2-3.租税が貨幣を動かす その2
今や先の質問-なぜ誰もが政府の「法定不換通貨」を受け取るのか?-に答えることができる。それは、政府の通貨が、政府に対して負っている租税などの金銭債務の履行において、政府によって受け取られる主要な(たいていは唯一の)ものだからである。租税の不払いに対して課される罰(刑務所行きもある)を避けるために、納税者は政府の通貨を手に入れる必要があるのだ。
『MMT現代貨幣理論入門』kindle版 120/553pp
当ブログは、こちらの複式簿記を説明した記事を読んでいただいている前提で書いています。未読の方は是非ご一読ください。
当ブログは、私がこちらの書籍を読んで、理解したことや考えたことを記事にしたものです。
まずは設例から
前回記事(2-2)からの続きになります。
設例も前回記事と同じです。
先日、カフェ屋さんに行ったんですよ。ほいでコーヒーを注文したんです。私はブラックコーヒー派なんですけど、ミルクと砂糖とスプーンも出てきて、そこはちょっとしゃーしいなと思ったんですが、コーヒー自体はとてもおいしくて、550円を払って店を出ました。
さて、ここで問題です。
「なぜカフェ屋さんは550円を受け取ってくれたのでしょうか?」
この問いは、2通りの解釈が可能です。
解釈1:なぜ"円"を受け取るのか
なぜカフェ屋さんは550円なら喜んで受け取るのに、5ドルは受け取らないのでしょうか?
これに対する答えは、こうでした。詳しくは前回記事をご覧ください。
日本に住んでいる限り、金額の多寡はあれども、誰もが必ず政府に税を納めなければなりません。そして政府は"円"で納めることを強制します。
その結果、私たちは日本国内の取引を"円"で行うようになります。それが最も便利で合理的だからです。
これが「租税が貨幣を動かす」の意味その1です。
解釈2:なぜ"貨幣"を受け取るのか
本記事では、より根本的なこちらの問いについて考えていきます。
カフェ屋さんは、コーヒー(とミルクと砂糖とスプーン)を提供しました。そして私は、550円を提供しました。
売り手は財またはサービスを提供し、買い手は貨幣を提供する。
これは貨幣経済の基本ルールです。
誰もが当たり前と思っているであろうこのルールに疑問を持ってみましょう。
なぜ、このルールに誰もが従うのでしょう。なぜ、貨幣経済というものが成り立っているのでしょう。
言い換えれば、なぜカフェ屋さんは550円を喜んで受け取るのでしょうか?
租税貨幣論とその他の説
この問題に対する答えには、いくつかの候補があります。
今回は他説の説明だけにします。
当初は本記事で租税貨幣論以下全部を説明しようと思っていましたが、長くなりすぎるので、租税貨幣論は次回にして、本記事では、それ以外を説明します。
ババ抜き理論
「その550円で店員に給与を支払うことができるからだ。」これが"ババ抜き理論"です。
これは全くの間違いではありませんが、致命的なツッコミどころがあります。
「じゃあ、その店員はなぜ550円を受け取るのか?コンビニでサラダチキンを買うためか?じゃあ、そのコンビニはなぜ受け取る?」
キリがありません。
つまり、ババ抜き理論だと、"カフェ屋さん"が"店員"、"コンビニ"に置き換わっただけで答えになっていません。はい論破。
そして、まるでババ抜きの参加者がみんなでババだけを引きまくって、いつまでもババがぐるぐる回されて終わらない、そんなことが起きていると言うのか?、ということでランダル・レイさんはこれを"ババ抜き理論"と呼んでいます。ネーミングに悪意があるような気がします。
法定支払手段
法律によって政府が国内取引において特定の通貨を受け取るように要求している国があります。このような法的強制力が貨幣経済を成り立たせている、という説です。
日本にも"円での支払を拒否してはならない"という法律はありますが、これは逆に捉えればドルとかでの支払は拒否してもいい、ということであって、
これは貨幣の受取りを強制しているわけではなく、貨幣が受け取られることを前提に、じゃあ国民にどの貨幣を使ってもらおうか、という論点について、"日本国内では円を推奨する"、と決めたものです。
問題は、「なぜ貨幣が受け取られるか」であって、「なぜ円が受け取られるか」ではありません。それはもう前回で答えが出ています。はい論破。
商品貨幣論(金本位制)
一昔前はこれがまかり通っていたそうです。いまでもこれを信じてる方が相当数いらっしゃいます。この有名な本でも商品貨幣論が述べられています。なお、商品貨幣論の発祥はマルクスではありません。アダムスミスだそうです。『資本論』では、「こういう理論があります」という体裁で説明されているだけです。
商品貨幣論とは、ざっくり説明すると、
- もともと取引というのは物々交換が基本で、魚10尾=木材3本=羊1頭・・・みたいな交換が行われていた。
- しかし、「じゃあ、木材が1本だけ欲しい羊飼いは、羊を切り刻んで市場に行くのか?」とか、「羊飼いが魚嫌いだったら、漁師はどうやって羊の肉を手に入れる?」とか、いろいろと不便だった。
