経理屋が読み解く『MMT入門』

『MMT入門』(L・ランダル・レイ,2019,東洋経済新報社)をベースにMMTを解説します。ときには自分の思うところを書き綴ったり。

10-4.租税は貨幣を動かす

 

「通貨は、その発行者に対してその通貨で支払うように強制される義務があれば、受け取られるだろう」というのがMMTの主張である。

MMT現代貨幣理論入門』kindle版 497/553pp

 

当ブログは、こちらの複式簿記を説明した記事を読んでいただいている前提で書いています。未読の方は是非ご一読ください。 

xbtomoki.hatenablog.com

 

当ブログの中で「B払い」という用語を使うことがあります。これは私の造語なので、ググってもd払いが出てくるだけです。ただ、使わせてもらわないと不便極まりないので、普通に使います。

こちらの記事で"B払い"って何かを説明していますので、記事途中で「B払いって何やねんな☹️」ってなったらご覧ください。

xbtomoki.hatenablog.com

 

目次 

 

本日のお題

昔々あるところにAさんとBさんがおりました。

ある日、AさんはBさんから自動車を買うことにしました。

AさんはBさんに100万円の銀行預金を振り込み、BさんはAさんに自動車を渡しました。

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なぜ貨幣を受け取るのか

Aさんが自動車を受け取る理由については、特に深く考える必要はないでしょう。自動車は便利なモノですから、Aさんがそれを欲しがるのは当然です。

問題はBさんです。

なぜBさんはそんな便利なモノを手放してまでカネを受け取るんでしょうか。

(゚⊿゚)<Bさんはそのカネで別の誰かから、例えばCさんから便利なモノを買えるから!

(´・ω・ `)<違うぞ笑笑
(´・ω・ `)<勉強しろ笑笑

( ゚д゚)<あれ?違うんか?

これが答えなのであれば、なぜCさんはカネを受け取るんでしょうか?Dさんが受け取るから?じゃあDさんはなぜ?キリがありません。

そもそも「なぜBさんはカネを受け取るのか?」というのは、実際には【Bさん】という特定の個人の話をしとるわけではありません。

Bさんは例に過ぎないのであって、本当は「なぜ誰もが自動車とかの便利なモノやサービスを他人に提供してまでカネを受け取ろうとするのか?」と聞いとるわけです。

なので、(゚⊿゚)<Cさんが受け取るから!は、

(´・ω・ `)<なんで誰もがカネを受け取るん?

(゚⊿゚)<誰もがカネを受け取るから!

みたいなものです。答えになっていません。

 

租税は貨幣を動かすから

( ゚д゚)<ほいだら答えは何なん?

(´・ω・ `)<租税は貨幣を動かすからよ。

( ゚д゚)<は?

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( ゚д゚)<きみのも答えになっとらんぞ。

(´・ω・ `)<まーたしかにこれだけじゃ意味不明やろな。説明してこか。

ということで、本日のお題はこちらです。

【租税は貨幣を動かす】

(´・ω・ `)<よろしゅうな。

( ゚д゚)<ちゃうちゃう、ぼくが教える側よ。

(´・ω・ `)<そか。じゃあ頼むわ。

( ゚д゚)<いやいや、やっぱきみが教える側よ。

(´・ω・ `)<なんやねんなww

 

税とは何か

それでは、【なぜ誰もが他人に財やサービスを提供してまで貨幣を受け取ろうとするのか】を考えていきましょう。

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まあ、「考えていきましょう」というか、答えはさっき(´・ω・ `)が言ったとおりです。

【租税は貨幣を動かす】からです。

( ゚д゚)<なんで「租税」って言うん?普通に「税」じゃあかんの?

(´・ω・ `)<ああ、そこは特に意味ないけー、気にせんでええよ。「税は貨幣を動かす」でもええで。

 

税とは貨幣を徴収する制度である

まず、税とは何かを復習しましょう。

《税》とは、[5-1]のとおり、政府が一方的に国民から貨幣を徴収する制度のことであり、徴税の仕訳はこのとおり↓です。

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税は一方的なものであり、政府は何かと引き替えに、もしくは何かの対価(例えば行政サービスの対価)として税を課すわけではありません。

税という制度の中で国民は、貨幣を徴収されるだけです。「政府にカネを徴収された。以上。おしまい。」です。政府にどれだけ税を支払ったところで、その人がそれによって何かのリターンを得たりすることは全くありません。

( ゚д゚)<さすがにそれは理不尽過ぎるやろ。なんかおかしくない?

