経理屋が読み解く『MMT入門』

『MMT入門』(L・ランダル・レイ,2019,東洋経済新報社)をベースにMMTを解説します。ときには自分の思うところを書き綴ったり。

5-3.租税は総需要を減らす

従って、租税は「通貨を動かす」ことに加え、総需要を安定させるためにも必要なものである。これは、数ある租税の機能のうちの1つに過ぎない(最も重要なものの1つではあるが)。

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当ブログは、こちらの複式簿記を説明した記事を読んでいただいている前提で書いています。未読の方は是非ご一読ください。 

xbtomoki.hatenablog.com

 

当ブログの中で「B払い」という用語を使うことがあります。これは私の造語なので、ググってもd払いが出てくるだけです。ただ、使わせてもらわないと不便極まりないので、普通に使います。

こちらの記事で"B払い"って何かを説明していますので、記事注釈で「B払いって何やねんな☹️」ってなったらご覧ください。

xbtomoki.hatenablog.com

  

当ブログは、私がこちらの書籍を読んで、理解したことや考えたことを記事にしたものです。

MMT現代貨幣理論入門

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目次 

 

"需要"とは

突然ですが、"需要"とは何なのかを考えてみたいと思います。

ヒントになりそうなワードに"有効需要"というのがあります。単なる"需要"と"有効需要"はどう違うのでしょうか。

 

"有効需要"とは

まず、"購買"というワードを「他者にカネを支払って、その他者が持つ資産を譲ってもらうこと」と定義します。

その上で、ある人が購買をするのは、その人に

  • 購買をする意欲
  • 購買をする支払能力
の両方が備わっているときだけだと考えられます。意欲だけで能力が無い人も、能力だけで意欲が無い人も、購買はしません。実際に購買をするのは、意欲と能力の両方が備わった人だけです。

この「需要は、意欲と能力の両方が備わっていて、はじめて意味がある」というのが"有効需要"という考え方です。

なお、単に"需要"と言えば、"有効需要"のことを(少なくとも当ブログでは)指します。

また、"総需要"とは、ある経済圏内(例えば日本国内)の全ての経済主体の需要の総合計です。

 

徴税は総需要を減らす

しつこいようですが、徴税の仕訳を確認しましょう。

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企業・家計が赤字収支になるということは、純資産が減ることとイコールですね。純資産が減るわけですから、当然支払能力が落ちます。

いくら徴税したら、いくら落ちるのかという定量的な関係性は個別具体的な事案によって異なりますが、少なくとも定性的な傾向として、「徴税すれば、企業・家計の支払能力が落ちる」のは間違いなく、徴税と企業・家計の支払能力をグラフにすれば、必ず右下がりになります。

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支払能力が落ちれば、有効需要が減ります。

ということは、

  1. 徴税する。
  2. 企業・家計の純資産が減る。
  3. 総需要が減る。

という因果関係が成り立ちますので、これをまとめると「徴税すると、総需要が減る」つまり「租税は総需要を減らす。」と言えるわけであります。

 

租税調整による総需要の安定化

(´・ω・ `)<ということで、租税は総需要を減らす、と言えるわけであります。

( ゚д゚)<だから何やねん。

そりゃそうです。だからどうしたっちゅう話ですよね。

実は、この「租税は総需要を減らす」という性質は総需要を安定化させるのに利用できます。総需要の変動は、インフレ・デフレに影響しますので、総需要が乱高下すると、物価も乱高下する可能性があって、これは絶対的な悪ではないかもしれませんが、一般的には良いことではありません。

それでは、「租税は総需要を減らす」という性質をどのように利用すれば、総需要を安定させることができるのかを説明していきましょう。

 

まず租税が存在しない世界の総需要はこのくらいだとします。

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ここに租税を課して、あらかじめ総需要をいくらか減らしておきます。

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そうすると、何らかの原因で総需要が増えたとしても・・・

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租税を強化すれば、総需要を減らして元に戻すことができます。

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また、別の何らかの原因で、逆に総需要が減ったときにも、租税を緩めて総需要を元に戻すことができます。

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このようにして、政府は租税を調整することで総需要を安定化させることができるわけです。

 

但し書き

但し、上のグラフでは、[租税強化][租税緩和]のところで総需要がきれいに元に戻っていますが、実際にはそれは至難の業で、政策決定の場面においては、「どのくらいがちょうどいいのか」を模索する必要がありますし、それに、税制をコロコロ変えられると国民生活が混乱しますので、そのへんの兼ね合いも考えなくてはなりません。

が、しかし、少なくとも「租税は総需要を減らす」ことは間違いなく、

このような状況の下で、政権が、財政再建に向けての政権の強いコミットメントをすると、民間経済主体の経済政策に対する信認は回復し、将来不安が解消され、消費をはじめとした経済活動は活発化する。これが、先述のスウェーデンの例で、そのほかイタリアにも見られたという研究がある。

消費税をめぐる5つの論点 | 研究活動 | 東京財団政策研究所

こーゆー「租税を強化すれば総需要が増える」とかいう珍説は、一顧だに値しません。

 

ビルトインスタビライザー

今後ITが進歩していけばどうなるか分かりませんが、少なくとも今現在だと、経済状況の調査にはかなりの時間がかかっています。例えば、内閣府のGDP速報には約2ヵ月のタイムラグがあります。調査結果が出てから、"増税すべきか減税すべきか"みたいな議論を始めても間に合わないわけです。なお、これは調査に意味が無いということではありません。

そこで、この租税を強化したり緩和したりして、総需要を安定化させる仕組みは、自動的に作用するように設計するべきだという発想が生まれてくるわけです

そのような自動的に作用する総需要安定化の仕組みを"ビルトインスタビライザー"と呼びます。

 

例えば、所得税の税率は累進税率になっていて、所得が増えるほどに税率が上がり、逆に所得が下がれば税率が下がります。

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No.2260 所得税の税率|所得税|国税庁より引用

 

"所得が増える"="純資産が増える"="需要が増える" わけですから、所得が増えるほどに税率が上がり、所得が下がれば税率が下がるように税制を設計しておくことで、上記で説明したのと全く同じメカニズムを働かせて、総需要が自動的に安定することを期待できます。

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それでは本日ここまで。

 

 

おまけ

明日、2/17(水)20:00~、安藤先生のYouTubeライブがあります!


【令和3年2月17日 緊急生放送】第3次補正予算成立 国の借金で日本は経済破綻しない!更なる補償の拡大を!

2/17(水)20:00~ですよ! 

 

 

日本人は本当はもっと豊かになれます。そのためにはもっと多くの人々が貨幣と経済の仕組みを理解しなければなりません。

私たちが、そして次世代の子供たちが、貧困に怯えずに暮らせる日本を目指しましょう。

 

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