経理屋が読み解く『MMT入門』

『MMT入門』(L・ランダル・レイ,2019,東洋経済新報社)をベースにMMTを解説します。ときには自分の思うところを書き綴ったり。

6-7.ユーロの欠陥(4)

確かに、変動為替相場を採用する国でも、為替レートへの圧力を避けるために国内政策に制約を設けるかもしれない。しかし、固定為替相場を採用している政府は、固定するという約束についてデフォルトを強いられる可能性がある。一方、変動相場制もしくは管理された変動相場制を採用する政府は、していない約束のデフォルトを強いられることはない。

MMT現代貨幣理論入門』kindle版 352/553pp


当ブログは、こちらの複式簿記を説明した記事を読んでいただいている前提で書いています。未読の方は是非ご一読ください。 

xbtomoki.hatenablog.com

 

当ブログの中で「B払い」という用語を使うことがあります。これは私の造語なので、ググってもd払いが出てくるだけです。ただ、使わせてもらわないと不便極まりないので、普通に使います。

こちらの記事で"B払い"って何かを説明していますので、記事注釈で「B払いって何やねんな☹️」ってなったらご覧ください。

xbtomoki.hatenablog.com

  

当ブログは、私がこちらの書籍を読んで、理解したことや考えたことを記事にしたものです。

MMT現代貨幣理論入門

MMT現代貨幣理論入門

 

 

目次 

 

ユーロ危機 その後

( ゚д゚)<ほいでほいで?

(´・ω・ `)<え?なんですか?

( ゚д゚)<前回、ユーロ危機のことを教えてくれたやんか?

(´・ω・ `)<せやな。

( ゚д゚)<ほいでその後はどうなったん?PIIGSヤバいよって噂になって、それから?

(´・ω・ `)<ああ、そゆこと。どうなったと思う?

( ゚д゚)<そーゆーのええから。はよ。

(´・ω・ `)<せっかちやのー。まあまあ、いったん前回のおさらいしとこか。

 

前回のおさらい

PIIGSは、工業化が遅れていて生産能力が不足していて、たくさん輸入をしなければ国民生活が成り立たないので、常に経常収支赤字でした。

また、[4-2]のとおり、民間部門の収支は、基本的に黒字でないと国民生活は荒廃してしまいます。

さて、マクロ会計の恒等式
【政府収支+民間収支-経常収支=0】
より、経常収支が赤字(マイナス)で、かつ民間収支が黒字(プラス)ならば、政府収支は必ず赤字(マイナス)になります。

つまり、PIIGSは、生産能力不足による経常収支赤字が続く限り、国民生活を守るためには財政赤字が避けられず、債務が膨らみ続けて、いつか必ず非自発的デフォルトに追い込まれることが初めから運命づけられていました。

これはユーロ危機によって発生した問題ではありません。PIIGSの経常収支赤字に起因する財政赤字・デフォルトの問題は、ユーロ発足のときから存在していた問題であり、ユーロ危機は、隠れていた問題を浮き彫りにして、デフォルトまでのタイムリミットを縮めただけに過ぎません。

 

ギリシャ"救済"策

( ゚д゚)<おけ。PIIGSの経常収支赤字が大元の原因やったの。

(´・ω・ `)<ほいで、EUギリシャに提示した解決策がこちらでございます。

 

(゚⊿゚)<緊縮して財政黒字にしたらええやんけ。

 

( ゚д゚)<いやいやいやwwそれができたら苦労してへんやろ。そんなんやったら民間部門が大赤字やんけ。

(´・ω・ `)<おっしゃるとおりや。でもな、理屈が通じる相手じゃないねん。

( ゚д゚)<え、これほんまにやったん?マジんこ?

 

マジんこです。

ギリシャは、緊縮財政によって、2016年にはついに(゚⊿゚)ねんがんのザイセイクロジをてにいれたぞ!となったわけですが、経常収支は赤字のままだったので、民間部門は大赤字となりました。

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但し、ギリシャ国民はただEUの言うがままに緊縮の道を歩んだわけではありません。詳しく知りたい方は前回のおまけで紹介した↓こちらをどうぞ。

 

さて、EUギリシャに提示した"救済"策パッケージの具体的な中身が↓こちらです。

  • 増税しなさい。特に消費税な。
  • 支出を削りなさい。特に年金な。
  • 公営事業を民営化しなさい。
  • 国有資産を売りなさい。
  • カネが無い?じゃあ貸してあげよう。でも後で利子付けて返せよ。

なんか日本政府が国内で進めてる政策と似てますね。

( ゚д゚)<これ、"救済"する気あるんか?
(´・ω・ `)<たぶん無いな。

(゚⊿゚)<失礼な!これは唯一の実現可能な解決策だ!ギリシャ政府の財政赤字を減らすには、収益を増やして支出を減らす、つまり緊縮財政しか無い!当たり前じゃないか!

