経理屋が読み解く『MMT入門』

『MMT入門』(L・ランダル・レイ,2019,東洋経済新報社)をベースにMMTを解説します。ときには自分の思うところを書き綴ったり。

5-4."租税による再分配"の問題点

富める者から取り上げ、貧しき者に分け与える。我々はそんな話が大好きだ。しかしそれは、貧困層を支援するためには富裕層により支払われる租税が必要だ、という誤解に基づいている。しかもそれでは、富裕層に対する増税貧困層に対する支援の条件ということになってしまう。

MMT現代貨幣理論入門』kindle版 279/553pp


当ブログは、こちらの複式簿記を説明した記事を読んでいただいている前提で書いています。未読の方は是非ご一読ください。 

xbtomoki.hatenablog.com

 

当ブログの中で「B払い」という用語を使うことがあります。これは私の造語なので、ググってもd払いが出てくるだけです。ただ、使わせてもらわないと不便極まりないので、普通に使います。

こちらの記事で"B払い"って何かを説明していますので、記事注釈で「B払いって何やねんな☹️」ってなったらご覧ください。

xbtomoki.hatenablog.com

  

当ブログは、私がこちらの書籍を読んで、理解したことや考えたことを記事にしたものです。

MMT現代貨幣理論入門

MMT現代貨幣理論入門

 

 

目次 

 

本日のお題

本日の記事は長めです。さっそくお題に行きましょう。

 

再分配とは

"再分配"とか"富の再分配"とか"所得再分配"とかいうワードがあります。

これは「売った買った切った張ったの経済活動が行われると、その結果、ある人には多く、ある人には少なく、富が分配されることになる。この初期分配は、[4-2]のとおり、元から金持ちの人が有利なので、放置すると格差はどんどん拡大する。そこで、政府は、金持ちからカネを取り上げて、取り上げたカネを貧困層に配ってあげる、いわばロビンフッドとか鼠小僧みたいな役回りを演じなければならない。これを再分配と言う。」

f:id:xbtomoki:20210219094151p:plain

だいたいこんな感じの意味です。

 

再分配に物申す

一般的に、再分配は良いことであると考えられていると思います。「再分配はもっと進めるべきで、そのために富裕層への課税を今よりもっと強化しなければならない。」と考えている方も多いと思いますが・・・

(´・ω・ `)<ちょっと待って。それなんかおかしくない? 

( ゚д゚)<お前なんでもかんでもケチつけるのー。中二病か?そういうのよくないよ。

ということで、この「格差を小さくするために、富裕層から税金を徴収して、貧困層にカネを配る」という再分配理論の問題点を挙げていくのが本日のお題です。

 

税は財源ではない

しつこかろうが何度でも言います。

税は財源ではない。

つまり、主権通貨を持つ国の政府は、支出をするために事前に徴税をする必要は無く、たとえ税収がゼロであっても、いくらでも支出することができる。税は財源ではないのである。

5-1.税は財源ではない ver.3 - 国債乱発派のMMT解説

ですから、政府は、貧困層にカネを配るべきだという政策決定をしたのであれば、単純に配ればいいんです。そこに税は必要も関係もありません。

つまり、「富裕層から税金を徴収して、貧困層にカネを配る」という再分配理論は、

  • 富裕層から税金を徴収する→税の話
  • 貧困層にカネを配る→政府支出の話

という、全く別の話をセットにして語っているところに第1の問題点があります。

( ゚д゚)<セットにして語っちゃいかんのか?

(´・ω・ `)<いかんわけじゃないけども、"貧困層救済のために富裕層に課税せよ!"とか、"税収が足りないから貧困層を救済できないよー。"とか、そういう謎理論を生み出してる以外の意味あるか?

