経理屋が読み解く『MMT入門』

『MMT入門』(L・ランダル・レイ,2019,東洋経済新報社)をベースにMMTを解説します。ときには自分の思うところを書き綴ったり。

7-4.政府は赤字であるべきだ

さらに、(クリントン政権時代のような)政府の財政黒字は偉業として称賛されるようなことではないと認識すべきであるー政府の財政黒字とは恒等式の産物であって、その意味するところは民間部門の赤字である(経常収支黒字の国の場合を除く)。民間部門は、通貨を発行する主権者とは異なり、通貨の利用者である。民間部門は現実に予算制約を受ける。

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当ブログは、こちらの複式簿記を説明した記事を読んでいただいている前提で書いています。未読の方は是非ご一読ください。 

xbtomoki.hatenablog.com

 

当ブログの中で「B払い」という用語を使うことがあります。これは私の造語なので、ググってもd払いが出てくるだけです。ただ、使わせてもらわないと不便極まりないので、普通に使います。

こちらの記事で"B払い"って何かを説明していますので、記事途中で「B払いって何やねんな☹️」ってなったらご覧ください。

xbtomoki.hatenablog.com

  

当ブログは、私がこちらの書籍を読んで、理解したことや考えたことを記事にしたものです。

MMT現代貨幣理論入門

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目次 

 

[7-1]のおさらい

(´・ω・ `)<さて、今回もまずは[7-1]のおさらいから行こか。

( ゚д゚)<主権通貨国の政府は、B払いができるから、カネはいくらでも作れる。いくらでも作れるんやからいくらでも払える。せやから、財政政策・金融政策をどうするべきか考えるときに財源不足とか債務残高増加とかは気にせんでええ。

(´・ω・ `)<話が早いの。助かるわ。

( ゚д゚)<あのさ。

(´・ω・ `)<お?どしたん?

( ゚д゚)<これさ、[5-1]"税は財源ではない"ってのと言っとること同じちゃう?

(´・ω・ `)<おお、そのとおりや。ええとこに気づいたの。

( ゚д゚)<えっへん。

ヽ(´・ω・ `)<よしよし。

 

本日のお題

(´・ω・ `)<"家計簿脳のパラドックス"って知っとるけ?

( ゚д゚)<かけいぼのうのぱらどっくす?なんやそれ。知らんわ。

(´・ω・ `)<まあ、ぼくがいま考えた名前やからな。知らんのもしゃーないわ。

( ゚д゚)<しばくぞ。

(´・ω・ `)<まあまあ、名前はいま考えたけど、中身はきみも絶対聞いたことある有名なやつやで。"家計簿脳"は分かるな?

( ゚д゚)<家計簿脳は分かるよ。財政の議論をなんでもかんでも家計に例えて考えちゃう思考回路のことやろ。政府はカネをいくらでも作れるけど、家計はそんなことできひん。財政と家計は、根本的に仕組みが違うんよ。せやから財政を考えるときに「もしこれが家計だったら~」とか言っても何にも意味なんかあらへん。なのに、(゚⊿゚)<去年の税収はおよそ57兆円で、いま現在の債務残高は1000兆円です!もしこれが家計だったら確実に破綻しています!とか言うやつやろ。(゚⊿゚)<彼の体重は60kgです!もしこれが赤ちゃんだったら超肥満児です!と言っとること同レベルやで。

(´・ω・ `)<まあ、だいたいそんな感じや。パラドックスは分からんな?

( ゚д゚)<分からんけど、その聞き方はむかつくな。

パラドックス(paradox)とは、正しそうに見える前提と、妥当に見える推論から、受け入れがたい結論が得られる事を指す言葉である。

パラドックス - Wikipedia

( ゚д゚)<なるほど。分からん。

(´・ω・ `)<例えばやな、有名なのは「アキレスと亀パラドックス」や。

( ゚д゚)<なんやそれ。

(´・ω・ `)<えとな、昔々、ギリシャ人のアキレスさんが亀と200m競争をしました。

( ゚д゚)<なんでいきなりおっさんと亀の200m競争が始まんねんwwおかしいやろwwww

(´・ω・ `)<黙って聞きんしゃい。

( ゚д゚)<うい。

(´・ω・ `)<ガチンコだと勝負にならないので、アキレスさんは亀に100mのハンデをあげました。

( ゚д゚)<アキレスさんwwwなんで亀とフェアな勝負しようとしとんのwwwww亀さんもええ迷惑やがなwwどないなっとんねんwwwwwww

(´・ω・ `)<黙って聞きんしゃい。

( ゚д゚)<うい。

(´・ω・ `)<よーいどん。アキレスさんが100m地点まで進んだとき、亀は1mしか進んでいませんでした。

( ゚д゚)<そらそうやろwwww圧倒的ハンデ不足wwもう亀さんかわいそうやてwww解放してあげてwwwwwww

(´・ω・ `)<にゃー!
( ゚д゚)<にゃー!

