経理屋が読み解く『MMT入門』

『MMT入門』(L・ランダル・レイ,2019,東洋経済新報社)をベースにMMTを解説します。ときには自分の思うところを書き綴ったり。

6-2.固定為替相場制とは(2)

重要なのは、変動為替相場においては、為替レートに影響を与えようとすることは裁量的だということである。それに対して、固定為替相場では、政府は為替レートが変動しないようにするための政策をとらなければならない

MMT現代貨幣理論入門』kindle版 305/553pp


当ブログは、こちらの複式簿記を説明した記事を読んでいただいている前提で書いています。未読の方は是非ご一読ください。 

xbtomoki.hatenablog.com

 

当ブログの中で「B払い」という用語を使うことがあります。これは私の造語なので、ググってもd払いが出てくるだけです。ただ、使わせてもらわないと不便極まりないので、普通に使います。

こちらの記事で"B払い"って何かを説明していますので、記事注釈で「B払いって何やねんな☹️」ってなったらご覧ください。

xbtomoki.hatenablog.com

  

当ブログは、私がこちらの書籍を読んで、理解したことや考えたことを記事にしたものです。

MMT現代貨幣理論入門

MMT現代貨幣理論入門

 

 

目次 

 

前回のおさらい

  • 固定為替相場(固定相場制)とは、ブレトンウッズ体制のように、政府が為替レートをいくらと約束・保証する仕組みです。

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  • 固定相場制と変動相場制の違いは、「為替レートが固定されているかどうか」ではなく「政府が為替レートについて約束をしているかどうか」です。
  • 政府が為替レートを固定する仕組みは、日銀が国債金利を操作する仕組みと似ていて、"儲けを無視して、安くなったら高く買って、高くなったら安く売る"というものです。但し、買うときにB払いが効かないので、外貨準備が尽きたら破綻しますし、宣言するだけでコントロールしたりはできません。

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  • 外貨準備を増やす方法には、次の3つがあります。
  1. 固定レートを引き下げる
  2. ドルを借りる
  3. 対外収支を黒字化する
  • 固定レートを引き下げると、実質の外貨準備を増やせます。
    例えば、1ポンド=2.8ドルのレートにおける2800ドルは1000ポンド分の準備になりますが、これを1ポンド=1.4ドルに引き下げると、2800ドルは2000ポンド分の準備になります。
  • ドルを借りれば、単純に外貨準備が増えます。
    但し、返せるあてのない借金は、ポンジー状態を引き起こして、準備どころか火の車になりえます。

 

(´・ω・ `)<うし。ま、こんなもんかの。

( ゚д゚)<おうよ。んで、3つめの"対外収支を黒字化する"をこれから説明してくれるんやな。

(´・ω・ `)<せやで。準備はええか?

( ゚д゚)<ばっちこーい。

(´・ω・ `)<すまんが、今回の記事はだいぶ長くなってもうた。いつもの倍くらいあるわ。分けようかと思ったけど、なんか切りどころが分からんくての。

( ゚д゚)<そか。まあそういうこともあるやろ。切り替えてこ。

(´・ω・ `)<ありがとナス。やさしいのう。

 

対外収支を黒字化する

"対外収支黒字"とは、↓こういう状態のことです。経済学者は"資本収支"と呼びますが、分かりにくいのでこう呼ぶことにします。

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対外収支黒字を生む要因には貿易黒字・出稼ぎ労働者の送金・インバウンド・国外からの利子や配当・・・その他いろいろ考えられますが、ここでは貿易で考えてみましょう。

 

イギリス国民が輸出つまり外国にモノを売って代金を受け取ると、ポンド高になります。

これはどういうことかと言うと・・・

(´・ω・ `)<はい。イギリス名物ミートパイをどぞ。280ドルになります。

( ゚д゚)<いつもおいしいミートパイをありがとナス。280ドルね。どぞ。

そしてイギリス人の(´・ω・ `)は、[2-2]のとおり、ドルのままだとイギリス国内では使いづらいので、この280ドルを為替市場で売って100ポンドに替えます。そうするとポンドが為替市場で買われるわけですから、ポンド高になります。

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このように、イギリス国民が輸出をすると、ポンド高になります。逆に輸入をすれば、ポンド安になります。

 

( ゚д゚)<これ、ぼくがポンドで代金を支払ったら成り立たへんのとちゃうか?