( ゚д゚)<ぐぬぬ

 

分断を生みかねない

再分配の考え方は、富裕層と貧困層の間に分断を生む可能性があります。下記はフィクションのつもりですが、もしかしたらそうではないのかもしれません。

 

富裕層の立場

(´・ω・ `)<これから毎月きみの給料の2割を天引きすることになったわ。

( ゚д゚)<え、なんでよ。

(´・ω・ `)<お金を集めて貧しい人たちに配るんやて。

( ゚д゚)<それ取られたらぼくが貧しくなるねんけど。

(´・ω・ `)<せやな。ま、しゃーない。みんなで貧しくなろうや。

( ゚д゚)<その貧しい人たちが自分で稼げばええやんけ。なんでぼくが犠牲にならなあかんのよ。だいたいその"貧しい人たち"って誰やねんな。

(´・ω・ `)<高齢者とか障がい者とか移民とか、まあそのへんやな。自分らで稼げってのはちょっと難しいわ。

( ゚д゚)<そか。じゃあそいつらがいなくなればみんなが豊かに暮らせるんやな。

(´・ω・ `)<待て待て。そういうのよくないよ。

(゚⊿゚)<いや、彼の言うことは正しい!

(´・ω・ `)<誰やお前。

(゚⊿゚)<きみたちが貧しいのは、あいつらのせいだ。叩け!叩け!叩け―!

( ゚д゚)<叩く!叩く!叩くー!

 

貧困層の立場

(´・ω・ `)<はい、今月分な。10万円。

( ゚д゚)<え、こんだけ?家賃と食費だけで全部消えるで。

(´・ω・ `)<せやな。ま、しゃーない。

( ゚д゚)<金持ちからもっといっぱい取れば15万に増やせるんちゃうか?

(´・ω・ `)<そりゃ金持ちから取れれば増やせるけど、そう簡単にはいかんのよ。

( ゚д゚)<なにが難しいねん。

(´・ω・ `)<金持ちだって、楽して稼いどるわけじゃないけーの。自分たちへのごほうび分くらいは残してあげんと稼ぐ気なくしてまうやろ。

( ゚д゚)<はぁ?なんで金持ちの遊びのためにぼくらがひもじい思いせなあかんの?あったまきた!今度金持ち見つけたら石投げたるねん!

(´・ω・ `)<待て待て。そういうのよくないよ。

(゚⊿゚)<いや、彼の言うことは正しい!

(´・ω・ `)<お前誰やねんて。

(゚⊿゚)<きみたちが貧しいのは、あいつらのせいだ。石を投げろ!投げろ!投げろ―!

( ゚д゚)<投げる!投げる!投げるー!

 

そもそも税に再分配の機能があることがおかしい

財務省のホームページの一部をスクショしてちょっとマーカーを入れさせてもらいました。

f:id:xbtomoki:20210218133715p:plain

だから税は財源ではないとあれほど…ま、いまはそこは置いときます。

 

( ゚д゚)<なるほど〜。税には再分配の機能があるのか〜。勉強になるな〜。

f:id:xbtomoki:20210218221501j:image

 

( ゚д゚)<あれ、ないんか?

(´・ω・ `)<そんなもんないぞ。正しくは「税には再分配政策の目的である格差縮小を達成するために利用可能な性質があります。」や。はしょり過ぎて違うもんになっとるがな。

もし仮に税に再分配の機能があるなら、どんどん課税すればするほど格差が縮小する理屈になります。が、そんなわけがありません。

極端なことを言えば、政府が

(゚⊿゚)<国民が団結してコロナ禍に打ち勝つために、痛みを分かち合う必要があります。そこで、コロナ税として全国民に100万円ずつ納税してもらうことにしました!ナイスアイデア

なんて言い出したら、富裕層はちょっと預金を下ろせば済みますが、貧困層は車を売ったり借金したりしなきゃならん人も出てくることでしょう。課税の仕方によっては税が格差を拡大させることもあり得るわけです。

つまり、課税によって再分配の効果(格差縮小)が得られたとしても、それは再分配の効果が得られるような課税をしたからです。税に再分配の機能があるからではありません。分かりにくいですね。

サッカーで例えてみましょうか。

ボールを蹴ってゴールに入ったとしますよね。

なんでそのボールはゴールに入ったのかと言えば、それはゴールに入るように蹴られたからですよ。なのに、「ボールを蹴ってゴールに入った。」という事象を見て「ボールはゴールに入るようにできているんだ。」と言うのはおかしいじゃないですか。