( ゚д゚)<それ、政府は黒字になるかもしれんけど、民間が大赤字になるで。

(゚⊿゚)<何を訳の分からないことを!政府がちゃんと緊縮すれば財政黒字は可能だ!民間も一生懸命働けば黒字になる!政府も民間も黒字になる!めでたしめでたしというわけだ!ハッハーッ!

( ゚д゚)<政府も民間も黒字ってことは経常収支が黒字にならなあかんな。どこの国がギリシャにカネ払うん?

(゚⊿゚)<"どこの国がギリシャにカネ払うん"?何を訳の分からないことを!外国人は関係ない!これはギリシャの国内問題で、怠惰な浪費家というギリシャ人の国民性が問題の原因だ!必要なのは、ギリシャ人が真摯に反省し、ドイツ人のように勤労と倹約に目覚めることだ!

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本日のお題

( ゚д゚)<救済する"気"だけはあったのかもしれんな。

(´・ω・ `)<どうなんかねえ。まー、とりあえず、あれじゃあ、話にならへん。そこでや。この"ドイツ以外は常に経常収支赤字による債務危機予備軍"っていうユーロ圏が抱える問題構造を解決するにはどうしたらええかを考えてみよ。これが本日のお題や。よろしゅうな。

( ゚д゚)<まかしときー。

(´・ω・ `)<ちゃうちゃう。ぼくが教える側よ。このネタ、前回もやったし、3回目よ。

( ゚д゚)<ええがな、減るもんじゃなし。

 

解決策その1:財政統合

解決策その1は、財政統合です。

( ゚д゚)<ん?財政統合てどーゆーこと?

(´・ω・ `)<ECBは覚えとる?

( ゚д゚)<ああ、[6-4]で教えてくれたやつ。全ユーロ使用国共通の中央銀行で、日本で言う日本銀行みたいなやつやろ?

(´・ω・ `)<せや。そのECBにユーロ使用国の全政府で共有する1つの預金口座を作るんや。

( ゚д゚)<ほんほん。ほいでほいで?

財政統合した各国政府が徴税したカネは全てその共有口座にまとめられて、支出するカネも全てその共有口座から引き出されます。

共有口座ですので、そこに入っているカネがドイツのカネなのかギリシャのカネなのかは区別されません。みんなのカネです。

予算は、全ユーロ使用国の代表者が一同に集う"ユーロ議会"みたいな会議を開いて、そこで全ユーロ使用国分の予算を全員で決めます。各国に独自の予算編成権はありません。

また、国債は、各国政府の債務ではなくユーロ使用国全体の債務として発行され、ユーロ使用国全体で償還・利払いをします。

全ユーロ使用国の経常収支の合計は、↓このとおり黒字ですので、ユーロ圏全体が民間黒字かつ財政黒字でもある状態は実現可能であり、財政統合は、ユーロ圏から債務危機を無くす解決策になり得ます。

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但し、これは、ドイツ人の納めた税金がギリシャ人のために使われることをフランス人とオランダ人が決めてしまうかもしれないことを意味します。

( ゚д゚)<理屈としては分かるけど、これに納得するドイツ人はおらんやろ。

(´・ω・ `)<せやな。もしドイツがふざけるな言うてユーロを離脱したら、ユーロ圏全体が経常収支黒字ってのが崩れて民間黒字と財政黒字の両立ができひんくなっておしまいや。

( ゚д゚)<あと、これ、なんか"都構想"に似てへん?

(´・ω・ `)<ああ、あれは大阪市のカネを維新が横領し放題にするのが目的やったけー(私の個人的推測です)、そこはだいぶ違うけど、仕組み自体はほとんど同じやな。

( ゚д゚)<んー、なんか嫌な感じやの。他のないんか?

