これは奇妙なようだが、金融的なプロセスは分かりやすい。政府は、受取り手の銀行口座への振込みによって支出を行う。
当ブログは、こちらの複式簿記を説明した記事を読んでいただいている前提で書いています。未読の方は是非ご一読ください。
当ブログは、私がこちらの書籍を読んで、理解したことや考えたことを記事にしたものです。
目次
まずはこちらをご覧ください
貨幣発行は誰でもできる!(175)【経済の仕組み】負債を発行して資産を買えるのは実は金融機関だけではない。
語彙が足りないなら作ればいいじゃない
カリンゴンさんは、動画の最初の方で、
支払の方法には、「いま持ってる資産を、売り手に譲り渡す」という方法だけではなく、「売り手の資産として、自分の負債を発行する」という方法もあって、実際にこっちの方法による支払も行われてもいるんだけれども、
この支払方法を意味する用語が存在しない、つまり語彙が足りない、と述べられています。
で、語彙が足りないなら作ればいいじゃない、ということで、本記事では、この支払方法を意味する用語を考えてみたいと思います。
仮の名前を付けます
とりあえず、"売り手の資産として、自分の負債を発行するという支払方法"とか長すぎて不便なので仮の名前を付けてあげます。
- A払い:いま持ってる資産を、売り手に譲り渡す支払方法
- B払い:売り手の資産として、自分の負債を発行する支払方法
ということで、この"B払い"にちゃんとした名前を付けてあげてあげたいと思います。
設例
B払いに名前を付ける前に、B払いの何たるかを説明しておきましょう。
[2-2]で使った設例を再利用します。
先日、カフェ屋さんに行ったんですよ。ほいでコーヒーを注文したんです。私はブラックコーヒー派なんですけど、ミルクと砂糖とスプーンも出てきて、そこはちょっとしゃーしいなと思ったんですが、コーヒー自体はとてもおいしくて、550円を払って店を出ました。
売り手は財またはサービスを提供し、買い手は貨幣を提供する。 これは貨幣経済の基本ルールです。
補足説明
この例は、私(買い手)がカフェ屋さん(売り手)に550円のA払いをした例ですね。
こういう仕訳になります。私の資産(現金)がカフェ屋さんに移動しています。
もし、これをB払いにするとしたら、具体的にはどういうものになるでしょうか。いくつかのパターンが考えられますが、いちばん分かりやすいのは動画でも言われているように、"ツケにしてもらう"、だと思います。
仕訳はこうなります。私が負債(未払金)を発行して、それがカフェ屋さんの資産(未収金)になっています。
B払いでは、"未収金"というなんだか頼りないものになってますが、売り手側にとっては、A払いでもB払いでも本質的な違いはありません。コーヒーの売上が立って、資産が増えます。
ところがどっこい、買い手側にとっては、A払いとB払いはまるで違うものです。B払いの仕訳では、貸方に資産は現れずに負債が立っています。
それがどうかしたんかって?よく考えてみてください。
B払いをカフェ屋さんが許容してくれる限り、私はいくらでもコーヒーを注文できるんですよ。A払いでは、こうはいきません。財布が空っぽになったらそこで打ち止めです。
B払い成立の条件
B払いが成立するには、売り手がそれを許容してくれなければなりません。
厳密には、A払いでも売り手の許容は必要なのですが、A払いを許容しないということは考えられません。詳しくは[2-4]や[番外1]を参照してください。
さて、売り手がB払いを許容する条件とは何でしょうか。
まずは、"ツケにしてもらう"というのが、どういうことなのかを確認しておきますと、"ツケにしてもらう"とは、「後日、550円の現金を渡します。」という約束をすることですね。
よって、B払いが許容される条件は、
- 売り手が"私の約束"を信用してくれる
- 売り手が「第三者が"私の約束"を信用するだろう」と考える
売り手が"私の約束"を信用する
これはそんなに難しくないと思います。
カフェ屋さんが"この人はちゃんと550円を払ってくれる"、と信用してくれるなら、A払いでもB払いでもカフェ屋さんにとって大した違いはありません。結局は550円の現金が手に入ることになりますから。
第三者が"私の約束"を信用する
分かりにくいのはこっちの方だと思います。
説明の前にちょっと私の持論を述べさせていただきますと・・・
貨幣とは支払の道具である
これは私の思い込みに過ぎないかもしれませんが、
ビジネスや家計といったミクロの世界における貨幣の意義は、"支払の道具"、これに尽きるんじゃないかと思います。
「なぜ借入をするのか」「なぜ働くのか」「なぜ貯金をするのか」「なぜ節約をするのか」・・・これらの答えは、全て「●●●の支払をするため」に行き着きます。
重要なのは"支払の道具として使えるか"
