経理屋が読み解く『MMT入門』

『MMT入門』(L・ランダル・レイ,2019,東洋経済新報社)をベースにMMTを解説します。ときには自分の思うところを書き綴ったり。

番外4-7.インフレに関する考察 その7

 

本記事はMMT解説ではありません。私がMMTをベースに理屈をこねくり回して考えたことを記事にしたものです。


当ブログは、こちらの複式簿記を説明した記事を読んでいただいている前提で書いています。未読の方は是非ご一読ください。 

xbtomoki.hatenablog.com

 

当ブログの中で「B払い」という用語を使うことがあります。これは私の造語なので、ググってもd払いが出てくるだけです。ただ、使わせてもらわないと不便極まりないので、普通に使います。

こちらの記事で"B払い"って何かを説明していますので、記事途中で「B払いって何やねんな☹️」ってなったらご覧ください。

xbtomoki.hatenablog.com

  

目次 

 

本シリーズのお題

「インフレ・デフレがどういう仕組みで起きるのかがよく分からない。」

これが長いこと私の悩みのタネでした。

三橋貴明さんがよくこの図↓を使って「需要が供給より大きくなればインフレに、逆ならデフレになる。」と言われます。

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新世紀のビッグブラザーへ データ44

インフレデフレは需要と供給のバランスによって起こり、バランスが需要の方に傾いたときにはインフレが起こる。

たしかにそうです。実際にもそうなってますし、それは分かってるんです。

ただ、私がよく分からんと言ってるのは、そのもう一歩先というか、手前というか、「なんで需給バランスが需要側に傾いたら物価が上がるのか」ということなんです。

 

MMT現代貨幣理論入門を読みました。
需給バランスによって起こると書いてありました。

財政赤字の神話: MMTと国民のための経済の誕生も読みました。
需給バランスによって起こると書いてありました。

マンキュー マクロ経済学Ⅰ入門篇(第4版)も読みました。
紙幣をいっぱい刷ったらインフレが起きると書いてありました。ハイハイワロスワロス

 

仕方がないので、自分で考えてみることにしました。その考えが多少なりともまとまったので、ここで書いてみることにしました。もしよろしければ、感想や指摘等をいただけたらありがたいです。

ただ、とても長くなりそうなので、「インフレに関する考察」シリーズということで、数回に記事を分けようと思います。5本以上になりそうです。

ということで、シリーズ7本目やっていきましょう。よろしくお願いします。

 

前回までのまとめ

前回までのまとめを確認しておきます。

  • 《インフレ》とは、「任意の財・サービスの価格が上昇すること」である。なお、上昇するのは価格であって、価値ではないことに注意されたい。
  • 《価格》は、できるだけ安く買いたい買い手と、できるだけ高く売りたい売り手が、互いに交渉して、折り合いが付いた値段のことである。つまり、価格とは、人と人との売買交渉の合意点である。
  • 価格と価値の関係性はかなり薄い。価格が価値とは関係なく上下することはいくらでもある。
  • 価格は、人と人の合意さえあれば、何にでも、いくらでも付けることができる

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  • 価格の上昇は、良い買い手が多い【売り手有利】の状況、または良い売り手が少ない【買い手不利】の状況で起きる。

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  • 需給バランスが需要側に偏ることによってインフレが生じる仕組みは、次の図のとおりである。

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  • インフレ・デフレの本質は、需給バランスではなく、買い手側・売り手側それぞれの《競争》のバランスにある。
  • 要因は、需給バランス以外にも無数にあるが、その影響は買い手(売り手)の競争促進(競争阻害)の4パターンに集約できる。
  • 買い手の競争促進と売り手の競争阻害は価格上昇圧力になり、買い手の競争阻害と売り手の競争促進は価格下落圧力になる。
  • 上昇圧力と下落圧力が同時にかかり、大きい方の影響だけがインフレまたはデフレという目に見える現象として現れる。

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  • 株価以外の普通の財・サービスについても、プライスボードで価格変動を説明することができる。

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本日のお題

(´・ω・ `)<続いてはこちら、いってみよか。

【「今後、日本は人口が減少していくんだから、需要は伸びていかない。需要が伸びないんだからデフレが続き、インフレは起きない。」という脱成長論を否定したい】

( ゚д゚)<ん?前回、「政府はバンバン高値買いして、ハイパーインフレを起こすことができるよ。」って言うてたやん。ハイパーが起こせるんやから、普通のインフレやったら、政府がその気になったら人口とか関係なしにちょちょいなんちゃうか?

(´・ω・ `)<いえす!ざっつらいと!

