経理屋が読み解く『MMT入門』

『MMT入門』(L・ランダル・レイ,2019,東洋経済新報社)をベースにMMTを解説します。ときには自分の思うところを書き綴ったり。

10-5.税は財源ではない その1【政府支出に財源はいらない】

 

MMTは、通貨を発行する国家権力と租税債務を課す国家権力の間には密接な関係があると強調してきた。簡単に言えば、「租税が貨幣を動かす」のだ。また、主権を有する政府は支出のために租税収入を必要としないことも明らかにしてきた。

MMT現代貨幣理論入門』kindle版 494/553pp

 

当ブログは、こちらの複式簿記を説明した記事を読んでいただいている前提で書いています。未読の方は是非ご一読ください。 

xbtomoki.hatenablog.com

 

当ブログの中で「B払い」という用語を使うことがあります。これは私の造語なので、ググってもd払いが出てくるだけです。ただ、使わせてもらわないと不便極まりないので、普通に使います。

こちらの記事で"B払い"って何かを説明していますので、記事途中で「B払いって何やねんな☹️」ってなったらご覧ください。

xbtomoki.hatenablog.com

 

目次 

 

本日のお題

(´・ω・ `)<続きまして〜

( ゚д゚)<続きましてー?

(`・ω・´)<税は財源ではない!

( ゚д゚)<きみそれ好きやのー。

(`・ω・´)<おう!張り切って行ってみよう!

ということで、続いてのお題はこちらです。

【税は財源ではない】

(`・ω・´)<ほいじゃあよろしゅう!

( ゚д゚)<まかしときー。

(`・ω・´)<ちゃうちゃう!ぼくが教える側よ!

 

【税は財源ではない】とは

(゚⊿゚)<税は財源ではないだと!またそんなデタラメを!政府は現に税を財源として予算を組んでるじゃないか!現実に基づいた議論をしろ!

(゚⊿゚)<百歩譲って「税だけが財源ではない」なら認めてやらんこともないぞ!国債という財源もあるからな!

「税は財源ではない」と言うと、だいたいこんな反論が返ってくるのですが、【税は財源ではない】とは「『税』という政府が国民から一方的に貨幣を徴収する制度が『財源』という用語の定義に該当するかどうか」という議論ではありません。

つまり、「バナナはおやつに入りますか」みたいな話ではないわけです。

( ゚д゚)<じゃあどんな話なん。

(´・ω・ `)<こういうことよ。言うとくけど、ちょっと長いで。それと、ここから先の「政府」は[7-1]《主権通貨国》の政府を前提にしとるけーの。

 

誤解を正さなければならない

【税は財源ではない】をフルバージョンで言うと、【私たちは財政の仕組みについて数多くの誤解をしている。私たちはそれらを正さなければならない。例えば、税は財源ではない。】となります。「税は財源ではない」は、その例示部分だけを抜き出したものです。

 

さて、もう少し詳しく説明していきましょう。

政府の財政の仕組みについては、数多くの誤った理解が広まっていて、それら数多くの誤解は数多くの誤った政策決定を導いています。

数多くの誤解のうちで特に象徴的なのが「政府は支出をする前に支出するカネを調達しなければならない。税の徴収は、その調達の主な手段である。」という誤解です。これを短い言葉で表現すると、「税は政府支出の財源である」となります。

例えば、「税は政府支出の財源である」と信じる日本政府が東日本大震災からの復興のために、まず最初に行ったことは「復興特別所得税の創設」という増税でした。

政府はこのように↓考えたわけです。

(゚⊿゚)<復興事業をやろう!
(゚⊿゚)<となると、いろいろと支出をしなければならなくなるな。
(゚⊿゚)<だが、支出には財源が必要だ。
(゚⊿゚)<ということは、政府は復興事業を始める前にまず財源を確保しなければならないな。
(゚⊿゚)<よし、増税だ!