(´・ω・ `)<結局分かりにくいの。ま、しゃーない。

 

富裕層に課税するなという意味ではない

ここまでさんざん文句を言ってきましたが、"富裕層に課税しても意味が無い"とか"富裕層に課税するべきじゃない"とか、そういうことが言いたいわけではありません。

富裕層を狙い撃ちで課税すれば、格差が小さくなることは間違いありませんし、自由競争を放置すれば、格差はどんどん拡大していくので、政府がそこにある程度の手を加えることは、むしろ必要なことだと思います。

ただ、事実でないことは事実でないと指摘されるべきでしょう。

 

おさらいしておきます。

  • "富裕層への課税"と"貧困層への給付"をセットで議論することにはメリットも必要もありません。税は財源ではないからです。
  • "富裕層への課税"と"貧困層への給付"をセットで議論することは必要ないどころか、分断を生む可能性すらあります。
  • 税に再分配の機能はありません。税にあるのは、「再分配政策の目的である格差縮小を達成するために利用可能な性質」です。
 
 
それでは本日ここまで。

 

 

おまけ

西田昌司先生の一問一答に私の質問が採用されました。


「西田さん、そもそも国民に主権があるとおかしいと本当に言ったのですか?」週刊西田一問一答おまけ

ぶっちゃけてしまうと、だいたいどういう趣旨だったのかは、ググり倒して知ってたのですが、

  • 本人発信の説明が見つけられなかったので、確信が持てなかった。
  • ツイッターとかで西田さんの言いたいことはそうじゃねえんだと反論したいときに動画があったら便利なのになーと思った。

ということで、西田先生のホームページに行って質問を書き込んだところ、そこまで汲み取ってくれたのかどうかは分かりませんが、まさに「これが欲しかったのよ」という動画をアップしていただけました。西田先生、ありがとうございます。

これからはこの↓画像を見かけるたびにこちらの動画を貼って、そうじゃないんだよと教えてあげようと思います。いっぱいブロックされそうですね。楽しみです。

f:id:xbtomoki:20210218161354p:plain

こーゆー画像が存在するからといって、本人がこういう発言をした証拠には全くならんし、仮にこういう発言をしていたとしても、どういう趣旨での発言かも分かりませんよね。こんなもん、貨幣と同じで誰でもいくらでも作れるんですから。とすると、そもそも円に信任があることがおかしいんじゃ・・・いかん、脱線しとる。なのに、これが存在して拡散されるだけで、たくさんの人が「西田ろくでもない」と思い込んでしまうんですよね・・・

たぶんテレビ新聞と同じ感覚で見てるんでしょうね。メディアに出てる情報がウソなわけがない、と。テレビ新聞に出てる情報だってウソじゃないとは全く限らないのにもかかわらず・・・私自身もこの画像を初めて見たときは「えっ、こういう人だったの?」ってなりかけたんで、人のことは言えませんが。

 

ちなみに動画で西田先生が述べられていた意見に対する私の考えは、以下のとおりです。

非常に筋道の通った意見だと思います。明確に賛成だ反対だと言えるレベルまで自分の考えがまとまってないのですが、少なくとも「私たちには主権があるんだから、天皇制廃止でも何でもやっていいんだ。」みたいな考え方よりはずっとマシなのは間違いないでしょう。

それに「保守思想」っていうのはまさにこういうものなんだな、というのが良く分かりました。日の丸振り回して中国人の悪口を言うのは保守でも何でもありません。ただのレイシストです。

 

 

日本人は本当はもっと豊かになれます。そのためにはもっと多くの人々が貨幣と経済の仕組みを理解しなければなりません。

私たちが、そして次世代の子供たちが、貧困に怯えずに暮らせる日本を目指しましょう。

 

‪最後まで読んでいただき、ありがとうございます^^

応援コメント、指摘コメント、お待ちしております!当ブログの拡散も大歓迎です!

よろしくお願いします!