(´・ω・ `)<んなこたないで。ポンドは空から降ってこーへん。きみはそのポンドを支払う前に為替市場でポンドを買ってきとるはずや。せやから、それはぼくがポンドを買うか、きみがポンドを買うかの違いしかあらへん。

( ゚д゚)<ほんほん。

 

つまり、輸出額と輸入額を差し引きして、輸出額の方が多い(輸出>輸入)状態すなわち貿易黒字が継続するとポンド高になっていき、貿易赤字ならポンドは安くなっていきます。

これは別に貿易に限った話ではありませんから、その要因が何だろうが、↓こうなっていればポンド高になっていきます。

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勝手にポンド高になっていく状態であれば、イギリス政府は、適宜ポンド通貨を発行して、ポンド売り(ドル買い)をやってるだけで、固定レートを維持しながら外貨準備も増やしていくことができます。

( ゚д゚)<おお、これええやんけ。

(´・ω・ `)<パッと見、良さげやな。

( ゚д゚)<あかんのんか。

(´・ω・ `)<ちと問題がありますねん。

 

貿易黒字を達成する2つの方法

(´・ω・ `)<輸出 > 輸入 こういう状態にしようっちゅう話やんな?

( ゚д゚)<やんな?って言われてもやな。きみが言うたんやんか。

(´・ω・ `)<せやったの。すまんすまん。でな、政府が 輸出 > 輸入 こういう状態に持ってくためには何をしたらええと思う?

( ゚д゚)<そういうのもうええよ。はよ。

(´・ω・ `)<どしたん。なんでイライラしとん。

( ゚д゚)<別にイライラしてへんよ。はよ次いこや。

(´・ω・ `)<いやいやいや、イライラしとるじゃん。どしたんよ。

( ゚д゚)<イライラしてへんて。

(´・ω・ `)<ほらーイライラしとるー。

( ゚д゚)<はよせえて。

(´・ω・ `)<へいへーい。イライラ坊主ー。

( ゚д゚)<はよせえて!!!!!

 

さて、輸出 > 輸入 こういう状態に持ってくには、

  • 輸出を増やす
  • 輸入を減らす

この2つしか方法はありません。それぞれの詳しいところを見ていきましょう。

 

輸出を増やす 

輸出を増やすのは大変です。タンゴは2人いなければ踊れず、売買の主導権は常に買い手にあるからです。

つまり、モノを売るには買ってくれる人が必要ですから、イギリス人が輸出を増やすためには、

  1. おいしいミートパイを作る
  2. ミートパイ好きな( ゚д゚)を見つける
  3. ( ゚д゚)がウンと言ってくれる値段で売る
という3つの壁を越えなくてはならず、政府が国民にこれをクリアさせるためには、おいしいミートパイを作る生産者を育てなければならず、そのためには国内の企業や大学や研究機関に投資をしなければなりません。しかし、もちろん投資にはリスクがあり、投資をすれば、必ず輸出が伸びるとは限りません。一種の賭けです。
もし賭けに負けて、投資先の産業が伸びなければ、投資のために発行したポンドの分、ポンド安になってしまって逆効果です。
ここで、なぜ日本の産業が落ちぶれたのかを見事に表したマンガを紹介したいと思います。
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また、投資をしてすぐに成果が出れば別ですが、普通はそんなことはなくって、投資をしてから成果が出るまでにはそれなりの時間がかかります。少なくともその間は必ず赤字になりますので、そこを凌ぐための外貨準備が先立つものとして必要になります。

外貨準備を稼ぐために投資をするという選択ができる国は、すでにある程度の外貨準備を持っている国に限られるわけですね。

 

輸入を減らす 

一方、輸入を減らすのはクソが付くほど簡単です。税をかければいいんです。輸入という行為に掛かる税は、"関税"と呼ばれます。

それか、政府支出を絞って、関税以外も増税して、つまり緊縮財政を展開して、国民を貧乏にすればいいんです。そうすれば、貧乏な国民は輸入品が買えないので、輸入が減ります。

国民を貧乏にすると、さらに"いいこと"があります。貧乏な国民は、輸入品だけでなく国内で作られた製品も買えなくなるので、国内メーカーは、自社製品を外国へ売りに行かなくてはならなくなり、そうすると、さらに輸出が増えます。

( ゚д゚)<対外収支黒字を目指すには、リスクを取って投資するか、国民を貧乏にするか、どっちかをやらなあかんっちゅうことか。

(´・ω・ `)<そういうことや。ただ、ここでもタンゴは2人おらな踊れへん。投資して対外黒字になっても、誰かの黒字は誰かの赤字じゃけーの。イギリスが黒字になったら、その分だけどっかの国が赤字になっとる。そこにも注意しといてな。

 