( ゚д゚)<おお、2つめは簡単やったの。

(´・ω・ `)<まあ、こんだけじゃあ寂しいけー、政府がどう"その気"になったらええんかっちゅう話をしとこか。

 

必要なのは能力ではなく意思

価格の本質は、人と人との合意です。

価格は、互いに意思を持った人と人が作るものですから、ひとりでに上がったり下がったりはしません。

何らかの財・サービスの価格が例えば2%上がるためには、「その財・サービスを2%高い値段で買う」という意思と能力を持った"誰か"がいなければならないわけです。

 

政府・日銀の2%インフレ目標

さて、政府と日銀は、物価について「消費者物価の前年比上昇率2%」という目標を2013年に定めているわけですが、この目標が達成されたのは、2014年に消費税が5%→8%に増税されたときだけです。*1

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この【何年もインフレ目標が達成されず、達成に近づく気配もなく、最近はむしろ達成から遠ざかる】という状況に関する日銀の見解がこちらです。*2

(゚⊿゚)<コロナが収まれば改善されると思います。

( ゚д゚)<なめとんか。
(´・ω・ `)<バカにすんのもたいがいにせえよ。

2013年から全然目標が達成されてないっちゅうとんねん。コロナ前からbadだったのがコロナでvery badになっただけなんやから、コロナが収まっても、badに戻るだけでしょうが。

断言します。コロナが収まったからといって、2%のインフレ目標は達成されません。賭けてもいい。

 

インフレ目標達成に必要なもの

2%のインフレ目標達成に必要なのは、コロナの終息ではなく、「2%高い値段で買う」という意思と能力を持つ"誰か"です。

少し極端なことを言えば、

(゚⊿゚)<日本中の商品を相場の2%増しでいくらでも買い上げます。

"誰か"が約束して、実行すれば、その瞬間に2%インフレ目標は達成されます。

そして、[7-1]のとおり、日本政府は、いくらでも支出する能力がありますから、あとは意思さえ持てば、いつでも、その"誰か"になることができます。

インフレ目標が達成できていないのは、政府に"誰か"になる能力が無いからではありません。問題は、政府に"誰か"になろうとする意思が無いことなんです。

 

税は財源ではない

主権通貨国の政府が何らかの支出が"できない"と言うとき、不足しているのは常に、支出する能力ではなく、支出する意思です。

インフレ目標の問題に限ったことではありませんが、財務省や主流派経済学者や政治家や国民の多くは、「意思はあるのに能力が無いんだ」と事実を全く逆に捉える勘違いをしてしまっています。

その結果、

(゚⊿゚)<政府は○○という政策を実行したいと思っているが、財政が厳しいから、やりたくてもできないんだ。仕方ないよ。残念だけど、国民は我慢するか、増税を受け入れるか、どちらかを選ばないといけない。

とかいう、もはや勘違いを通り越した、ただのウソが常識かのようにまかり通るという悲劇まで起きています。

 

やはり【主権通貨国の政府は、いくらでも支出することができる】=【税は財源ではない】という根本的な事実が理解されてないことが諸悪の根源なんでしょう。これが分かっていないがために数多くの政策決定・世論形成がおかしなことになっているんだろうと改めて思います。

それなのに、いままでなんとかやれて来れたのは、( ゚д゚)<カネ無いとか言うても、困っとる人がおるんじゃけー、なんとかせんとあかんやろ!とりあえずカネ出しとこうや!クニノシャッキンとか後でなんかうまいことやったらええんよ!目の前に困っとる人がおるやんか!四の五の言っとるひまちゃうで!という素朴な人情が力を持っていたおかげで、たまたまうまくいってたのかもしれません。

それが新自由主義と自己責任論が幅を効かせるようになり、社会から人情が排除されてきた結果、勘違いだけが残ってしまった、ということなんじゃないでしょうか。

 

政府が行うべき政策

さて、インフレの話に戻りましょう。

政府には2%のインフレ目標をいつでも達成できる能力があります。にも関わらず、いまだにインフレ目標が達成されないのは、政府に達成しようとする意思が無いからです。

(゚⊿゚)<日本中の商品を相場の2%増しでいくらでも買い上げます。は、さすがに極端で弊害も小さくなさそうですが、政府は少なくとも、
( ゚д゚)<公共事業の入札予定価格・最低価格は毎年2%上げていきます。
とか
( ゚д゚)<公務員の賃金を毎年2%上げ続けます。
くらいのことはやるべきです。

毎年「民間の賃金が下がったのに合わせて公務員の賃金を下げなくっちゃ」とかいう人事院勧告が出てますけど、逆やっちゅうねん。公務員の賃金を下げるから民間の賃金が下がっとんのや。なんで何から何まで原因と結果を逆にとらえちゃうの?わざとやってるの?それともバカなの(´・ω・ `)?