(´・ω・ `)<ほいだら次行こか。

 

解決策その2:ECBによる債務買い上げ

もうひとつの解決策は、「いよいよやばくなったらECBが債務国政府の国債を買い上げてチャラにしてくれる」というルールを作っておくことです。

ECBは、ユーロ建てのB払いができますので、その気になれば、全ユーロ使用国の国債を全部まとめて投資家から買い上げて、チャラにしてしまうことも可能です。

このルールがあれば、いざとなれば間違いなくECBが代わりに払ってくれるわけですから、投資家はデフォルトの心配をせずにカネを貸すことができます。

よって、ギリシャが例えどれだけ財政赤字を抱えていても[6-5]のような財政赤字スパイラルに陥ることはなく、金利が上がることも無くなります。

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( ゚д゚)<おお、これええやんけ。

(´・ω・ `)<ぼくもこれがええと思う。これならドイツが抜けてユーロ圏が経常収支赤字になっても関係ないしな。でもまあ、問題点っていうか障害が多いねんな。

( ゚д゚)<ほんほん。と言いますと?

現行のECB規定は、特定の政府を救済するための国債買い上げを禁止しています。
ECBを作ったそもそもの目的は、「ユーロ使用国から通貨主権を取り上げて、救済の道を閉ざし、各国政府の財政を市場原理に晒すことで緊縮を強いること」でした。
ですから、ECBが国債を買い上げて債務危機国を救済するルールを作ることは、ECBの存在意義を否定することになります。

( ゚д゚)<自己否定したくない気持ちは分からんでもないけど、そんなんギリシャの困っとる人を助けるのに比べたらどうでもええやろ。問題点ってこれだけ?

(´・ω・ `)<あとは、どうせ救済してくれるやろっちゅうことでリアルガチ放漫財政をする国が現れるかもしれへん。

( ゚д゚)<それは「いよいよやばくなったら」の具体的な中身を工夫すれば済む話やろ。

(´・ω・ `)<んー、まだあるんよ。

( ゚д゚)<まだあるんか。なによ。

(´・ω・ `)<ギリシャをブタ扱いできひんようになったらドイツにとって面白くない。

( ゚д゚)<あほくさー。

 

解決策その3:グレグジット

( ゚д゚)<もうさ、ギリシャは、あんなあほくさいユーロ圏をどうこうするんは諦めてユーロから離脱した方がええんちゃうか。そしたら通貨主権も復活して万事解決や。

(´・ω・ `)<ああ、グレグジット(Grexit)な。ユーロをやめて、元のドラクマに復帰したらええやんっていう案やな。でもな、残念ながら、そう簡単にはいかんのよ。

( ゚д゚)<いかんのんか。

グレグジットをすれば、たしかに今後発行するドラクマ建ての国債でデフォルトする心配は無くなります。ですが、いますでにあるユーロ建ての債務が消えるわけではありません。

( ゚д゚)<そんなもん、デフォルトしたったらええやんけ。

(´・ω・ `)<「ユーロやめまーす」言うて、すぐにできるわけやないで。いろいろ制度設計したりするのに少なくとも1年くらいはかかるやろ。その間はユーロを使うしかないんやで。その1年の間、デフォルトするって分かりきっとるギリシャ国債を誰が買ってくれるんや。誰も買い手がつかんかったら、今以上に悲惨なことになるで。

( ゚д゚)<ほんほん。なるほどな。

(´・ω・ `)<それに、その1年間をどーにかこーにか乗り切ったところで、そこから先もしんどいしな。

( ゚д゚)<と言いますと?

[6-6]のとおり、ギリシャが経常収支赤字になっていた根本原因は、ギリシャ国内の生産能力不足です。つまり、ギリシャは、生産能力が足りないので、外国からたくさん輸入しないと国民生活が成り立たない経済構造になっています。

ここを解決しないことには、グレグジットしたところで、経常収支赤字は変わらないので、どんどんドラクマ安になり、輸入品物価が上がっていきます。
しかし、いくら物価が上がろうとも、生活のためには輸入をしないわけにはいかないので、物価は上がり続けて、国民はグレグジット前より余計に困窮してしまう、ということになる恐れが大いにあります。

(´・ω・ `)<この苦難の時期を耐えながら、政府が諦めずに投資を継続して、国内の生産能力を高めて、いつか輸入に頼らんでも国民の需要を満たせるような国になったら、やっとそのときにグレグジットが報われることになるな。

( ゚д゚)<たしかにしんどいのー。その苦難の時期ってどんくらいになるん?