ブレトンウッズ体制の終わり

( ゚д゚)<そしたらばよ、結局、外貨準備を増やす選択肢は3つて言うてたけど、対外収支黒字には2通りの方法があるけー、実際はこの4つやな。

  • レートを切り下げる
  • 外貨を借り入れる
  • 投資に成功して他国民を貧乏にする
  • 緊縮して自国民を貧乏にする

(´・ω・ `)<せやな。今日は飲み込みがええの。

( ゚д゚)<なんか全部いまいちな感じやな。あと、今日だけやないで。

(´・ω・ `)<固定為替相場制ってのは、そーゆーもんや。しゃーない。状況に合わせて、このうちいちばんマシな選択肢を選んでいくしかないわ。

( ゚д゚)<せちがらいのう。裏技とか無いん?

(´・ω・ `)<あるで。

( ゚д゚)<あるんかい。

(´・ω・ `)<借りるだけ借りて踏み倒す。

( ゚д゚)<・・・ちょっと気づいたことがあんねんけど。

(´・ω・ `)<どしたん。

( ゚д゚)<ブレトンウッズ体制って「固定相場制を全世界でやりましょう」っていう話やんな?

(´・ω・ `)<大体そんな感じやな。

( ゚д゚)<なんとなくの勘で言うんやけど、ええかな?

(´・ω・ `)<ええんやで。はよ。

( ゚д゚)<これ、無理じゃない?絶対どっかの国が破綻せえへん?

(´・ω・ `)<そのとおりや。今日は冴えとんな。じゃけーやめたんじゃ。1971年にアメリカがニクソン大統領のときに「金とドルを交換するのやめます!」て言い出してん。ニクソンショックて言うねんけどな。それでブレトンウッズ体制は終了して、以降、先進国は次々と変動為替相場制に移行したんや。

( ゚д゚)<ほんほん。

 

・・・( ゚д゚)<今日だけやないで。

 

1ドルは1ドルです。以上。

固定相場制とは「自国通貨の為替レートについて何らかの約束をする」ことでしたね。例えば↓こんな感じです。

( ゚д゚)<1ドルは1/35オンスのゴールドと等価です。政府は、このレートでの交換を約束します。

一方、変動相場制とは「自国通貨の為替レートについて何の約束もしない」ということです。↓こんな感じですね。

( ゚д゚)<1ドルは1ドルです。以上。

 

ポイントはやはり、為替レートに関する約束の有無です。変動相場制国の政府が約束しているのは自らが発行した通貨を額面に書かれてあるとおりのものとして、つまり"1ドルを1ドルとして"取り扱うことだけです。

変動相場制を採用し、自国通貨の為替レートについて何の約束もしない政府、例えばアメリカ政府は、外貨準備の不足を心配する必要がありません。1ドルが1ドルであり続けるために、外貨準備は全く必要ないからです。

外貨準備を必要としないアメリカ政府は、もはや通貨安も、そして対外赤字も気にする必要はありません。世界中のモノをいくらでもドルのB払いで買えるようになったわけです。無敵状態です。

 

( ゚д゚)<待て待て。

(´・ω・ `)<なんや。しばくぞ。

( ゚д゚)<なにこの人こわい。

(´・ω・ `)<おお、すまん。つい。

( ゚д゚)<いくらでもドルを刷って輸入しまくっとったら、どんどんドル安になるやんけ。いくら気にせんでええって言うても限度がありそうなもんや。

(´・ω・ `)<それがどんどんドル安とはならへんのよ。ええか?結局のところ、タンゴは2人おらんと踊れへんのんじゃ。この掛け合いだってぼく1人では成り立たへん。きみがおってこそもんや。いつもありがとうな。ほんまありがとナス。

( ゚д゚)<いえいえ、こちらこそ・・・って何の話やねん。ドル安はどこいったんや。

(´・ω・ `)<あいや、脱線したわ。ええか?タンゴは2人おらな踊れへん。アメリカが輸入するってことは、誰かがアメリカに輸出しとるっちゅうことや。

( ゚д゚)<たしかにせやな。

(´・ω・ `)<その輸出国が例えば日本やった場合、ドル安になるっちゅうことは、同時に円高になるちゅうことやな。円高は、輸出国にとっては不利じゃけー、あんまり円高になれば日本は輸出が減って円安に向かうわな。輸出国が日本やなくて、固定相場制の国やったら有利不利とか関係なしに高くなった為替レートを下げなあかん。そしたら勝手にドル安が是正されて元に戻るわけや。

( ゚д゚)<ほー、よーできとるな。

(´・ω・ `)<ルシャトリエの原理みたいなもんや。実際、アメリカはずっと対外赤字やけど、ドルの為替レートが下がり続けるなんてことは起きてへん。このグラフを見よ。