2%のインフレを目指してるんだから、せめて自分たちが買っているものくらいは2%増しで買わないと話になりません。そうでないと、自分で自分の足を引っ張ることになります。

ところが、実際には何をやってるかと言えば、

(゚⊿゚)<ムダを減らしてデフレ脱却!
(゚⊿゚)<構造改革でデフレ脱却!
(゚⊿゚)<規制緩和でデフレ脱却!

( ゚д゚)<いったいどういう仕組みでそれがデフレ脱却につながるんや。

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( ゚д゚)<ほんまやで。今日は訳が分からないよなおじさんも心なしか悲しそうな顔してはるわ。

 

インタゲ理論について

続きまして、「インフレ率の目標(ターゲット)を定めて、それを達成して、デフレ脱却をすることが最重要なんだ。」という、いわゆるインタゲ理論(ターゲットは2%とするべきという方が多い印象です)についての私見というか批判を少し述べようと思います。

 

「とにかくインフレ目標達成を目指すべきなんだ」というのは…なんというか、もちろんデフレの悪影響は理解してるつもりですし、デフレ脱却を目指すことを間違ってると言うつもりは全くないのですが…

要するにですね、目的と目標を取り違えてないでしょうか。デフレ脱却が目的になってませんか?目的と目標の違いについては[8-1]をご覧ください。

上記のとおり、2%インフレ目標なんてのは、

(゚⊿゚)<日本中の商品を相場の2%増しでいくらでも買い上げます。その商品が財なら買ったらすぐ燃やして捨てます。サービスならやったことにするので、実際にはやらなくていいです。ああ、お金はちゃんと払いますよ。安心してください。

と政府が宣言すれば、秒で達成できるわけですが、こんなことをしても物価が上がるだけで何の意味もありません。

まーこれはさすがにちょっと極端な例ではありますが、インフレターゲットを至上命題にしてしまえば、こんなのでもよしとされてしまいます。

やはり忘れてはならないのは、経済政策の目的は、国民生活向上であるということです。

インフレ目標は、あくまでその国民生活向上という目的のための目標に過ぎませんから、「それが最重要なんだ。」というのは、ちょっと違うんじゃないでしょうか。

 

 

それでは本日ここまで。

 

 

おまけ

インタゲ理論批判のついでに高井たかし議員が主張されてる「インフレ率2%達成まで国債を発行するべきだ。」という主張についても批判しておきたいと思います。

結論から言います。

財務省と本気でケンカしたいんだったら、もっとちゃんと財政の仕組みを勉強してください。中途半端な聞きかじった程度の知識と威勢の良さだけでは勝ち目はありません。

とりあえず"積極財政"とか、"財務省ガー"とか言っとけば、一部からチヤホヤしてもらえて、オタサーの姫になれて、気持ちよくなれる。それがやりたいだけなんだ、ってんなら、もう別にそれで結構です。好きにされてください。

ですが、せっかく消費税ゼロを主張されてる貴重な議員さんなので、私だって本当は批判より応援をしたいと思っています。そのためにも、いまは忌憚なく批判したいと思います。

 

で、「インフレ率2%達成まで国債を発行するべきだ。」のどこが問題なのかと言いますと、

[4-7]のとおり、国債は政府支出の結果として生まれた日銀当座預金を回収するために発行されるものです。

ですので、【インフレ率2%達成まで国債発行】って、致命的に意味不明なんですよ。

国債を発行してマネーストックを増やして、インフレ率を上げる」って意味なんだとしたら、それって、まんま貨幣数量説です。

インフレ率を上げるために必要なのは、高値買いをする意思と能力を持つ"誰か"です。マネーストックが増えることは、"誰か"が生まれるきっかけになるかもしれませんが、マネーストックの増加が直接にインフレを起こすわけではありません。

 

さらに、そもそも国債発行でマネーストックは増えません。

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マネーストックを増やすのは、政府支出です。

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それから、政府財政のおおまかな仕組みは、こうです。

  1. 短期証券を発行してカネを作る。
  2. 支出する。
  3. 国債を発行して、準備預金を回収する。
  4. 回収した準備預金で短期証券を償還する。
  5. 徴税する。
  6. 1.に戻る。但し、徴税した分だけ短期証券発行を減らす。

しっかり理解されて、理論武装した上で財務省をやっつけて、消費税ゼロを実現してください。よろしくお願いします。

詳しくは、拙ブログ第4章をご覧ください。

 

以上。

 

 

日本人は本当はもっと豊かになれます。そのためにはもっと多くの人々が貨幣と経済の仕組みを理解しなければなりません。

私たちが、そして次世代の子供たちが、貧困に怯えずに暮らせる日本を目指しましょう。

 

‪最後まで読んでいただき、ありがとうございます^^

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