これは完全な間違いでした。政府は支出をするために財源を確保する必要なんかありません。この増税は国民の貨幣保有量をただ減らしただけで、復興の助けになることは全くありませんでした。

私たちは、「税は政府支出の財源である」以外にも財政に関する様々な誤解をしています。これらを正さなければ、これからも経済政策を間違い続けてしまうことになるでしょう。

間違った経済政策は、私たちの生活を貧しくします。私たちが貧しくなれば、その貧しさは将来世代にも引き継がれてしまうことになります。

しかし、これは逆に考えれば、私たちが財政に関する誤解を正すことで、私たち自身と将来世代が今よりずっと豊かな暮らしを手に入れることができる、ということでもあります。

日本人は本当はもっと豊かになれます。そのためにはもっと多くの人々が貨幣と経済の仕組みを理解しなければなりません。私たちが、そして次世代の子供たちが、貧困に怯えずに暮らせる日本を目指しましょう。

 

正しい理解

それでは早速、財政に関する誤解たちを正していきたいと思いますが、「何が間違っているか」を語る前に「何が正しいのか」を示しておきましょう。

「あれは間違いだ、これも間違いだ」という話をされていったら、読み手はどこかで「じゃあ何が正解なのか」という疑問が湧いてくるでしょうし、それに何より、後出しジャンケンみたいになってしまうと、私の気持ちが落ち着きません。

ということで、政府の財政の仕組みの正しい理解はこちらです。

【政府の財政は、《政府支出》《徴税》の2つの要素だけで成り立っているものとして考えればよい。ここで、《政府支出》《徴税》の仕訳はそれぞれこのように↓なっている。】

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ここでポイントとなるところは、

  • 政府支出と徴税は基本的には別々のものである
  • 政府支出の前には何も必要ない
  • 政府支出と徴税は真逆の取引であり、2つを合計すると互いが完全に相殺されて、全部がゼロになる
  • 2つを並べるなら、順番は必ず政府支出→徴税の順である
  • 国債」はどこにも現れない
  • 政府と日銀をまとめて統合政府として考えた方がよい

正しい理解の説明は、ここではいったんこのくらいにとどめておきます。これは全ての間違いを正し終わった後に説明した方がおそらく分かりやすいと思いますので。

 

財政に関する誤解 その1
「政府支出には財源が必要である」

民間企業A社がX銀行の口座から、民間企業B社のY銀行の口座にカネを振り込むときの仕訳は、[9-3]のとおり、こういう↓感じです。

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この取引によってA社の銀行預金残高が減って、B社の銀行預金残高が増えます。

ところで、もしこのときにA社の残高が振込額に対して不足していたら、例えば残高が100万円しかないのに、振込用紙に1億円と書いてX銀行の窓口に行ったらどうなるでしょう。

それはもちろん、(´・ω・ `)<残高不足です。受け付けられません。と断られます。

 

さて、政府がB社にカネを振り込むときの仕訳は、[9-3]のとおり、こんな感じです。

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X銀行が日本銀行に変わったのと、政府が日本銀行に持つ預金に《政府預金》という名前が付いていること以外は、A社からB社への振込と同じです。

なので、もしも政府が残高不足の状態で振込用紙を持ってきたら、日本銀行(´・ω・ `)<残高不足です。受け付けられません。と言うでしょう。

ここから生まれた「財政に関する誤解その1」がこちら↓です。

(゚⊿゚)<であるからして、政府は政府預金が残高不足になってしまわないように努めなければならないのだ!

( ゚д゚)<努めるって具体的には何するん?

(゚⊿゚)<ただ単に支出をすれば残高が減ってしまうわけだから、そうならないように支出するカネをどこかから調達してから、もしくは調達のメドを立ててから支出するようにしろ、つまり「支出するなら財源を確保しろ」と言っているわけだな。

(´・ω・ `)<そんなことせんでええんよ。

( ゚д゚)<あれ?ええんか?