(´・ω・ `)<おかしくない?って言われてもやな。ぼくは「いま現在の仕組みがこうなってますよ」ってことを説明しとるだけで、それがおかしいかどうか別の話よ。

( ゚д゚)<ぐぬぬ

(´・ω・ `)<ついでに言うとくけど、税にリターンなんか無いわけやから、「たくさん納税しとったら偉い」とか「納税してない人は発言権が無い」なんてことも無いけーの。

( ゚д゚)<そか、それを考えると、リターンがあった方がむしろ理不尽かもな。

(´・ω・ `)<せやろ?たくさん徴税される人からしたら、それなりのご褒美でもあって欲しいっていう気持ちは分からんでもないけどな、

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租税は貨幣を動かす

政府が国民に税の支払を命じることを《課税》と言います。

国民は課税されてしまったら、なんとかして政府に支払う貨幣を用意しなければなりません。さもなければ刑務所行きです。ちょっとうっかりしてて期日を過ぎただけでも、刑務所行きにはなりませんが、闇金みたいな利率の利息を請求してきやがります。あいつらほんま(´・ω・ `)

もし、そんなときに政府が「この仕事をやってくれたら、きみに貨幣を発行してあげるよ」と持ちかけたらどうなるでしょうか。

( ゚д゚)<そんなもんやるに決まっとるじゃん。

(´・ω・ `)<せやの。ちなみに「保有者の税債務を消すことを約束して政府が発行する貨幣」のことを何て言うでしょう?

( ゚д゚)<前回やったやつやな。現金やろ。

(´・ω・ `)<いえすざっつらいと!

政府から持ちかけられた仕事を見事にこなした国民には現金が支払われて、その国民はめでたく税の呪縛から解放されます。

さて、それでは【課税されたけど、政府の仕事を受注しなかった/できなかった人々】は刑務所にぶち込まれるしかないのでしょうか?

(´・ω・ `)<さて、どないや。

( ゚д゚)<んー、先に現金もらって税債務から解放された人たちって、現金が余ってたりせえへんの?

(´・ω・ `)<お、ええとこに気づいたの。そしたら余っとることにしてみよか。

( ゚д゚)<それやったら、その金持ちから余っとる現金を分けてもらったらええやん。タダでっちゅうのがアレなんやったらなんかその金持ちのために仕事でもしてあげて、その報酬っちゅうことでもらったらええがな。なんか持ち物を売ってもええし。

(´・ω・ `)<そーゆーことや。

 

課税された人は貨幣を受け取る

つまり、【租税は貨幣を動かす】物語とは、こういうストーリーです。

  1. まず政府が国民に税債務を負わせる。つまり「現金を持ってこい。さもなければペナルティを与えるぞ」と要求する。
  2. 国民は何とかして現金を手に入れなければならなくなる。
  3. ここで、政府が国民に仕事を発注して「この仕事をやってくれたら、報酬として現金を支払うよ」と持ちかける。
  4. 国民の一部が発注された仕事を引き受ける。政府が現金を発行して報酬を支払い、その国民は現金を手に入れる。
  5. 政府が発注した仕事を受注しなかった/出来なかった人々は、現金を手に入れた人々のために仕事をして、その現金を分けてもらう。
  6. かくして税債務を負った(課税された)人は誰もが貨幣を受け取ろうとするようになった。めでたしめでたし。

 

そして誰もが貨幣を受け取るようになる

( ゚д゚)<待て待て。

(´・ω・ `)<おう?

( ゚д゚)<そしたら、【なぜ誰もが他人に財やサービスを提供してまで貨幣を受け取ろうとするのか】の答えは「税を支払うため」ってこと?でもさ、「私は税を払うために仕事をしています」なんて人、見たことないで。

(´・ω・ `)<いや、この話にはまだ続きがあるんよ。

  1. 政府が国民の一部に課税をすると、その国民は貨幣を必要とするようになる。但し、この時点では、その他の課税されない国民にとって貨幣は不要なものである。つまり、国民が【貨幣を必要とする国民】【貨幣を必要としない国民】に分かれることになる。ここで、政府が課税する範囲が広いほど、【貨幣を必要とする国民】が多数派になる。

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  2. 【貨幣を必要とする国民】が十分に多数派を占めると、貨幣が無いと他者から生活に必要な財・サービスを提供してもらうことが困難な社会になる。

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  3. 【貨幣を必要としない国民】も貨幣が無いと生活ができないようになり、結局は誰もが【貨幣を必要とする国民】になる。

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  4. この段階に至れば、元々税の支払のために【貨幣を必要とする国民】であった人々も、税以前に生活のために貨幣を必要とするようになる。

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  5. さらにはマネーゲームの元手にする等の副次的な理由で貨幣を受け取ろうとする人々が現れたり、預金を発行して便利な決済システムを提供するビジネスが生まれたりして、さらに貨幣経済が発展・複雑化していく。

