経理屋が読み解く『MMT入門』

『MMT入門』(L・ランダル・レイ,2019,東洋経済新報社)をベースにMMTを解説します。ときには自分の思うところを書き綴ったり。

4-6.財政赤字と国債金利 その3(日銀の国債金利操作)

本節では、財政赤字と貯蓄の関係、さらには財政赤字が準備預金と金利に与える影響を確認する。以下の議論は、一般的な性質に関するものである。

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当ブログは、こちらの複式簿記を説明した記事を読んでいただいている前提で書いています。未読の方は是非ご一読ください。 

xbtomoki.hatenablog.com

 

当ブログの中で「B払い」という用語を使うことがあります。これは私の造語なので、ググってもd払いが出てくるだけです。ただ、使わせてもらわないと不便極まりないので、普通に使います。

こちらの記事で"B払い"って何かを説明していますので、記事の途中で「B払いって何やねんな☹️」ってなったらご覧ください。

xbtomoki.hatenablog.com

  

当ブログは、私がこちらの書籍を読んで、理解したことや考えたことを記事にしたものです。

MMT現代貨幣理論入門

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目次 

 

シリーズのテーマ

前々回[4-4]から始めた"財政赤字国債金利"シリーズでは「財政赤字が増えると(減ると)、国債金利はどうなるか」をテーマに解説をしていきます。

ただ、答えは先に言っちゃいますが、

財政赤字がいくら増えようが減ろうが、国債金利はどうもなりません。上がりも下がりもしません。

これは財政赤字国債金利には関係が無いという意味ではありません。関係なくはないけど、結果的には、上がりも下がりもしないんです。これがどういうことなのかをシリーズで解説していきます。

 

前々回のおさらい

前々回記事[4-4]では、債券の金利と価格の恒等式を説明しました。ざっとおさらいすると、

債券金利=総支払額-債券価格

よって、

  • 債券の金利が上がる
  • 債券の価格が下がる

この2つは同じ意味です。

 

前回のおさらい

前回記事[4-5]では、株価が上下する仕組みを説明しました。これもざっとおさらいすると、

  • 指値注文と成行注文がある。
  • 指値の売り注文が高値側に、買い注文が安値側に貯まる。
  • 成行の買い注文は価格を上げて、売り注文は価格を下げる。(但し、貯まっている注文が全部捌けてしまうくらいの注文数が必要)

こんな感じなのですが、

本記事は前々回前回の内容を理解されてないと間違いなくちんぷんかんぷんなので、未読の方は、先にそちらを読んでから、再度本記事を読んでいただければと思います。

 

債券市場も株式市場も基本は同じ

株式が売買される株式市場というものがあるわけですが、債券が売買される債券市場というものもあって、さらに債券市場の中に国債が売買される国債市場も存在します。

実は、この国債市場で国債の価格が上下する仕組みも基本は株式市場と同じです。

板に売りと買いの指値注文が貯まり、成行注文が出されることで価格が上下します。

 

国債市場には日銀が参加できる

ただ、国債市場と株式市場には、決定的に違うところがあります。それは"国債市場には日銀が参加することがある"という点です。

この日銀が国債市場にやって来て国債を買う、という行為こそが[3-6]で解説した"買いオペ"であり、売るのが"売りオペ"です。

日銀は市場参加者として別格というか異次元の存在です。どこが異次元なのかと言うと、

  • B払いができる(資金力が無限)。
  • 大量の国債保有している。
  • 儲けることを目的にしていない。
 
いくらでも買える

[3-6]で解説した買いオペの仕訳はこうでした。

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このように、日銀は、日銀預金のB払いで国債を買います。

日銀以外の一般の市場参加者は、A払いで国債を買いますので、手持ちの資金が尽きたらそれ以上は買えませんが、日銀は国債をいくらでも高く、いくらでもたくさん買うことができるわけです。

 

いくらでも売れる

2020年9月現在で、日銀は国債の全発行残高のうち、48%Σ(゚д゚;) を保有しているそうです。

これは、実質的には無限に持ってるようなもんですから、日銀は国債をいくらでも売ることができます。(売値については、売り手はそもそも保有額に関係なく好きな値段を付けられます。)

参考:国債等関係諸資料 : 財務省

 

利潤を目的にしていない

一般の市場参加者が国債市場にやって来る目的は、国債を安く買って高く売り、カネ儲けをすることです。

ところが、日銀はカネ儲けなんかに興味がありません。日銀が国債市場にやって来る目的は、国債の市場価格を自分の思いどおりに操作することです。

 

日銀による国債価格操作

  • いくらでも買える
  • いくらでも売れる
  • 儲ける気がない
3拍子揃った日銀にとって、国債の市場価格を操作することは朝飯前です。

例えば、こういう板を300円に操作したければ…

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日銀は「300円でいくらでも買うし、いくらでも売る」という指値注文を出せばいいわけです。

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こうなると、どれだけ売りor買いの成行注文が出ても値段は300円から動きません。

 

実際は宣言するだけでいい

しかも、日銀は、実際には注文する必要すらありません。目標価格を宣言するだけで目標どおりの価格に市場を操作することができます。

例えば、日銀が「300円にします。」と言えば、

まず、売り手は、"必ず日銀に300円で売れる"と知っているので、【300円より安い売り注文】を出さなくなります。買い手だってそれを知っているので、絶対に約定しない【300円より安い買い注文】も出なくなります。