(´・ω・ `)<ええんよ。政府預金が残高不足で困ってしまう可能性なんか無いけーの。

【政府は支出をするとき、その財源を確保しなければならない】

これは間違った理解です。政府は支出の財源を確保する必要なんかありません。なぜ(゚⊿゚)が財源を確保しろと言ってるのかといえば、それは"政府預金が残高不足になるのを防ぐため"ですが、そもそも政府預金が残高不足になることは無いからです。

 

政府はいくらでも貨幣を発行できる

[10-2]のとおり、貨幣の本質は人と人との約束であり、人間の意思さえあれば、貨幣はいくらでも作り出すことができます。なお、「人と人」ですから、貨幣を発行できるのは政府や銀行だけではありません。貨幣を発行する能力は誰にでもあります。

しかし、「人と人の約束」ですから、その約束を受け入れてくれる人がいなければ、貨幣を発行することはできません。

つまり、貨幣を発行する能力は誰にでもありますが、実際に発行をするには「発行した貨幣を相手が受け取ってくれるならば」という条件をクリアしなければなりません。

そしてこれは逆に考えれば、【自身が発行する貨幣を必ずいくらでも受け取ってくれる相手がいるならば、その人はいくらでも貨幣を発行することができる(B払いができる)】ということでもあります。

そしてさらに[10-4]のとおり、租税は貨幣を動かしますから、政府は国民に税債務を負わせることによって、自らが発行する貨幣を必ず受け取らせることができます。

これらを全て合わせて考えれば、【政府はいくらでも貨幣を発行することができる】と言うことができます。

いくらでも貨幣を発行できるわけですから、仮に政府預金が残高不足になったとしても、政府は例えば1兆円玉でも作って、それを日銀に支払い、引き換えに政府預金を発行してもらえば、すぐに残高不足は解消されます。仕訳はこう↓なります。

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1兆円で足りなければ10兆円玉でも100兆円玉でもかまいません。

いくらでも現金を発行して受け取らせることができる、ということは、このようにしていくらでも預金残高を補充することができるということです。そんな政府が残高不足で困ってしまうような状況に陥るわけがありません。

 

実際には国庫短期証券を発行している

ところで、この1兆円玉というコインは「政府が1兆円の負債を発行した」ということを示す媒体に過ぎません。

[10-1]のとおり、負債(=貨幣)の"価値"は媒体の材料によって左右されたりしません。人間が知覚できるモノでさえあれば、コイン、紙、貝がら、石ころ、木の板、そして電子データ、何でも貨幣の媒体に使うことができますし、どれを使っても貨幣の"価値"に影響はありません。

要するに、実際には、政府はいまどき残高補充のためにいちいちコインを鋳造する必要なんか無くて、日銀と電子データを送受信するだけで済んでしまうわけです。

例えば、政府から日銀へ「政府は1兆円分の負債を日銀宛に発行します」というメールを送り、それから日銀から政府へ「分かりました。それでは、1兆円分の政府預金を発行します」と返事をすれば、それだけで取引は成立して残高が補充されます。

そして、この残高補充業務を頻繁に行うのであれば、毎回メールを送り合うより、システム化してしまった方が便利でしょう。

現に政府は国庫短期証券という政府預金が残高不足になりそうなときには日銀宛に負債を発行して残高を補充するシステムを構築していて、このシステムは現在進行形で運用されています。*1

ちなみに、国庫短期証券発行の仕訳は、こう↓なります。

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まとめ

いくらでも貨幣を発行できる政府は、政府預金が残高不足になりそうになったとしても、貨幣を発行するだけで、例えば1兆円玉を作って日銀に預け入れるだけで、容易に残高を補充できます。

よって、(゚⊿゚)<政府は政府預金が残高不足にならないように、支出するなら財源を確保しなければならない、という考え方は完全に間違っています。財源なんか確保しなくても、政府はいくらでも残高を補充することができるからです。

 

そして、もう1つ重要なのは、1兆円玉を作るより、もっと便利に電子的に処理ができる国庫短期証券というシステムが既に実際に構築されていることです。

つまり、ちゃんとした仕組みはもうあるんです。

問題は私たちがその仕組みのことを正しく理解していないことであり、間違った政策たちを生み出している原因は私たちの誤解である、ということもここで指摘しておきたいと思います。

( ゚д゚)<あー、がっがっがっ。

(´・ω・ `)<ほいほい。何かね?