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( ゚д゚)<たしかに1ドル100円くらいで安定しとんの。ところでルシャなんとかてなんや。

(´・ω・ `)つルシャトリエの原理 - Wikipedia

( ゚д゚)<ぜんぜんわからんわ。

(´・ω・ `)<そか。しゃーない。切り替えてこ。

 

そして世界は平和になったんや

(´・ω・ `)<アメリカが変動為替相場制で巨額の対外赤字を引き受ける。そしたら、よその国は対外黒字を維持できる。ほいで、アメリカはドルのB払いで世界中の生産品が手に入るし、アメリカ以外の国は(アメリカ様が欲しがるようなモノを作れば)自国民に貧乏させずに固定為替相場制を維持できる。win-winってやつや。こうして世界は平和になったんや。

( ゚д゚)<ほんほん。ええ話やないか。なんで最初からそうせんかったん?

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( ゚д゚)<分からんのんか。

(´・ω・ `)<正直分からへんわ。あてずっぽうやけど、コロンブスの卵ってやつちゃうかな。金本位制じゃないと"ハイパーインフレになる―"とか、"通貨の信認が失われる―"とか、そういう謎理論っちゅうか思い込みに縛られとったんかもな。

( ゚д゚)<思い込みかー。ニクソンさんはそこから見事に抜け出したんやな。すげえ人じゃの。

(´・ω・ `)<んー・・・ニクソンさんも「そうか!貨幣の本質はB払いの記録なんや!固定相場制なんか必死こいて維持する必要なんかないやん!」みたいなこと考えて金との交換をやめたんとちゃうと思うで。実際はただのラッキーパンチで、単に↓こんなんやっただけなんちゃうかな。

(゚⊿゚)<もう交換する金ないー!無理ー!無理無理ー!

 

まとめ

  • 固定相場制国の政府は、1)レート切り下げ 2)外貨借り入れ 3)投資に成功して他国民を貧乏にする 4)緊縮して自国民を貧乏にする の4つの選択肢から、少なくともどれか1つを選びながら国家運営をしていかなければならない。
  • 固定相場制と変動相場制の違いは、為替レートに関する約束の有無である。固定相場制国の政府では、固定レートでの交換という約束を果たすための外貨準備が必要になる。一方、変動相場制国の政府が約束するのは、自国通貨を書いてあるとおりの金額で受け取ることだけなので、外貨準備は全く必要ない。
  • 変動相場制では、対外赤字が続いても、必ずどんどん通貨安になるとは限らない。アメリカとタンゴを踊りたい国が勝手にバランスを取ってくれるからである。アメリカはずーっと対外赤字だが、ドルの為替レートは安定している。
なお、変動相場制国の政府は、為替レート維持や外貨準備をする必要が無いだけであって、実際には、変動相場制国の政府だって大抵はいくらかの外貨を準備していますし、為替介入を行うことも普通にあります。
つまり、固定相場国の選択肢が上記の1)~4)の4つしか無いのに対して、変動相場国にはそんな制限は全くありません。変動相場制国の政府は、1)~4)の中から選んでもいいし、それ以外の無限の選択肢の中からベストと思うものを選ぶことができるわけです。
これが前回記事[6-1]冒頭のやりとりへの答えになります。

( ゚д゚)<逆に言うと、「固定為替相場制にすると、政策余地が狭まる。」っちゅうことやんな?

(´・ω・ `)<そういうことや。

( ゚д゚)<それってどういうことなん?もうちょい詳しく教えてや。

 
 
 
 
それでは本日ここまで。

 

 

おまけ

おっぺんまいやーさん

https://twitter.com/hrdpckuusioeutw?s=21

YouTubeチャンネル「緊縮財政更生委員会」で、私の記事『番外3.B払い』を取り上げていただきました!


新しい概念「B払い」!!実はお金は負債だった!!

コメントも付けましたが、改めまして、ここでも感謝したいと思います。ありがとうございます!

自分でも記事を見返してみたら、直したいところがちょいちょいありましたね。そのうち『B払い』のver.2記事を書こうかなあ。

 

 

 

日本人は本当はもっと豊かになれます。そのためにはもっと多くの人々が貨幣と経済の仕組みを理解しなければなりません。

私たちが、そして次世代の子供たちが、貧困に怯えずに暮らせる日本を目指しましょう。

 

‪最後まで読んでいただき、ありがとうございます^^

応援コメント、指摘コメント、お待ちしております!当ブログの拡散も大歓迎です!

よろしくお願いします!