ということで、例えばカフェ屋さんが店員さんに給料を払うときに、その店員さんが"私の約束"を信用してくれるなら、給料を現金ではなく、私のツケ(未収金)で支払うことも可能になります。"私の約束"を信用する人にとっては、現金も未収金も大した違いではありませんから。
そして、もし店員さんだけでなく、どんな人でも"私の約束"を信用してくれるのであれば、支払の道具としての価値は、現金も未収金も大して変わらんことになります。よって、その場合には、B払いが許容される、という理屈です。
銀行・政府・日銀のB払い
さてさて、ここまでは一般ピーポーの私がB払いをする話でした。
まー実際には私のB払いを許容してもらうなんて無理でしょう。私にそんな信用があるわけがありません。
ところがどっこい、これが政府や銀行や日銀のB払いならどうでしょうか。
銀行ならこうなります。
銀行の約束は「預金者が要求したら、その預金と同額の現金を支払う」というものです[3-1]。これは信用できそうですね。きっとB払いは成立するでしょう。
政府ならこうなります。
政府の約束は、「期日が来たら、額面どおりの通貨を支払う」というものです。これも信用できそうですね。
また、政府の発行する負債には、国債だけでなく現金硬貨もあります。
これならA払いと全く同じことです。
日銀ならこうです。
銀行に仲介してもらわないといけないので、ちょっとややこいですけど、カフェ屋さんにとっては銀行のB払いと同じなので信用してくれそうですね。
また、日銀は、現金紙幣の発行もしています。
ちょっとお釣りが出そうですけど、これもA払いと同じことですね。
現金にはコインとお札の2種類がありますが、コインを発行してるのは政府で、お札を発行してるのは日銀です。これ、豆な。
ということで、一般ピーポーには難しいB払いも、政府や銀行や日銀であれば、広く簡単に受け入れてもらえるわけです。
実際に行われているB払い
B払いは思考実験ではなく、実際に行われています。
いくつかの例を示しましょう。
日銀のB払い
先日、日銀さんに、ETF買いについて問い合わせをしたところ、1週間くらいでお返事が来ました。日銀さんはB払いでETFを買っているそうです。ETFってのは、ざっくり説明すると、複数銘柄の株式がひとまとめのセットで売られてるようなものです。
お返事きました😲 pic.twitter.com/vobESTNC6a
— xb (@xbtomoki) December 7, 2020
こういう仕訳ということですね。
上記で日銀がコーヒー代をB払いしたときの仕訳はこうでした。
ETFの売買は費用・収益ではなく、資産の交換というところは違いますが、その他の変わったところはコーヒーがETFになっただけですから、両者は本質的には同じもので、日銀のETF買いがB払いであることが分かります。
銀行のB払い
銀行の銀行員への給与支払もB払いの一例です。
銀行員は自身の勤める銀行に預金口座を持っていますので、銀行は、どこかからカネを調達して払うのではなく、ただ単にその銀行員の口座の残高の数字を増やすだけで給与支払を済ませてしまいます。
こういう仕訳になります。
上記で銀行がコーヒー代をB払いしたときの仕訳はこうでした。
こっちはまさにコーヒー代が給与に入れ替わっただけですね。
さて、本題です。
長々と説明をしてきましたので、"B払い"なるものがどんなものなのか、だいぶ理解していただけたかと思います。
それでは、いよいよ"B払い"に何かぴったりな名前を付けてあげたいと思うわけです。
ところがどっこい、
とりあえず、日本語だと、ええのが無いんですよ。
英語でも探してみたんですけど、やっぱり無いんですよ。
で、ですね。
私の結論としては、じゃあもう、「B払い」でいいんじゃね?
というのに行き着きました。B-Treeなんかもきっとこんなノリで名付けられたんでしょう。
ということで、今後、当ブログでは、本記事で解説した"売り手の資産として、自分の負債を発行するという支払方法"を「B払い」と呼んでいくことにします。
以上、よろしくお願いします。
「B払い」…浸透しないかなあ。
ぼくも「あれ作ったのオレ」って言ってみたいなあ。
おまけ
本日のおまけは独り言です。
商品貨幣論でB払いって説明できるんかなあ。無理なんちゃうかなあ。
日本人は本当はもっと豊かになれます。そのためにはもっと多くの人々が貨幣と経済の仕組みを理解しなければなりません。
私たちが、そして次世代の子供たちが、貧困に怯えずに暮らせる日本を目指しましょう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます^^
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