なので、一定の敬意を示すために私は"家計簿脳"と呼びます。

 

均衡財政神話は、家計簿脳の産物であり、全くの誤りであるどころか、私たちを無政府状態に導くものです。一刻も早く縁を切らなければなりません。「税は財源ではない」のです。

 

税は会費ではない

財務省のホームページにこんなことが書いてありました。

[税って何だろう] 税は会費のようなもの | 税の学習コーナー|国税庁

つまり税金は、みんなで社会を支えるための「会費」といえるでしょう。

全然違います。そしてこの発想は超が付くレベルで危険です。

 

税って何か?という疑問に対して、よくこんな説明をする輩がいます。

「国民みんなで税を出し合います。政府は集めたお金を社会の役に立つ事業に使います。例えば、道路を作ったり、公務員を雇ったりします。するとみんなの暮らしが平和で豊かになります。」

「みんなが平和に豊かな生活を送れるのは、みんなが税を負担して、支え合っているからです。」

ここまでで既に事実と全然違うんですが、まだ"危険"というレベルには至りません。これが次の理論にまで進むと一気に危険になります。

「税を支払うということは、社会を支える活動であり、立派な社会貢献です。」

これのどこが危険かと言うと、

「税を負担してない人は会費を払わずにサービスだけを受けている。社会のお荷物だ。排除するべきだ。」という思想に結び付きやすいのです。

そして"お荷物"扱いされる人たちとは、生活保護受給者・高齢者・専業主婦・子ども・・・と、いろんな人たちが対象になり得ます。

そして誰よりも真っ先にお荷物とされる人たちが"障がい者"です。

これが極端な形となって起きてしまった事件が

植松聖による相模原障がい者施設殺傷事件です。彼が語った犯行動機は下記リンクのとおり、

www.nikkansports.com

勝手ながら端的にまとめさせてもらうと、「お荷物のために国を沈ませてはいけない。」というものでした。

もちろん税を会費だと考える人は誰もが"お荷物を排除しろ"と考えるわけではないでしょう。そんな人はごくごく少数だと思います。(ツイッターやってると少数じゃないかもしれない…という気もしてきますが…)

しかし、「税は社会を支える会費だ。政府は税という名の会費を集めてみんなのために使っている」という理論は間違っている上に、突き詰めれば極めて危険な差別的思想に行き着く可能性さえ含みます。「税は財源ではない」のです。

 

ただの勘違い

ここで、政府財政の仕組みを順番に仕訳で見てみましょう。金額は適当です。

  1. 借入 預金|国債 100万円
  2. 支出 費用|預金 100万円
  3. 徴税 預金|税収 20万円
  4. 返済 国債|預金 20万円

→80万円の赤字収支で、国債80万円を翌年度へ繰越し

これが政府財政のサイクルです。これを毎年繰り返します。余談ですが、これを見て税は財源だと思う人がいるでしょうか。私は、少なくとも「財源=支出を可能にするもの」という私の定義に照らし合わせれば、とてもそうは思えませんが、言葉のセンスは人それぞれなので、そう思う人もいるかもしれませんね。

本題に戻ります。続いて、翌年度のサイクルを返済の直前まで進めてみましょう。

  1. 借入 預金|国債 100万円
  2. 支出 費用|預金 100万円
  3. 徴税 預金|税収 20万円

→80万円の赤字収支で、預金20万円と国債180万円を翌年度へ繰越し

 

さて、ここで勘のいい方は気づかれると思います。「いちいち返済する必要ある?最初の借入を20万円減らせば済むんじゃない?」と。

Exactly! そのとおりです。

何言ってんのか分かんないという方、大丈夫です。ちゃんと説明します。

 

まずは初年度のサイクルを3.徴税まで同じく進めて、4.の返済を省いてみましょう。預金は返済に使わずに翌年度に繰り越します。

  1. 借入 預金|国債 100万円
  2. 支出 費用|預金 100万円
  3. 徴税 預金|税収 20万円

→80万円の赤字収支で、預金20万円と国債100万円を翌年度へ繰越し

そして翌年度のサイクルは、預金が20万円繰り越されてるので、次年度は借入を80万円だけにしても2.支出は問題なくできます。

  1. 借入 預金|国債 80万円
  2. 支出 費用|預金 100万円
  3. 徴税 預金|税収 20万円

→80万円の赤字収支で、預金20万円と国債180万円を翌年度へ繰越し

 

上にスクロールしてみてください。全く同じことになってますよね。

最初のサイクルには、「20万円をいったん返して、また借りなおす」という全くムダなプロセスが含まれてます。それを省いたのが下のサイクルです。ムダなところを省いただけなので本質的に両者は同じものです。

ところが、初年度の徴税から翌年度の支出までのところだけをピックアップしてみましょう。

  1. 徴税 預金|税収 20万円
  2. 借入 預金|国債 80万円
  3. 支出 費用|預金 100万円

そうすると、こんなふうに見えませんか?

初年度の税収は20万円であった。しかし、予算は100万円で、財源が80万円足りない。そこで国債を80万円発行して、足りない財源を賄った。

しかし、それはただの"勘違い"です。「税は財源ではない」のです。

 

まとめ

「税は財源ではない。」

長々と書いてしまいましたが、このフレーズは本当に秀逸だと思います。これだけのメッセージをたった8文字で見事に表してしまっているわけですから。

"じゃあ、税は財源じゃないなら何なの?"っていう疑問を持たれた方は、こちらをどうぞ。

xbtomoki.hatenablog.com

 

 

それでは、本日これまで。