経理屋が読み解く『MMT入門』

『MMT入門』(L・ランダル・レイ,2019,東洋経済新報社)をベースにMMTを解説します。ときには自分の思うところを書き綴ったり。

番外4-8.インフレに関する考察 その8

 

本記事はMMT解説ではありません。私がMMTをベースに理屈をこねくり回して考えたことを記事にしたものです。


当ブログは、こちらの複式簿記を説明した記事を読んでいただいている前提で書いています。未読の方は是非ご一読ください。 

xbtomoki.hatenablog.com

 

当ブログの中で「B払い」という用語を使うことがあります。これは私の造語なので、ググってもd払いが出てくるだけです。ただ、使わせてもらわないと不便極まりないので、普通に使います。

こちらの記事で"B払い"って何かを説明していますので、記事途中で「B払いって何やねんな☹️」ってなったらご覧ください。

xbtomoki.hatenablog.com

 

目次 

 

本シリーズのお題

「インフレ・デフレがどういう仕組みで起きるのかがよく分からない。」

これが長いこと私の悩みのタネでした。

三橋貴明さんがよくこの図↓を使って「需要が供給より大きくなればインフレに、逆ならデフレになる。」と言われます。

f:id:xbtomoki:20210703170843j:image
新世紀のビッグブラザーへ データ44

インフレデフレは需要と供給のバランスによって起こり、バランスが需要の方に傾いたときにはインフレが起こる。

たしかにそうです。実際にもそうなってますし、それは分かってるんです。

ただ、私がよく分からんと言ってるのは、そのもう一歩先というか、手前というか、「なんで需給バランスが需要側に傾いたら物価が上がるのか」ということなんです。

 

MMT現代貨幣理論入門を読みました。
需給バランスによって起こると書いてありました。

財政赤字の神話: MMTと国民のための経済の誕生も読みました。
需給バランスによって起こると書いてありました。

マンキュー マクロ経済学Ⅰ入門篇(第4版)も読みました。
紙幣をいっぱい刷ったらインフレが起きると書いてありました。ハイハイワロスワロス

 

仕方がないので、自分で考えてみることにしました。その考えが多少なりともまとまったので、ここで書いてみることにしました。もしよろしければ、感想や指摘等をいただけたらありがたいです。

ただ、とても長くなりそうなので、「インフレに関する考察」シリーズということで、数回に記事を分けようと思います。5本以上になりそうです。

ということで、シリーズ8本目、やっていきましょう。よろしくお願いします。

 

前回までのまとめ

前回までのまとめを確認しておきます。

[番外4-1]より

  • 《インフレ》とは、「任意の財・サービスの価格が上昇すること」である。なお、上昇するのは価格であって、価値ではないことに注意されたい。
  • 《価格》は、できるだけ安く買いたい買い手と、できるだけ高く売りたい売り手が、互いに交渉して、折り合いが付いた値段のことである。つまり、価格とは、人と人との売買交渉の合意点である。
  • 価格と価値の関係性はかなり薄い。価格が価値とは関係なく上下することはいくらでもある。
  • 価格は、人と人の合意さえあれば、何にでも、いくらでも付けることができる

f:id:xbtomoki:20210705145223p:plain

 

[番外4-2]より

  • 価格の上昇は、良い買い手が多い【売り手有利】の状況、または良い売り手が少ない【買い手不利】の状況で起きる。

f:id:xbtomoki:20210708143350p:plain

 

[番外4-3]より

  • 需給バランスが需要側に偏ることによってインフレが生じる仕組みは、次の図のとおりである。

f:id:xbtomoki:20210712112551p:plain

 

[番外4-4]より

  • インフレ・デフレの本質は、需給バランスではなく、買い手側・売り手側それぞれの《競争》のバランスにある。
  • 要因は、需給バランス以外にも無数にあるが、その影響は買い手(売り手)の競争促進(競争阻害)の4パターンに集約できる。
  • 買い手の競争促進と売り手の競争阻害は価格上昇圧力になり、買い手の競争阻害と売り手の競争促進は価格下落圧力になる。
  • 上昇圧力と下落圧力が同時にかかり、大きい方の影響だけがインフレまたはデフレという目に見える現象として現れる。

f:id:xbtomoki:20210715091244p:plain

 

