経理屋が読み解く『MMT入門』

『MMT入門』(L・ランダル・レイ,2019,東洋経済新報社)をベースにMMTを解説します。ときには自分の思うところを書き綴ったり。

4-3.財政赤字が貯蓄に与える影響 その2

本節では、財政赤字と貯蓄の関係、さらには財政赤字が準備預金と金利に与える影響を確認する。以下の議論は、一般的な性質に関するものである。

MMT現代貨幣理論入門』kindle版 220/553pp


当ブログは、こちらの複式簿記を説明した記事を読んでいただいている前提で書いています。未読の方は是非ご一読ください。 

xbtomoki.hatenablog.com

 

当ブログの中で「B払い」という用語を使うことがあります。これは私の造語なので、ググってもd払いが出てくるだけです。ただ、使わせてもらわないと不便極まりないので、普通に使います。

こちらの記事で"B払い"って何かを説明していますので、記事の途中で「B払いって何やねんな☹️」ってなったらご覧ください。

xbtomoki.hatenablog.com

  

当ブログは、私がこちらの書籍を読んで、理解したことや考えたことを記事にしたものです。

MMT現代貨幣理論入門

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目次 

 

今回は仕訳の話

前回記事では財政赤字(政府の赤字収支)について、マクロ会計の恒等式を出発点に、政府は赤字になるのが普通なんですよ、という話をしました。

今回はもうちょっと細かい話、仕訳の話です。政府の支出と収入、それぞれがどーゆー仕訳になっとるのかを説明します。

 

B払いの話

先日「番外3.B払い」という記事を書きました。ちょっと長い記事なのですが、本記事はこれを読んでもらってる前提で書いていますので、未読の方は先にこちらを読んでいただければと思います。

xbtomoki.hatenablog.com

いやや。その記事は死んでも読みとうない。
と言う方に、ざっくり説明すると、
  • 誰かからカネをもらって、それを右から左へ流すように支払先に渡す、こういういわゆる普通の支払をA払いと呼びます。
  • 自分でカネを創り出して、それを支払先に渡す。こういう支払をB払いと呼びます。

 

政府支出のプロセス 

政府支出(A払いバージョン)

政府支出の実際のプロセスは、とてもややこしいです。

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文章で箇条書きにすると、こういうプロセスです。(一応、図にはこの箇条書きに合わせて青い線を途中に入れましたが、それでも分かりにくいと思います。)

  1. 企業・家計が政府に請求。
  2. 政府が"国庫短期証券"(通称T-Bill)を発行して、日銀から日銀預金を借りる。
  3. 政府が企業・家計へ調達した日銀預金を振り込む(A払い)。日本銀行市中銀行を経由することで日銀預金を銀行預金に変換する。
  4. 政府が国債を発行して、T-Billを国債に振り替える。

訳が分からなくても大丈夫です。見てほしいのは、合計の部分だけですから。

政府がまず日銀預金を調達して、それを支払う、というA払いをすると、政府~企業・家計の仕訳は最終的にはこうなります。

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この仕訳だけなら、そんなに難解ではないかと思います。

政府が企業・家計に支出をして、企業・家計はそれを銀行預金として受け取ります。銀行の資産として国債が、企業・家計の資産として銀行預金が新たに生まれます。

 

政府支出(B払いバージョン)

それでは、政府がB払いで支出をしたらどうなるでしょうか。

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さっきよりもだいぶシンプルですね。これも箇条書きにしてみます。

  1. 企業・家計が政府に請求。
  2. 政府は、銀行経由で国債発行のB払いを行う。

実はこれ、合計がA払いバージョンと全く同じになってます。上に戻って見比べてみてください。

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A払いバージョンはB払いバージョン

ということで、A払いバージョンとして紹介したプロセスは、実質的にはA払いではありません。A払いと言ったな、あれはウソだ。あれはB払いのプロセスです。
2つのバージョンには、ややこしさ以外の違いはありません。このことから、重要な事実が分かります。
 
政府支出は、B払いが基本で、A払いが例外である、ということです。そして、これは理論上だけの話なのではなくて、現実の会計処理がそうなっている、ということも付け加えておきます。例外のA払いってどんなやつなのかは、この後で説明します。
 