- そこで、ある特定の商品を基準として、取引を仲介させるアイデアが生まれた。その基準には「金」が選ばれた。金は貴金属で、分割しやすい・量あたりの価値が高い(持ち運ぶ量が少しでいい)・劣化しにくい、等の基準商品として優れた性質を持っているためである。
- すると、魚1尾=金0.1g、木材1本=金1/3g、羊1頭=金1g・・・となり、木材が1本だけ欲しい羊飼いは、羊を誰かに売って得た1gの金を3等分すればいいし、漁師は羊飼いの好みに左右されずに羊を買えるようになった。
- しかし、社会が発達すると、金の流通量が増え、多くの人が金の保管に苦労するようになってきた。そこで、金を預かり、それと引き換えに"預かり証"を発行する、現在でいう銀行が生まれた。
- そのうち、人々は支払のときに、いちいち銀行から金を引き出して渡すのではなく、預かり証を渡して、それで済ます、というアイデアを生み出した。こうして預かり証は「貨幣」と呼ばれるようになった。
つまり、貨幣というのは特別な商品「金」に代わるさらに便利な商品である、とする説です。
商品貨幣論なら、
550円分のコーヒーと550円分の貨幣、という等価交換が行われただけだ。550円の貨幣は、あらゆる550円の商品と交換できる。カフェ屋さんが喜んで交換するのは当たり前だ、ということになります。
なかなか説得力があります。ぼくも学生のときに読んで「うおーっ!なるほどーっ!」ってなりました。でも間違ってます。
驚くべきことに、かつて、この商品貨幣論は常識とされていたので、通貨を中央銀行に持っていくと、金塊と交換してもらえました。この謎ルールを"金本位制"といいます。
特に紙幣は、物理的にはただの紙なので、それに価値を持たせるためには、「銀行に持って行けば金に交換できる」という保証がなければならない、と考えられていたので、この金本位制というルールが必要とされました。
この理屈で行くと、例えば、もし中央銀行がこっそりと保有している金の量を超えて通貨を発行していた場合、「発行されている通貨の一部は、金に交換できない」ということになります。商品貨幣論だと、金に交換できない貨幣に価値はありませんから、そんなことをしたら社会が大混乱に陥る、と本気で考えられていました。
しかし、現在、多くの先進国では金本位制が廃止されていますが、貨幣に価値がないと思っている人はいないし、貨幣経済は問題なく成立しており、大混乱にはなっていません。貨幣が価値を持つのは金との交換が約束されているからではなかったのです。
そもそも"貨幣は資産|負債の取引の記録"です。金の代用品でも、特殊な商品でもありません。はい論破。
それでは本日ここまで。
おまけ
本日のおまけは安藤裕先生のYoutube動画です。
【政治】なぜ若者は結婚しないのか? - 少子化社会対策白書から見える現実 -
少子化問題の原因をたったのジャスト9分で分かりやすく、過不足なく説明されています。いや素晴らしい。キスしてあげたい。この動画はもっと拡散されるべきだと思います。ぜひともご覧ください。
話が変わりますが、現政権が目玉政策の1つとして掲げている不妊治療への保険適用について、思うところを書かせていただこうと思います。
不妊治療の保険適用は大変結構なことです。喜んでいる人も、救われる人もいらっしゃると思います。
ですが、金銭的な理由で不妊治療を諦めている夫婦が現在何組いて、保険適用でそのうちが不妊治療を受けるようになって、そのうち何組が治療に成功して、出生率はどう変化するのか、そういうシミュレーションをした結果を、私は、現政権が説明しているのを見たことがありません。
子供を望んでいるのに、貧困によってその希望を絶たれたなら、それは悲劇的で感情に訴えるものはあります。その人を救うことを決して否定はしませんが、それをもって「現政権は少子化問題に積極的に取り組んでる!」とか「よーし、これにて少子化問題は終わり!」みたいなのは絶対に違います。
大したことのない私の人生経験から言わせてもらうと、一般的に、「問題解決」というものに必要なのは、次の3つです。
- 客観的なデータ分析
- 科学的な原因考察
- 原因に有効な取組
この中に、少数のかわいそうな人にスポットライトを当てて、大衆の涙を誘うことは含まれません。
これはおそらく邪推ですが、ごく一部だけにスポットライトを当てて、本当の問題の構造を見えなくさせよう、という狙いに不妊で苦しんでいる人たちを利用するつもりなのであれば・・・このへんにしておきます。
日本人は本当はもっと豊かになれます。そのためにはもっと多くの人々が貨幣と経済の仕組みを理解しなければなりません。
私たちが、そして次世代の子供たちが、貧困に怯えずに暮らせる日本を目指しましょう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます^^
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