[番外4-5]より

  • 株価以外の普通の財・サービスについても、プライスボードで価格変動を説明することができる。

f:id:xbtomoki:20210719105931p:plain

 

本日のお題

(´・ω・ `)<続いて3つめ、いってみよか。

【賃金が全く増えない問題を政策的に解決できないか】

まず、基本的なところを抑えておきましょう。

  • 《賃金》とは労働というサービスの価格である。
  • 労働市場において、買い手=企業(資本家)であり、売り手=労働者である。

これにいままで考察してきた理論を当てはめて、どんな政策なら賃金を上げることができるかを考えてみたいと思います。

 

賃金上昇に必要な条件

[番外4-6]のとおり、価格上昇には、次の2通りのルートがあります。

  • 買い手の競争促進
  • 売り手の競争阻害

 

買い手の競争促進による賃金上昇

買い手の競争促進による価格上昇とは、

( ゚A゚)<ぼくの方が高く買うよ。
( ゚B゚)<いやいや、ぼくの方が高く買うよ。

と、買い手同士が競争することによる価格上昇です。

これを賃金に当てはめれば、企業同士が労働者を集めるために好待遇を競うことによって賃金が上がっていくような状況です。こうなるためには、仕事の受注が増えて、人手不足になる必要があります。

f:id:xbtomoki:20210805153749p:plain

 

売り手の競争阻害による賃金上昇

売り手の競争阻害による価格上昇とは、

( ゚д゚)<140円なら売ってやってもええで。

(´・ω・ `)<えっ、130じゃダメ?

( ゚д゚)<いまどき130で売るやつなんかおらへんで。世間知らずか。プークスクス。

(´・ω・ `)<どうせハッタリやろうけど、そんなに言うなら調べてこよか・・・ふんふん・・・なるほど、ほんまやな。

( ゚д゚)<ほれ見ろ。プークスクス。

(´・ω・ `)<しゃーない、140で頼むわ。あとプークスクスやめろ。しばくぞ。

と、安い売り手がいなくなることで値段が吊り上がり、買い手がそれを受け入れることによる価格上昇です。

これも賃金に当てはめると、低賃金での労働を容認する労働者がいなくなることで、企業は高値でしか労働者を雇えなくなって賃金が上昇するような状況です。こうなるためには、非正規労働者等の"安い"労働者が減る(労働市場から退出する)必要があります。

f:id:xbtomoki:20210805153848p:plain

なお、"安い"という表現に貶める意図はありません。いろいろ考えたのですが、他に分かりやすい表現が見つからなかったもので・・・

 

労使交渉への影響

上記は、企業が新しく労働者を雇う(増員する)ときを想定した議論ですが、新規採用者の賃金増は、労使交渉において、↓このように労働者側に有利な交渉材料となりますので、既存労働者の賃金にもプラスに作用します。

( ゚д゚)<こないだ入った新人さんの賃金、140らしいな。なんでぼくは130なん?おかしいやないか。

(´・ω・ `)<新人さんは新人さん。きみはきみや。関係ないじゃろ。

( ゚д゚)<ほー、そういうこと言う。ええんやで?よそに行きゃあ、ぼくを140で雇ってくれるとこはいくらでもあるんじゃけーの。

(´・ω・ `)<んー、分かった。きみも140にしよう。

 

政府にできること

さて、というわけで、賃金上昇を実現するには、次の2つの方法があることが分かりました。

  • 仕事を増やす。
  • "安い"労働者を減らす。

そしたらば、それぞれを達成するために政府には何ができるかを考えていきましょう。

 

仕事を増やす

これは簡単です。政府がたくさん仕事を発注すればいいんです。

政府が仕事を発注すれば、仕事は増えます。そのときには、政府支出が増えることになるでしょう。

なお、政府支出が増えるのは、あくまで結果であって、【政府支出を増やす→仕事が増える】というわけではありません。正しい図式は【政府が仕事を発注する→仕事が増える&政府支出が増える】です。

f:id:xbtomoki:20210803120737p:plain

( ゚д゚)<そりゃそうやろ。だから何よ。

(´・ω・ `)<【カネを作ってバラまけば賃金が上がる】みたいなことは、あるかもしれんけど、ぼくがここでイメージしとるのは、そういうのじゃないよってことや。

 

