経理屋が読み解く『MMT入門』

『MMT入門』(L・ランダル・レイ,2019,東洋経済新報社)をベースにMMTを解説します。ときには自分の思うところを書き綴ったり。

2-4.租税が貨幣を動かす その3

今や先の質問-なぜ誰もが政府の「法定不換通貨」を受け取るのか?-に答えることができる。それは、政府の通貨が、政府に対して負っている租税などの金銭債務の履行において、政府によって受け取られる主要な(たいていは唯一の)ものだからである。租税の不払いに対して課される罰(刑務所行きもある)を避けるために、納税者は政府の通貨を手に入れる必要があるのだ。

『MMT現代貨幣理論入門』kindle版 120/553pp


当ブログは、こちらの複式簿記を説明した記事を読んでいただいている前提で書いています。未読の方は是非ご一読ください。 

xbtomoki.hatenablog.com

  

当ブログは、私がこちらの書籍を読んで、理解したことや考えたことを記事にしたものです。

MMT現代貨幣理論入門

MMT現代貨幣理論入門

 

 

まずは設例から

前回記事(2-3)からの続きになります。

xbtomoki.hatenablog.com

設例も前回記事と同じです。

先日、カフェ屋さんに行ったんですよ。ほいでコーヒーを注文したんです。私はブラックコーヒー派なんですけど、ミルクと砂糖とスプーンも出てきて、そこはちょっとしゃーしいなと思ったんですが、コーヒー自体はとてもおいしくて、550円を払って店を出ました。

 

さて、ここで問題です。

「なぜカフェ屋さんは550円を受け取ってくれたのでしょうか?」

この問いは、2通りの解釈が可能です。

 

解釈1:なぜ"円"を受け取るのか

なぜカフェ屋さんは550円なら喜んで受け取るのに、5ドルは受け取らないのでしょうか?

これに対する答えは、こうでした。詳しくは前回記事をご覧ください。

日本に住んでいる限り、金額の多寡はあれども、誰もが必ず政府に税を納めなければなりません。そして政府は"円"で納めることを強制します。

その結果、私たちは日本国内の取引を"円"で行うようになります。それが最も便利で合理的だからです。

これが「租税が貨幣を動かす」の意味その1です。

 

解釈2:なぜ"貨幣"を受け取るのか

本記事では、より根本的なこちらの問いについて考えていきます。

カフェ屋さんは、コーヒー(とミルクと砂糖とスプーン)を提供しました。そして私は、550円を提供しました。

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売り手は財またはサービスを提供し、買い手は貨幣を提供する。

これは貨幣経済の基本ルールです。

 

誰もが当たり前と思っているであろうこのルールに疑問を持ってみましょう。

なぜ、このルールに誰もが従うのでしょう。なぜ、貨幣経済というものが成り立っているのでしょう。

言い換えれば、なぜカフェ屋さんは550円を喜んで受け取るのでしょうか?

 

租税貨幣論とその他の説

この問題に対する答えには、いくつかの候補があります。

  • 租税貨幣論
  • ババ抜き理論→答えになってない
  • 法定支払手段→現実と矛盾する
  • 商品貨幣論(金本位制)→貨幣は資産|負債の取引の記録

MMTは、租税貨幣論を主張し、その他は誤りだと主張します。

前回記事では、租税貨幣論以外を論破して終わりました。 

いよいよ租税貨幣論の説明に入ります。

 

租税貨幣論とは

アバタール・チューナーって知ってます?

DIGITAL DEVIL SAGA ~アバタール・チューナー~

このゲーム、ご存じでしょうか。

主人公サーフ率いるトライブ「エンブリオン」は、ジャンクヤード(本作の舞台)の覇者のみが到達できるニルヴァーナを目指していつ果てるとも知れぬ抗争に明け暮れていた。
ある日、謎の物体“ツボミ”を巡って隣接トライブと戦闘していた彼らはツボミから放たれた光に侵されて悪魔に変身する力“アートマ”に覚醒し、感情と共に他者を喰らわねば生きていけない業を背負うことになる···。

DDSAT (でじたるでびるさーがあばたーるちゅーなー)とは【ピクシブ百科事典】 

はじめジャンクヤードには、空腹という概念が無かったのですが、"ツボミ"から放たれた光を浴びた人々は互いに喰らい合わなければ生きていけなくなりました。

それまで行われていたのは淡々とした"かけっこ"でしたが、これが"命の奪い合い"に変化し、状況が一気に過熱していきます。

ゲーム性はどうだったか忘れましたが、ストーリーはとても面白かったのを覚えています。ムービー動画がありましたので、長いですが、よろしければどうぞ。サイレントヒルみたいに映画にならないかなあ・・・


アバタールチューナー1&2 ムービー

 

敵を引き裂き、屠り、喰らえ!

