経理屋が読み解く『MMT入門』

『MMT入門』(L・ランダル・レイ,2019,東洋経済新報社)をベースにMMTを解説します。ときには自分の思うところを書き綴ったり。

1-2.内部資産と外部資産

本章では、現代貨幣の理解に必要な基礎の構築に取りかかる。なぜこれが重要なのか、最初は分かりにくいかもしれないが、我慢してお付き合い願いたい。基本的なマクロ会計を理解していなければ、政府の財政に関する議論はおそらく理解できない(そして、最近多くの国を苦しめている赤字ヒステリーを論評することもできない)。

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当ブログは、こちらの複式簿記を説明した記事を読んでいただいている前提で書いています。未読の方は是非ご一読ください。 

xbtomoki.hatenablog.com

 

  

当ブログは、私がこちらの書籍を読んで、理解したことや考えたことを記事にしたものです。

MMT現代貨幣理論入門

MMT現代貨幣理論入門

 

 

内部資産と外部資産

経済をタイプの異なる部門に分類することは、しばしば有益である。最も基本的なのは、政府部門(あらゆるレベルの政府を含む)と民間部門(家計と企業を含む)の区分である。民間部門内の金融資産と金融負債だけを考えるのであれば、金融資産の合計と金融負債の合計は等しくなければならない。

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経済主体を少数の部門に分けると分かりやすくなる

経済主体は、経済学における概念であり、経済活動を行う基本的単位のことである。

経済主体 - Wikipedia

経済主体とは、このように定義されるわけですが、これでいくと、政府、都道府県、市町村、町内会、トヨタ電通、中小企業、私も、あなたも、さらに1つの経済主体である政府の内部組織である財務省もまた1つの経済主体だし、政府の職員もまた1つだし、さらに海外の政府・地方公共団体・企業・個人・組合・・・・と、まあ、いろんな経済主体がそれこそほぼ無限に存在しています。

そして、それぞれがそれぞれと取引をして、その取引の1つ1つが社会全体に影響を及ぼしていて、これが日々行われていて、さらに近年はIT化によって、時間や空間的な障害がほとんど取り払われているという、とんでもないカオスな状態なわけです。

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ということで、このままでは訳が分かりません。そこでこの無数の経済主体を少数のグループに分けてみましょう。

MMTでは経済主体をまず国内部門・国外部門の2つに分けます。当然、全ての経済主体は、必ずこの2つのグループのいずれかに属します。そして国内部門はさらに、政府部門と民間部門に分けることができます。民間部門を企業・家計・組合等に分けることもできますが、本記事で解説する内容はそこまでする意味が無いので、ここでとどめておきます。

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すると、経済主体同士の相互関係はこのように、簡単な図で表すことができるようになります。

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ここで国内だけで経済が完結していると仮定すれば、このようになります。

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これなら相互関係はさらに簡単になります。

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内部取引では純金融資産は動かない

"純金融資産"の定義は、「所有している金融資産の残高から金融負債の残高を差し引いたモノ」です。差し引いた結果がマイナスになるときは、"純金融負債"と呼ぶこともあります。

さて、前回の記事のとおり、

xbtomoki.hatenablog.com

 "誰かの金融資産は、他の誰かの金融負債"ですから、私が自分宛ての借用書を書いて、それを自分で後生大事に抱えていても、それは金融負債でも金融資産でもありません。ただの落書きです。私が金融資産を所有するためには、私以外の誰かに金融負債つまり借用書を発行してもらう必要があります。

ちょっと見づらいので、ここからは"(純)金融資産" "(純)金融負債"でなく、単に"(純)資産" "(純)負債" と書きます。

ここで前述のとおり、国内だけで経済が完結していると仮定したならば、世の中の経済主体は政府部門か民間部門かいずれかに集約できます。

さらに例えば民間部門の中でいろんな会社や個人が取引をして、ある人は純資産を蓄えて、その一方で、ある人は純負債を抱えることになります。

ここで、しつこいようですが、"誰かの金融資産は、他の誰かの金融負債"ですから、民間主体同士の、例えば、ある企業A社が、別のある企業B社に宛てて発行した借用書(民間-民間)は、民間部門全体の資産と負債を同じ額だけ増加させます。すると、部門内部の純資産は差し引きゼロで増えも減りもしません。

これが「内部資産」という考え方です。内部資産は部門内の全部を合計すればゼロに帰ります。

「内部負債」でもいいんでしょうけど、ややこしくする必要もないので「内部資産」で行きます。

内部資産は部門の中で、あっちに行ったり、こっちに行ったりするだけです。内部資産の動きは部門全体の純資産総額にこれっぽっちの影響も与えません。

 

外部と取引をして初めてその部門の純金融資産が生まれる

ですから、民間部門がゼロに帰らない資産を貯蓄するためには「外部資産」すなわち民間以外の部門が発行した負債を獲得しなければなりません。

ここで、世の中に政府部門と民間部門の2部門しか存在しないなら、民間部門が純資産を蓄えるには政府部門の負債を獲得するより他に手はありません。

 

仕訳で見てみましょう

設例:民間企業A社と民間企業B社と政府Gが取引をするときのA・B・Gの仕訳と純資産の推移を見てみましょう。

 

1)A社がB社に100万円の商品を売る

→A:売掛金|売上高 100万円

→B:仕入|未払金 100万円

→Aの資産=100万円、負債=0円→純資産=100万円

→Bの資産=0円、負債=100万円→純資産=-100万円

→民間部門の純資産合計は100万円(A)-100万円(B)=ゼロ

このように、内部資産をいくらいじくり回したところで部門の純資産合計はビクともしません。

 

2)A社が政府Gに100万円の商品を売る

→A:売掛金|売上高 100万円

→G:仕入|未払金 100万円

→Aの資産=100万円、負債=0円→純資産=100万円

→Gの資産=0円、負債=100万円→純資産=-100万円

→民間部門の純資産合計は100万円-0円=+100万円

→政府部門の純資産合計は0円-100万円=-100万円

このように政府部門から"外部資産"を手にした民間部門は純資産を増やすことに成功し、一方、政府部門は純資産残高がマイナスになりました(純負債を負いました)。

 

まとめ

ちょっと長くなってしまいました。最後にまとめをして、ここらでいったん〆にしましょう。

 

1.経済主体は次の3部門に集約できる

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2.資産は次の2種類に集約できる

  • 内部資産(資産の所有者と、裏返しとなる負債の発行者が同じ部門に属する)
  • 外部資産(資産所有者と負債発行者が別の部門に属する)

 

3.ある部門の純資産を動かすには、"内部資産"をどれだけいじくり回したところで無意味である。"外部資産"を手にしなければ、その部門が純資産を持つことはできない。

 

 

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