"安い"労働者を減らす

"安い"労働者とは、具体的には、こういう方々です。

これらの"安い"労働者が労働市場から退出すれば、"高い"労働者しかいなくなりますので、賃金が上がります。

f:id:xbtomoki:20210805153848p:plain

ということで、それぞれについて、どういう政策を実行すれば労働市場から退出してもらえるかを考えてみます。

 

技能実習生(移民労働者)

f:id:xbtomoki:20210802140848p:plain

注:西田さんはこんなことは言ってません。詳しく知りたい方はこちらの動画をどうぞ。

(基本理念)
第三条 技能実習は、技能等の適正な修得、習熟又は熟達のために整備され、かつ、技能実習生が技能実習に専念できるようにその保護を図る体制が確立された環境で行われなければならない。
2 技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない。
技能実習法

そもそも、技能実習生が"安い"労働者として使われている状況が制度の基本理念に反した状態なんですから、政府は一刻も早くこれを取り締まるべきであり、そうすれば技能実習生は労働市場から解放されます。

(´・ω・ `)<一応言うとくけど、「技能実習生」じゃなけりゃええってもんじゃないけーの。

( ゚д゚)<ん?どういうことや。

(´・ω・ `)<技能実習生としてじゃなくて、ストレートに移民を入れて"安い"労働者として雇うのも、中身はおんなじことじゃけー、それも規制せなあかんっちゅうことや。

 

派遣労働者

f:id:xbtomoki:20210805151007p:plain

労働者の派遣業は、

  • 労働者本人の意思によらずに指揮命令関係が生じる。
  • 派遣業者による中間搾取(ピンハネ)が生じる。

といった問題を理由に、元々は、職業安定法第44条で"労働者供給事業"として禁止されていました。*1*2

それが現在では、

(゚⊿゚)<受注が増えたときだけ雇い入れて、用が済んだらクビにしたい!

という一部の資本家の狂気じみた要望によってなし崩しにされているわけです。

( ゚д゚)<昔は禁止しとったんなら、禁止してもやっていけるってことやんか。昔に戻したらええやん。

(´・ω・ `)<そのとーり!次行ってみよう!

 

高齢者

高齢者が働く最大の理由は、「年金収入だけでは生活費を賄えないために労働収入が必要だから」です。*3

つまり、メインの収入源である年金だけではあとちょっと足りない、5万・10万を稼ぐために、高齢者は働いているわけです。そのため、例えば手取り月収10万円くらいの、それだけではとても食っていけないような低賃金でも、高齢者は許容できてしまいます。

( ゚д゚)<ほいじゃあ、政府が年金をその5万・10万の分だけ増額したら済む話なんちゃうか?

(´・ω・ `)<そのとーり!次行ってみよう!

 

パートタイマー

パートタイマーが働く最大の理由は、「世帯主収入だけでは生活費を賄えないために副収入が必要だから」です。*4

高齢者と同じく、メインの収入源があるものの、それだけでは足りないので、サブの収入源を求めて働いていて、サブの収入源であるため、低賃金を許容できてしまっています。

ただ、パートタイマーと高齢者の状況は、何もかも同じというわけではありません。パートタイマーには、賃金との間に、一種の合成の誤謬というか鶏と卵のような関係、つまり、【パートタイマーが働かなくてはならないのは、世帯主収入が少ないからですが、世帯主収入が少ない原因は、パートタイマー(パートタイマーだけじゃありませんが)が低賃金で働いているから】という関係があります。

( ゚д゚)<これは難しいの。賃金を上げるためにはパートタイマーを減らす必要があって、パートタイマーを減らすためには賃金を上げる必要があるってことか。

(´・ω・ `)<そーゆーこっちゃ。

( ゚д゚)<んー、どうしたらええんかのー。

(´・ω・ `)<パートタイマーについては、直接減らすってのは難しいやろな。ここまでで考えてきた、政府発注増とか年金増額とかで世帯主の賃金が上がることで、間接的にパートタイマーが減って、それがさらに賃金上昇効果を生むってのを狙うのがええと思うわ。

 

まとめ

まとめると、賃金上昇のために政府が行うべき政策は、次の5つが考えられます。

  • 政府の業務発注量を増やす。
  • 技能実習生の労働使役を取り締まる。
  • 移民受け入れを制限する。
  • 人材派遣業を規制する。
  • 年金を増額する。

( ゚д゚)<なんか地味やの。なんかさ、もっとこう、"革新的なソリューション"的なやつ無いん?

