経理屋が読み解く『MMT入門』

『MMT入門』(L・ランダル・レイ,2019,東洋経済新報社)をベースにMMTを解説します。ときには自分の思うところを書き綴ったり。

落書き:債務残高対GDP比増大の原因考察

この記事はMMT解説ではありません。ふと思ったことを記事にしてみました。

 

きっかけ

先日、いつものようにツイッターで優雅なレスバ会話を楽しんでいたところ、ふと考えさせられたことがありまして。

 

緊縮脳の方がよく口にされるアレがあるじゃないですか。

「債務残高の対GDP比は、我が国は主要先進国の中で最悪の水準となっている。」

財政に関する資料 : 財務省

最"悪"かどうかは、あんたの主観でしょ。公官庁のホームページでワイドショーみたいな印象操作やめろや。ほんま情けない・・・

いかん、いきなり口が悪い。切り替えていきましょう。

「最大である。」か「他の主要先進国と比べて2倍~5倍である。」に修正してくれませんかね・・・

 

このフレーズ、日本人なら誰もがどこかで聞いたことがあると思います。

そして、ワニノクチガーとかを続けて、オチはいつもの「将来世代にこのツケを回していけません。」ですね。

 

さて、ただ、出されているデータ自体は間違いではないんです。データをグラフで見てみましょう。

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1991年のバブル崩壊あたりから日本だけがぐんぐん伸びて、2005年あたり(小泉政権末期)で小休止して、そこからさらにぐんぐん伸びて、2012年(第二次安倍政権開始)から動きが落ち着いてきました。 

 

で、ツイッターで、この債務残高/GDPが諸外国より多いのは、日本人・日本企業の貯蓄率が高いことが原因なのでは?と聞かれまして、

私は、"貯蓄増→カネの循環悪化(GDP減)→困窮者手当増→政府支出増(債務増+GDP増)なのと、貯蓄が多い=民間黒字大=政府赤字大(債務増)、こんな感じの空想はできますけど、よく分かりません。"と回答しました。

ちょっと脱線しますが、テレビで何にも分かってないのに何でも分かってるかのようにただの空想をべらべら話す人がいるじゃないですか。しかも話す内容がクニノシャッキンガーとかだともう最悪。そのまんまの人とか、スシローの人とか、パリ在住設定の人とか、ノンフィクション作家の息子の人とか、あーゆー害悪を見るたびに、「分からないときに正直に分からないって言える勇気だけは持っておこう。」って強く思います。

 

生まれた疑問

貯蓄率との関係は、結局よく分からないままなのですが、

 

それを調べる前に、

"政府債務残高の対GDP比"=政府債務残高 / 名目GDP であって、

この数値で日本が諸外国に差をつける方法は、次の2つがあります。

  1. 諸外国よりハイペースで債務残高を増やす。
  2. 諸外国より名目GDP成長率で後れをとる。
で、もちろんどちらか片方だけではなく、両方が同時に作用したと考えられるわけです。
そこで私は考えました。「どっちの影響の方が大きかったのかを調べてみよう」
正直、「どうせGDPやろ」と思いながら調べたんですけどね。
 
それではいってみましょう。
 

債務残高だけを見てみる

手始めに、GDPの影響を除いてみました。単純に総債務残高の伸び率だけで比較してみます。

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すると、日本の債務残高(2001年比)はドイツ、イタリアと並ぶくらいで、最低レベルのようです。
この時点で、やっぱりGDPの影響が大きい、という可能性が濃厚です。ただ、このグラフだけで結論付けるのは、ちょっと乱暴な気がします。
 

要因別に分けてみる

続きまして、どうせだし、もうちょっとかっこいいグラフが作りたいなと思いまして、

総債務残高/名目GDPの推移を債務増減の寄与による部分と、GDP増減の寄与による部分に分解したグラフを作りました。

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例えば、1981年の総債務残高(約145兆円)は1980年(約122兆円)の118.6%だったので+18.6%として描画、同じく名目GDPは107.3%で-7.3%として描画、債務/GDPは118.6%/107.3%=110.5%で+10.5%として描画し、債務が減る、またはGDPが減る場合は正負を逆に描画しています。

このグラフの見方は、「1981年の債務/GDPは、前年より債務増によって+18.6%、GDP増によって-7.3%の影響を受けて、+10.5%になった。」ということが分かる、という具合です。

これをアメリカ、カナダ、イギリスについても同じくグラフを作りました。アメリカは2000年以前のデータが無かったので2002年からグラフが始まります。

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比べて見づらいと思いますので、ちょっと小さくなってしまいますが、債務/GDPの対前年増減率は除いて、4つを並べてみました。

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日本だけ緑のGDPの寄与がやたら小さく、プラスになったりマイナスになったりウロチョロしています。他の3国は、GDPの寄与がプラスに作用した(GDPがマイナスになった)のはリーマンショックの2009年だけです。

赤の債務の寄与については、あまり違わないか、もしくはむしろ日本がいちばん小さいような印象です。
ただ、カッコいいグラフができたのはいいんですが、このグラフではどっちの寄与が日本と諸外国の差を生み出したのか、いまいちはっきりしません。こういうのを本末転倒と言います。

 

箱ひげ図にしてみました

そこで閃いたのが箱ひげ図です。ピコンときました。

「箱ひげ図って何?」という方はこちらの記事が比較的理解しやすいかと思います。

箱ひげ図とは?見方やエクセル作り方まで解説!外れ値や平均値も確認できる|いちばんやさしい、医療統計

さっきの4国を並べたグラフの、赤の債務の寄与の部分のデータと緑のGDPの寄与の部分のデータをそれぞれ抽出して、箱ひげ図を作りました。

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いや、実に分かりやすい。自画自賛したい。

 

まず、左側の債務残高の寄与ですが、4国に明確な差はありません。むしろ、日本が一番小さいくらいです。これは冒頭2番目に示したグラフのデータとも一致します。債務残高増によって日本の債務/GDPがダントツになった、とは考えられません。

一方、名目GDPの寄与では、日本と他の3国に明らかな差があります。名目GDPの成長によって債務/GDPが押し下げられる働きが、日本においては、他の3国よりも著しく弱かったため、日本の債務/GDPがダントツになった、と考えられます。

 

 

 

それでは、本日ここまで。

 

 

日本人は本当はもっと豊かになれます。そのためにはもっと多くの人々が貨幣と経済の仕組みを理解しなければなりません。

私たちが、そして次世代の子供たちが、貧困に怯えずに暮らせる日本を目指しましょう。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます^^

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なお、当ブログ内に掲載したグラフは、フリー素材として利用していただいて構いません。