(´・ω・ `)<ところが、なんということでしょう。アキレスさんが亀のいる101m地点まで進んだとき、亀はもうちょっと先まで進んでいたのです。さらにアキレスさんが進んだときも、やはり亀はもうちょっと先に進んでいます。アキレスさんはいつまで経っても亀に追いつけませんでした。めでたしめでたし。

( ゚д゚)<なるほど。分からん。

(´・ω・ `)<分かってくれや。先に進めへん。

( ゚д゚)<そか。じゃあ分かった。

(´・ω・ `)<それもなんか違うねんけどな。要するに、ぱっと見は正しいことを言っとるようやけど、よくよく考えたらおかしなこと言っとるのをパラドックスって言うんや。

( ゚д゚)<初めからそう言ってや。それの方が分かりやすいわ。いきなりおっさんと亀がかけっこをしましたとか言われても訳が分からんわ。訳が分からないよなおじさんが出るで。

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(´・ω・ `)<出てこんでええからww

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(´・ω・ `)<出てこんでええて。ほいで、↓これが"家計簿脳のパラドックス"や。

(゚⊿゚)<民間部門は日夜懸命に努力して黒字を達成している!政府もこれを見習って、財政黒字化の努力をするべきだ!

( ゚д゚)<ああ、これね。

ということで、本記事では、まずこの家計簿脳のパラドックスのどこが破綻しているかを説明したいと思います。

そこから続きまして、前回[7-3]「機能的財政論は、《民間部門における実物資源の過不足を最小にする》ことを目標としていて、その結果、政府収支が均衡だろうが赤字だろうが黒字だろうが、気にしない。」と説明しましたが、これは少し修正されるべきかもしれない、という話をしたいと思います。

(´・ω・ `)<よろしゅう。

( ゚д゚)<にゃー!

(´・ω・ `)<にゃー!

 

家計簿脳のパラドックス

マクロ会計の恒等式

均衡財政論者が家計簿脳のパラドックスに気づけない根本の理由は、[1-4]で解説したマクロ会計の恒等式を無視していることにあります。

ここでマクロ会計の恒等式を復習しておきましょう。

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マクロ会計の恒等式からは、次のことが言えます。

  • 政府部門・民間部門・国外部門が全て黒字になることはできない。
  • 式を変形すると、《民間部門収支=経常収支-政府部門収支》なので、民間部門が黒字になるか赤字になるかは経常収支と政府収支のどちらが大きいかで決まる。経常収支が大きな黒字であるほど、または政府収支が大きな赤字であるほど、民間収支は大きな黒字になる。

 

財政黒字化は民間赤字化である

ここで日本の財政収支のデータを見てみます。

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1990年前後のいわゆるバブル期を除いて、ずっと赤字です。

これを均衡財政に持っていくべきだと言うわけですから、それは、

  • 政府が民間部門から受け取る税収を増やす。
  • 政府から民間部門への支出を減らす。

このどちらかもしくは両方によって、政府収支を黒字化するべきだという意味になります。

但し、これは逆に民間部門側の視点から見れば、

  • 政府へ支払う税が増える。
  • 政府から得る収入が減る。

ということになります。これは民間部門収支が赤字化することを意味しますから、つまり、政府部門の黒字化政策は、同時に民間部門の赤字化政策でもあるわけです。

 

家計簿脳のパラドックスは破綻している

さて、ここでもう一度、家計簿脳のパラドックスを見直してみましょう。

(゚⊿゚)<民間部門は日夜懸命に努力して黒字を達成している!政府もこれを見習って、財政黒字化の努力をするべきだ!