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続いて、買い手も、"必ず日銀から300円で買える"と知っているので、【300円より高い買い注文】を出さなくなります。やはり、売り手だってそれを知っているので、絶対に約定しない【300円より高い売り注文】も出なくなります。

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そして結局は300円の売り注文・買い注文しか出なくなり、日銀が宣言するだけで、国債価格は300円に固定されてしまいました。めでたしめでたし。
 

国債の価格操作は金利操作

債券の価格と金利恒等式

債券金利=総支払額-債券価格

より、国債の価格を操作するということは、国債金利を操作することと同義であり、日銀は実際には目標金利を決めて、そこから目標価格を逆算して、国債の市場価格をそこに固定します。

ということで、日銀は自分だけで(もしくは政府・財務省と相談して)勝手に「日本経済のためには国債金利はこれくらいが良いと思う。」とか決めちゃって、市場にやって来ては、規格外の豪腕、もしくは目標宣言によって価格を操作しては去っていくわけです。

一般の市場参加者にとっては、たまったもんじゃありませんが、日銀の参加が許されてる以上、国債市場ってのはそういうもんだと割り切るしかありません。

 

データを確認

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2016年9月に日銀は「10年物国債金利が概ね現状程度(ゼロ%程度)で推移するよう、長期国債の買入れを行う。」という長期金利目標を設定しました。(https://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/k160921a.pdfより)

それまでの10年物国債の相対金利は上下しながら2008年くらいからは下がり続ける一方でしたが、長期金利目標の設定後は見事にゼロ%程度で安定推移するようになりました。 

やはり国債金利は、日銀が決めたとおりになるし、日銀にはその能力と権限があるわけです。

 

結論

日銀は、

  • いくらでも買える
  • いくらでも売れる
  • 儲ける気が無い
という異次元の存在ですので、国債金利を思うがままにコントロールできます。よって、「いつか国債の価格が暴落して、金利が急騰するかもしれない。」みたいな心配には意味がありません。国債の価格・金利がどうなるかは日銀が決めます。その心配は「いつか日銀が日本経済を破壊しようとするかもしれない。」と言っているようなものです。

そんなくだらない心配をしてる暇があったら中国が日本を侵略してくるのを心配するべきですね。

 

補足1

もちろん日銀以外の市場参加者も国債の価格・金利に影響を与えることはできます。しかし、その影響は日銀がちょっと宣言しただけで吹き飛ぶ程度のものです。

 

補足2

本記事の説明は、国債が主権通貨建て(円建て)であることが前提です。

日銀にはドル建ての日銀預金を発行する権限がありませんので、もし、国債がドル建てだったら、B払いが効きません。すると、「いくらでも買う」が成立しなくなり、日銀のコントロール能力は失われます。

ギリシャなんかがユーロ建て国債金利をコントロールできなかったのは、ギリシャ銀行にユーロ建ての通貨を発行する権限が無く、B払いが効かなかったからです。

 

補足3

新規発行の国債は、国債市場ではなく、政府主催の入札で価格が決まります。

政府が「国債を発行するよー。入札でいちばん高く札を入れてくれた人に売るよー。」と公告するわけですね。実際にはもうちょっと複雑な手順を踏みますが、割愛します。

この入札には日銀は参加できません。なので、日銀のコントロールが及ばないような気がしそうですが、そんなことはありません。

というのは、例えば、

入札の時点で市場価格が日銀が決めた300円だったら、入札参加者は300円より高く応札する意味がありません(市場に行けば300円で売ってるものをわざわざ310円で落札する意味が無い)。

そこでA銀行が290円、B銀行が280円で応札して、A銀行が落札したとします。すると、敗れたB銀行は、次回の入札では、291円で落札します。その次は292円でA銀行が落札します。その次は293円で、その次は294円で、その次は・・・

このように、入札という仕組みは、必ず、いわゆる"底辺への競争"に突入します。この底辺への競争を回避するために生まれた知恵が"談合"です。そして最終的には299.999円とかになって、結局は日銀が決めた300円に落ち着きます。

 

 
それでは本日ここまで。

 

 

おまけ

今回のおまけはお勧めしない動画です。見なくていいです。


【経済討論】2021 どうなる?世界経済と日本[桜R3/1/2]

藤さん、他人が話してるときに割り込むのやめなよ。最後まで聞いてからにしな。どうしても割り込みたいなら、手ぇ上げて、司会者に許可されてから話し始める。そのくせ、他人が割り込もうとしたら断固拒否するし。小学生か。あと、いちいち話が長くて、何が言いたいのかわからん。水島さん、ちゃんと司会やって。

松田さん、デジタル人民元だとか松田プランだとか、訳が分からんのよ。松田プランて「いままで国債って呼んでたものを"デジタル円"って呼ぶことにします。」ってこと?それで何かが解決するの?なんで中国政府がドル建て通貨を発行し始めるの。そんなことやりだしたら戦争よ?と思ったら、日銀がペイペイの真似事を始めるとか言い出すし、中国が資本移動を自由化するとか言い出すし。

あとね、水島さん、「"武漢ウイルス"って言ったら広告はがされた。なんでだ。」いやいやいや、なんでって・・・武漢ウイルスって言うからやろ。ぼけとん?どうしても言いたいなら、言ったらええけど、そこってそんなに大事なとこかい?

 

 

日本人は本当はもっと豊かになれます。そのためにはもっと多くの人々が貨幣と経済の仕組みを理解しなければなりません。

私たちが、そして次世代の子供たちが、貧困に怯えずに暮らせる日本を目指しましょう。

 

‪最後まで読んでいただき、ありがとうございます^^

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