高度に貨幣化した(誰もが貨幣を受け取ろうとする)経済では、人々が貨幣を受け取ろうとする理由は、租税であるとは限りません。むしろ租税がその理由であることの方が少ないでしょう。

ですが、経済が貨幣化しているかどうかに関係なく、課税された人々は必ず貨幣を受け取ろうとしますし、政府は課税をすることで確実に国民に貨幣を受け取らせることができます。

その意味で、「租税貨幣を動かす」ではなく、「租税貨幣を動かす」と言うべきでしょう。

よって、もし199X年、世界が核の炎に包まれて、人々が一切の貨幣を使うことをやめてしまったとしても、政府が国民に税を課して、貨幣を支払うことを求めれば、直ちに人々は貨幣に帰って来ざるを得なくなります。

このように、貨幣は政府が国民にそれの支払を求めること、つまり課税をすることによって動き始めて、それはやがて誰もが貨幣を受け取る社会につながっていきます。

これが【租税は貨幣を動かす】ということです。

 

補足

「租税は貨幣を動かす」の説明は以上ですが、補足しておきたいことが3点あります。

 

政府は貨幣を必要としているわけではない

政府は税として国民に【貨幣の支払】を求めますが、これは政府が国民の持つ貨幣を必要としているということではありません。

[10-2]のとおり、貨幣はB払いによって生まれます。また、[番外3]のとおり、B払いは受け取ってくれる相手がいる限り、いくらでも行うことができます。さらに、租税は貨幣を動かすので、政府は課税によって強制的に国民に貨幣を受け取らせることができます。

つまり、政府は、B払いをいくらでも行って、いくらでも貨幣を作り出すことができますから、そんな自分でいくらでも作り出せるものを必要とするわけがありません。

 

金貨だから受け取られたわけではない

「なぜ誰もが他人に財やサービスを提供してまで貨幣を受け取ろうとするのか」に関して、こう答える人もいます。

(゚⊿゚)<昔の貨幣は金貨だった。つまり貴重で価値の高い金でできていて、その金属の塊としての価値が担保されていたから、みんな受け取ったんだ。

(´・ω・ `)<違うぞ笑笑
(´・ω・ `)<勉強しろ笑笑

[10-2]のとおり、貨幣の本質は人と人との約束であって、金貨はその約束の中身を伝えるための媒体に過ぎません。

政府が貨幣の支払を求めさえすれば、人々は貨幣を必要とします。

このときに、その貨幣の媒体の材料が何であるかは関係ありません。金であろうが、石ころであろうが、人々はそれを手に入れなければ刑務所行きとなることに変わりありませんから。

 

租税貨幣論に関する誤解

このような↓説明をされる方もいますが、これは間違いです。

(゚⊿゚)<MMTには「租税は貨幣を動かす」という言葉がある。これは《租税貨幣論》と言って、「租税が貨幣を貨幣たらしめるんだ」という理論だ。

「租税は貨幣を動かす」とは、「なぜ人々は貨幣を受け取るのか」という問題に対する説明であり、「何が貨幣を貨幣たらしめるのか」は別問題です。

このような誤解の背景には、おそらく「貨幣とは、交換に使われるものである」という誤った理解があるのでしょう。

「交換に使われる」は貨幣の利用方法であり、本質ではありません。その理解は「鉄とは、ナイフ作りに使われるものである」と言うのと同じようなものです。

[10-2]のとおり、貨幣=負債であり、発行者がB払いさえすれば、そこにはもう立派な貨幣が生まれていますから、【租税がなければ貨幣は存在できない】ということはありません。

もちろん誰も受け取らなければ、発行者はB払いができないので、全く関係なくはないですが、「租税は貨幣を動かす」とは、

(゚⊿゚)<租税貨幣論によれば、無税国家になったら、日本円は貨幣ではなくなるんだ!

という話ではありません。

 

 

それでは本日ここまで。
 

 

おまけ

先日ちゅんさんのこんなツイートをみかけまして、

これを実際やってみた感想なんですが…

こいつはマジハンパない、リアルだ( ゚д゚)

 

いままでパスを送られたら、ファイルサーバー開いて、パスを見直して、カチカチカチカチとダブルクリックしながら階層を掘り進んで、もっかいパスを見直して、カチカチカチカチとダブルクリックして、それからもっかいパスを見直して、カチカチカチカチカチカチとダブルクリックしてたあの日々は何だったのか(´・ω・ `)

ちゅんさん、ありがとナス(`・ω・´)

 

 

日本人は本当はもっと豊かになれます。そのためにはもっと多くの人々が貨幣と経済の仕組みを理解しなければなりません。

私たちが、そして次世代の子供たちが、貧困に怯えずに暮らせる日本を目指しましょう。

 

( ゚д゚)<最後まで読んでいただき、ありがとうございます!!!

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