(´・ω・ `)<無いよ。てかな、そーゆー「いままでに無かった全く新しい何かがズバーッと問題を解決してくれる」とか、そうそう無いんよ。絶対無いとまでは言わんけれども、いまからやろうとしとる手段が本当にズバーッと解決してくれるかどうかなんて、やってみらんと分からへんし、やってみたら逆効果やったりするかもしれんやんけ。

( ゚д゚)<んー、まあ、そうかもしれんな。

(´・ω・ `)<そんなんより、たしかに地味かもしれんけど、過去にやってみた経験があって、どんな効果が出るのか分かっとる"普通の"手段で問題を解決しようとする方がよほど理にかなっとると思うで。これはあくまでぼくの好みの問題かもしれんけど、革新的なナントカに頼るのは、"普通の"手段をやり尽くした後にした方がええんちゃうかな。

 

JGPじゃあかんの?

( ゚д゚)<就業保証プログラムはどないなん?あれじゃ、あかんの?

[8-1]のとおり、就業保証プログラム(JGP)は、最低賃金(労働市場の最低価格)を決めます。

f:id:xbtomoki:20210805153952p:plain

なので、JGPによって、最低賃金を引き上げることは、理屈としては可能なはずです。ですが、私は、JGPによって賃金上昇を達成しようという考えには反対です。JGP自体に反対というわけではありません。というのも、1つには、やはり革新的なソリューションを試すのは後にするべきだと思うのと、

(゚⊿゚)<JGP技能実習生も高齢者もちゃんとした額の賃金をもらえるようになるから問題解決やな!

こんなのは成り立たないわけで、技能実習生や高齢者については、そもそも彼らが労働を強いられているのが異常な状態なんです。JGPでは、これを解決できないというのがもう1つの理由です。

 

但し、上記の5つの政策のうちの派遣規制には、「いま派遣労働者として働いている人たちの生計はどうするんだ」という障害があるので、

( ゚д゚)<明日から派遣禁止しますわ。いま派遣で働いとる人たちは、希望すれば全員政府が雇っちゃりますけー、安心して派遣会社と手ぇ切っちゃってつかーさい。

こーゆーことならアリかもしれんな、とは思います。

 

 

それでは本日ここまで。

 

 

おまけ

先日仕事で、【どんな数値でも有効数字n桁(nは任意の自然数)にする】エクセルが必要になりまして、さっそく「エクセル 有効数字」でググってみたんです。

ところが、値自体を有効数字n桁に丸める方法はいくらでも出てきたんですが、その丸めた数値を有効数字n桁で画面表示する方法、(例えば、丸めた結果が"0.50"だったときに"0.5"じゃなくて、ちゃんと"0.50"と表示する方法)については、どのサイトも「手動でがんばってください。」と書いてあったもんで、

( ゚д゚)<それじゃ意味無いねん。

ということで、【どんな数値でも有効数字n桁に丸めて、標準の表示形式でその丸めた数値を有効数字n桁に表示するギミック】を自作しました。

ニーズがあるかどうかは分かりませんが、もし使いたい方がいらっしゃったら、どうぞ自由にお使いください。

f:id:xbtomoki:20210805152213p:plain

↓コピペ用↓

=INT(LOG10(C2))
=-C4+(C3-1)
=ROUND(C2,C5)
=IF(C5>0,"0."&REPT("0",C5),"0")
=TEXT(C6,C7)

 

 

日本人は本当はもっと豊かになれます。そのためにはもっと多くの人々が貨幣と経済の仕組みを理解しなければなりません。

私たちが、そして次世代の子供たちが、貧困に怯えずに暮らせる日本を目指しましょう。

 

‪最後まで読んでいただき、ありがとうございます^^

応援コメント、指摘コメント、お待ちしております!当ブログの拡散も大歓迎です!

よろしくお願いします!