繰り返しますが、この理屈は破綻しています。政府が財政黒字化の努力をするほどに、民間部門は赤字に傾いてゆき、「民間部門は黒字を達成している」という前提が崩れ、政府にとってのお手本から反面教師に成り下がっていくからです。

また、民間部門が努力をしていないとは言いませんが、そもそも民間部門が黒字でいられるのは、努力をしているからではありません。《経常収支-政府収支》の値がゼロより大きいからです。

 

政府は財政赤字を維持するべきだ

民間部門の赤字の持続可能性

もちろん均衡財政論者が何から何まで間違えているわけではありません。前回記事[7-3]で均衡財政論者が言っていた↓これはまさしく真理です。

(゚⊿゚)<家計や企業が収入よりたくさんの支出を続けてたら破綻するじゃろ!

民間部門は、企業にしろ家計にしろ、いくらでも赤字を引き受けることはできません。

赤字とは、収入より多くの支出をすることであり、通常は貯蓄を減少させます。貯蓄が減り続けて、無くなってしまったら、今度は負債を積み上げることになります。負債が返済不可能な額まで積み上がったとき、企業や家計は破綻します。つまり、民間部門の赤字は持続可能ではありません。

 

民間部門の黒字の必要性

また、実物資源の適切な分配のためには、民間部門がある程度の黒字でなければいけません。

[4-2]のとおり、民間部門が全体として均衡収支または赤字であるのに、ある国民が自分だけは黒字になろうとすれば、自分以外の誰かを赤字に叩き落さなければなりません。そしてこの仁義なき戦いは、金持ちが有利なので、進行するほどにどんどん格差が開きます。

格差が拡大すると、消費が減り、共同体意識が弱体化し、治安や安全保障の面にも良くない影響を与え、なにより機能的財政論が目標とする実物資源の適切な分配を民間部門内部において阻害します。

もちろん、1円でも黒字でさえあればOKというわけではありません。黒字は、民間部門の全員が他者から奪わなくても満足できるくらいの十分な大きさである必要があるでしょう。

 

政府部門の赤字の持続可能性

一方、政府の赤字は持続可能です。冒頭のおさらいのとおり、税は財源ではないからです。主権通貨国の政府は、いくら主権通貨建ての負債が積み上がっても永久に返済不可能になりません。

 

まとめ

ここまでの内容を箇条書きにしてみます。

  • 財政黒字化政策は、民間赤字化政策でもある。
  • 民間部門の赤字は持続不可能である。
  • 民間部門が十分な黒字でないと、格差が開き、機能的財政論の目標達成が阻害される。
  • 政府の赤字は持続可能である。
こうやって見ると、「政府は、基本的には、むしろある程度の財政赤字であるべきである。その赤字の額は、少なくとも民間部門の内部において実物資源が適切に分配される程度の黒字を民間部門が達成できるような額でなければならない。」と私には思われます。
たしかに、政府部門と民間部門との間で実物資源のバランスを取るためには、財政赤字か財政黒字かは、おそらくどうでもいい問題なのでしょう。しかし、民間部門の内部でバランスを取るには民間部門が十分な大きさの黒字である必要があり、そのためには一定の財政赤字が必要なのではないかと思います。
 

 

それでは本日ここまで。

 

 

 

おまけ

( ゚д゚)<ところでよ、なんでアキレスさんはいつまでたっても亀に追いつけへんのや。

(´・ω・ `)<え?ああ、せやな、例えばアキレスさんが最初の100mを走るのに10秒かかってたとしよう。アキレスさんの速さは秒速10mってことやな。その10秒間で亀が進んだのは1mやから、亀のスピードは秒速0.1mや。↓こういう計算になるわけやな。

  • アキレス:10m/秒
  • 亀:0.1m/秒

( ゚д゚)<ほんほん。

(´・ω・ `)<ほいじゃあアキレスさんがさらに1m進むには何秒かかるかな?

( ゚д゚)<0.1秒!

(´・ω・ `)<0.1秒で亀は何m進む?

( ゚д゚)<0.01m!

(´・ω・ `)<アキレスさんが0.01m進むには何秒かかる?

( ゚д゚)<0.001秒!なんかどんどん短くなるの。

(´・ω・ `)<せや、そこがインチキのタネや。このネタは考えとる時間を実はこっそりめちゃくちゃ短くしとるんや。いつまで経っても追いつけへんのやなくって、全然時間が経ってへんから追いつけへんねん。

( ゚д゚)<なるほど、分からん。

(´・ω・ `)<にゃー!

( ゚д゚)<にゃー!

 

 

 

日本人は本当はもっと豊かになれます。そのためにはもっと多くの人々が貨幣と経済の仕組みを理解しなければなりません。

私たちが、そして次世代の子供たちが、貧困に怯えずに暮らせる日本を目指しましょう。

 

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