ということはですよ。 
[番外3]でこのように説明したとおり、

B払いをカフェ屋さんが許容してくれる限り、私はいくらでもコーヒーを注文できるんですよ。A払いでは、こうはいきません。財布が空っぽになったらそこで打ち止めです。

番外3.B払い - 国債乱発派のMMT解説

B払いは、支払先が許容してくれる限り、いくらでも購入・支払が可能です。

ここで、政府支出の支払先は企業・家計で、企業・家計が受け取るのは銀行預金です。企業・家計が「銀行預金で払われちゃ困るよ」なんてことを言うわけがありません。

よって、政府はいくらでも購入・支払をすることが可能だということになります。

但し、政府が購入しようとするものが"日本円"以外の通貨(例えば米ドル)建てで売られている場合は、いくらでも購入はできませんので、その点は注意してください。

 
ですから、ワイドショーなんかで不安を煽られた仔羊さんに「政府ってお金が無いんでしょ?いまはなんとかなってるらしいけど、いつか破綻してしまうんじゃないかと思うと不安で不安でピーナッツ・・・」って聞かれたら、私はこう答えます。
「とりあえずピーナッツはまじでやばいから忘れよう。でね、政府にお金が無いっていう話だけど、たしかに無いっちゃあ、無いね。でも不安にならなくていいんだよ。政府はお金をいくらでも作れるから、お金を貯め込む必要が無いんだ。だから、貯めてないだけなんだよ。そういうわけで、たしかに政府はお金を持ってないけど、それで破綻したりすることはないんだ。さあ、そのくだらないテレビは消して、一緒に安藤先生のライブ配信を見よう。すぐに気持ちよくなれるよ🙃」
 

徴税のプロセス

さて、支出の仕訳は説明できたので、続いては収入の方です。

少なくとも日本においては、政府の収入は、イコール税収と考えても問題ないでしょうから、徴税のプロセスで説明するとしましょう。

早速、仕訳図を見てみます。

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徴税のプロセスでは企業・家計が政府へ支払います。政府はケチなので、企業・家計のB払いなんて許容してくれません。

現金紙幣、現金硬貨または銀行預金で支払うこと、となっています。まあ、普通は銀行預金で支払いますので、仕訳図は銀行預金でA払いをする形で描いてます。

 

徴税の結果は、こうなります。

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企業・家計が政府に納税をして、政府はそれを日銀預金として受け取ります。ここで、企業・家計の銀行預金が消滅します。(銀行の日銀預金は政府に移動するだけで消滅はしません。)

徴税は、A払いバージョンしかないので、簡単ですね。

 

税金はどこへ行くのか

徴税の結果、政府は日銀預金を手に入れます。そしてこの日銀預金で、支出のときに発行した国債を償還(返済)すると全てがチャラになります。

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でも、実際には償還なんかしません。

だって次の政府支出のときには、また国債を発行するんですから、いちいち償還してても、そんなの手間が増えるだけやないですか。

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ただ、いちいち償還しないことが、税が財源だと誤解される一因になっている、という問題はありますが。

 

政府は徴税で得た日銀預金を次の政府支出に使います。

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これが本当の政府支出のA払いバージョンです。徴収して、そのまま払ってるだけなので当たり前ですが、きれいに全てがチャラになります。

但し、前回記事のとおり、政府収支は赤字(支出>税収)が普通ですから、税収で政府支出の全額を賄うことはハナから無理です。

政府が徴税で得た日銀預金を次の政府支出に使うのは、手間を省いているだけであって、"政府は、まず税収で得たお金で支出をして、税収で足りない分を国債で賄っている"という説明は、間違いです。

実際はもっと悪意のあるワードを使ってますけどね。"国は、国民みんなから集めた税金で年金なんかを支払っています。税金で足りない分は借金をしています。"みたいな…

 

正しくは、こうです。

政府は、国債のB払いで支出します。なので、政府は、(日本円建てで売られていれば、)財・サービスをいくらでも購入することができます。

なお、税収として得た日銀預金が余っていれば、日銀預金のA払いで支出します。但し、そうする理由は、その日銀預金を国債償還に回しても手間が増えるだけやし、置いといてもしゃーしいから、という事務的なものに過ぎません。

 

 
それでは本日ここまで。

 

 

2021/3/3 追記


国民の9割が騙されている?池上彰の大嘘 国庫の資金繰りを徹底解説(室伏謙一×森井じゅん)

最初の10分間くらいで本記事の内容が動画で説明されています。併せて見ていただければ、より理解が深まるかと思います。 

 

 

おまけ

先日、立憲民主党すぎむら慎治さんとツイッター上でちょっとやり取りをさせていただきました。

貨幣の本質を理解されているかどうかが分からないのが不安なところはありますが、社会保険料の実質が税であることは理解されているし、減税を"代替財源"とか変なことを言わずに主張されています。

固定ツイートにされている10本の政策は、ほとんどが賛成できるものでした。もしかすると期待できる方なのかもしれません。要注目です。

 

 

 

日本人は本当はもっと豊かになれます。そのためにはもっと多くの人々が貨幣と経済の仕組みを理解しなければなりません。

私たちが、そして次世代の子供たちが、貧困に怯えずに暮らせる日本を目指しましょう。

 

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