( ゚д゚)<ちゃんとした仕組みが既にあるのは分かったんやけど、なんでそんなもんがあるん?いまの仕組みを作った人たちは間違った理解をしながら、正しい理解に沿ったものを作ったってこと?そんなことある?

(´・ω・ `)<不思議じゃろ。でも、結果そうなっとんのよ。ほいで、残念ながら、MMTは「いま」がどうなっとんのかを解明するもんじゃけー、どういう経緯でそうなったんかは範疇じゃないんよ。「なんでって言われても、そんなん知らんわ。」っていうのが答えや。

( ゚д゚)<そか。おもんないの。

(´・ω・ `)<すまんの。

( ゚д゚)<ええんやで。

(´・ω・ `)<とはいえ、ぼくの推測程度なら話せるで。けどまあ、その話は他の誤解も全部正していった後にしようか。その方が分かりやすいと思うわ。

( ゚д゚)<ほーん。ほいだらそれで勘弁したるわ。首洗って待っとけよ。

(´・ω・ `)<それ、ボケなん?

( ゚д゚)<自分の胸に聞いてみな。

(´・ω・ `)<どういうことやねん。

 

 

それでは本日ここまで。

 

 

おまけ

これは大した問題ではないんですが、藤井聡先生や池戸万作さんがよく使われている「政府には通貨発行権があるから」というセリフについて疑問に思うことがありまして…

 

まず、これが単に「政府には貨幣を発行する能力がある」という意味なのであれば、間違ってはいませんが、その能力なら誰にでもあります。藤井先生にも、池戸さんにも、私にだって「約束」という概念さえ理解できるなら、誰にでも貨幣を発行する能力はあります。

よって、もし藤井先生たちが「政府には通貨発行権があるから」「政府には貨幣を発行する能力がある」という意味で言われているのであれば、それをもって「政府には特別な力がある」というようなことは言えません。

 

次に、もし「政府には通貨発行権があるから」が「政府だけが貨幣を発行する能力を持っている」という意味なのであれば、それはシンプルに間違いです。

 

さて、貨幣を発行する能力は誰にでもありますが、実際に貨幣を発行するには「発行した貨幣を誰かが受け取ってくれること」という条件があります。政府に唯一性があるのは、ここのところです。

つまり、「政府だけが発行した貨幣を必ず受け取らせることができる」わけで、「だから、政府の貨幣発行に障害となるものは無い」と言うことができます。

この意味で「政府には通貨発行権があるから」と言われてるのであれば、全くそのとおりだと同意しますが・・・

 

どうも違うっぽいんだよなあ(´・ω・ `)

 

 

日本人は本当はもっと豊かになれます。そのためにはもっと多くの人々が貨幣と経済の仕組みを理解しなければなりません。

私たちが、そして次世代の子供たちが、貧困に怯えずに暮らせる日本を目指しましょう。

 

( ゚д゚)<最後まで読んでいただき、ありがとうございます!!!

応援コメント、指摘コメント、お待ちしております!当ブログの拡散も大歓迎です!

よろしくお願いします!

 

*1:詳しくは国庫金の施策 : 財務省
なお、2000年度以降「いったん民間金融機関に売り出して、もし誰も引き受けなかったら、日銀が引き受ける」というルールに変更されて、いまは分かりにくくなってしまっているので、読んでいると「あれ?」となるかもしれませんが、本来、国庫短期証券は全て日銀が引き受けるものです。リンク先の「3.FBの日本銀行引受」参照。