租税貨幣論とは、ジャンクヤードと同じことが起きているんだ、という説です。

つまり、日本に住んでいる限り、金額の多寡はあれども、誰もが必ず政府に税を納めなければなりません。ジャンクヤードの人々が突然謎の光に打たれたように、私たちも政府から租税債務を強制的に負わされています。ジャンクヤードを管理するカルマ教会は全トライブの長を集めて、こう言いました。

敵を引き裂き、屠り、喰らえ!

お前たち煉獄の修羅が飢えから逃れ生き延びる術は他に無い!!

 

よって、私たち煉獄の修羅は、政府によって強制的に課された租税債務を弁済するために敵を引き裂き、屠り、政府が発行した負債、つまり通貨を集めなければなりません。だから、カフェ屋さんは550円を喜んで受け取るのです。

これが「租税が貨幣を動かす」の意味その2です。

 

ツッコミその1

Q.私たちは十分な額を貯蓄して、租税支払の心配をする必要が無いほどになっても、さらに貯蓄をしようとするじゃないか。どないやねんな。

 

A.多くの余剰貯蓄があれば、租税支払に必要な通貨を持っていない他者に、通貨と引き換えに便益を提供するように要求することができる。これは二次的な影響であるが、その大元は"租税が貨幣を動かした"ことである。はい論破。

 

 

ツッコミその2

Q.租税貨幣論に基づけば、政府が増税をするほど、国民は多くの通貨を必要とすることになる。これは国民に、"より多く売りたい"という意欲と、"できるだけ買いたくない"という意欲を同時に喚起するだろう。
ここで、経済主体は支出をすることは自由に決定できるが、一方で収益を得るには相手の同意が必要になる。こちらに述べられているとおりだ。

xbtomoki.hatenablog.com

よって、2つの相反する意欲は、"できるだけ買いたくない"の方が優先する。つまり、増税は民間取引を停滞させるはずだ。
ところが、土居丈朗先生は、消費税を増税しないと消費が停滞すると言われた。これはどちらが正しいのか。

www.sankeibiz.jp

 

A.データを見ればいい。増税のたびに消費は冷え込んでいる。あの人の発言に根拠があったことは、いままでもなかったし、これからもそうだろう。

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ツッコミその3

Q.もし政府が「明日から日本は無税国家になります!」と言い出したとしたら、貨幣を使う人はいなくなって、みんなで自給自足か物々交換を始めるのか?んなわけないと思うが・・・

A.ぐぬぬ

 

ぐぬぬ!?

 

租税貨幣論への疑問

今回記事を構想中に、以前ツイッターでどなたか忘れてしまったんですが、誰かがツッコミその3をツイートされてたのを思い出しました。

たしかに租税貨幣論は、他の商品貨幣論とかに比べるともっともらしいんですけど、じゃあ、"この世から税が無くなったら、貨幣経済が崩壊するだろうか”、と考えてみると、そんなことないと思うんですよね・・・

租税貨幣論「租税は、政府が主権通貨として定めた通貨を"ちゃんと"主権通貨として通用させる」という意味(2-2.で説明した内容)では全くその通りだと思います。

xbtomoki.hatenablog.com

しかし、今回記事で説明した「誰もが租税債務を負わされているから、貨幣経済が成立している」という煉獄理論については、なーんかピンと来ないんですよね。

そういう意味で、「租税通貨論」は分かります。でも正直、私は「租税貨幣論」には納得できていません。

 

ということで、次回は、なぜ貨幣経済が成り立っているのか、これについて私の考えを述べようと思います。

まさかの4本立てになってしまいました。

 

それでは本日ここまで。

 

 

おまけ

「政府が負債を増やし続けると、いつかは貸し手のカネが尽きてしまい、借入ができなくなって財政破綻する」というのをときどき見ますが、これが間違いであることを仕訳で説明します。

 

1.政府が国債を発行して、市中銀行がこれを買います。

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2.政府が企業や家計に支出します。なお、政府は企業・家計と共通の口座を持ってないので、いったん市中銀行が立て替えます。

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3.政府-市中銀行の間で立替金を清算します。

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さて、以上をまとめて、貸借相殺される分を消すと、こうなります。

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ここで注目していただきたいのは、市中銀行です。

市中銀行は、国債を買うときに、日銀当座預金を支払って、いったん日銀当座預金の残高が減りますが、企業・家計の預金を引き受けることで、それは結局は帰ってきて、市中銀行の日銀当座預金の残高は元に戻ります。それどころか、残った国債の利払いを受ければ増えていきます。

よって、どれだけ国債が発行されても、市中銀行は預金残高を減らさずにそれを買うことができるので、「政府が負債を増やし続けると、いつかは貸し手のカネが尽きてしまい、借入ができなくなって財政破綻する」という理屈は成り立ちません。

 

 

日本人は本当はもっと豊かになれます。そのためにはもっと多くの人々が貨幣と経済の仕組みを理解しなければなりません。

私たちが、そして次世代の子供たちが、貧困に怯えずに暮らせる日本を目指しましょう。

 

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