(´・ω・ `)<そんなん分からへんよ。10年か、20年か、それかずっと続いて、いつまでも報われへんかもしれへん。

( ゚д゚)<あいやー。こんなあほくさいのやめたったらええのに、と思ったけど、そう単純な話じゃないんやな。

(´・ω・ `)<そーゆーこっちゃ。

 

まとめ

[6-2]のとおり、変動相場制にすれば、政策余地は無限に広がりますが、十分な供給能力と国内需要が備わってない国が安易に変動相場制を採用してしまうと、かえって痛い目を見ることになってしまいます。
とはいえ、いつまでも固定相場制では通貨主権が無く、政府は何をするにも「ザイゲンガー」「クニノシャッキンガー」と戦い続けなければなりません。逆に言うと、主権通貨国で「ザイゲンガー」「クニノシャッキンガー」と喚くことは全く意味がありません。但し、ドイツや中国のような巨大な経常収支黒字国であれば、この戦いはずいぶんと楽になります。 

 

最後に第6章の内容を表にまとめます。

世界にはいろんな国がありますが、それらは↓このように大きく3つに区分できます。

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"弱い固定為替相場制国"が、いきなり変動相場制を採用しても真の主権通貨国にはなれません。
その前に、まず供給能力を高めて、経常収支が常に黒字である"強い固定為替相場制国"に到達する必要があります。
その後、国内の需要を大きくして、高めた供給能力を国内で消化できるようになって、はじめて真の主権通貨国になることができます。

いま、日本はこれの逆コースを進行中です。すでに国内需要は減り始めていますし、供給能力も落ち始めています。菅さん、中小企業つぶしたら日本が良くなるとか、そんなわけないでしょ。いまからでも遅くないから、竹中さんとかアトキンソンさんとかつまみ出して(´・ω・ `)

 

ちなみに、主流派経済学だと、こんな感じの区分になるんですかね。

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( ゚д゚)<これはさすがにバカにしすぎちゃうか。

(´・ω・ `)<ありゃ、そかの。

 

次回予告

(´・ω・ `)<以上で『ユーロの欠陥』シリーズはおしマイケルや。ほんで、第6章「現代貨幣理論と為替相場制度の選択ー失敗するように設計されたシステム『ユーロ』ー」もおしマイケルやわ。

( ゚д゚)<そか。おつかれさん。

(´・ω・ `)<次回からは第7章「主権通貨の金融政策と財政政策ー政府は何をすべきか?ー」をやっていくで。よろしゅうな。

( ゚д゚)<まかしときー。

(´・ω・ `)<ちゃうちゃう。ぼくが教える側よ。これ、そろそろ減るよ。

 

 

それでは本日ここまで。

 

 

おまけ

"解決策その2:ECBによる債務買い上げ"なんですが、これ、考えれば考えるほど良いアイデアですね。

ギリシャは、中途半端に工業化とかにリソースを割かずに観光に全振りして、ドイツ人に観光資源を提供する。ドイツ人は、ギリシャの美しい海・美味しい料理・良質なホテルサービスを満喫できる。
ドイツは、同じく工業生産に集中してギリシャ人に工業製品を提供する。ギリシャ人は、ドイツの高品質な家電製品を使って便利に暮らせる。

ギリシャ人もドイツ人もwinwinです。これが"国の借金"を気にせず実行できるようになります。ユーロ圏の各国がそれぞれの得意分野を持ち寄って助け合い、互いが互いを豊かにすることが可能になります。EUを立ち上げたときの理想がまさに現実になることでしょう。

 

まあ、どーせブタがどーのこーの言って実現せんのでしょうけどね(´・ω・ `)

ヴェルサイユ条約ナチスを生み出したことをまるで反省していないようで残念です。

 

 

 

日本人は本当はもっと豊かになれます。そのためにはもっと多くの人々が貨幣と経済の仕組みを理解しなければなりません。

私たちが、そして次世代の子供たちが、貧困に怯えずに暮らせる日本を目指しましょう。

 

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