経理屋が読み解く『MMT入門』

『MMT入門』(L・ランダル・レイ,2019,東洋経済新報社)をベースにMMTを解説します。ときには自分の思うところを書き綴ったり。

番外4-5.インフレに関する考察 その5

 

本記事はMMT解説ではありません。私がMMTをベースに理屈をこねくり回して考えたことを記事にしたものです。


当ブログは、こちらの複式簿記を説明した記事を読んでいただいている前提で書いています。未読の方は是非ご一読ください。 

xbtomoki.hatenablog.com

 

当ブログの中で「B払い」という用語を使うことがあります。これは私の造語なので、ググってもd払いが出てくるだけです。ただ、使わせてもらわないと不便極まりないので、普通に使います。

こちらの記事で"B払い"って何かを説明していますので、記事途中で「B払いって何やねんな☹️」ってなったらご覧ください。

xbtomoki.hatenablog.com

  

目次 

 

本シリーズのお題

「インフレ・デフレがどういう仕組みで起きるのかがよく分からない。」

これが長いこと私の悩みのタネでした。

三橋貴明さんがよくこの図↓を使って「需要が供給より大きくなればインフレに、逆ならデフレになる。」と言われます。

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新世紀のビッグブラザーへ データ44

インフレデフレは需要と供給のバランスによって起こり、バランスが需要の方に傾いたときにはインフレが起こる。

たしかにそうです。実際にもそうなってますし、それは分かってるんです。

ただ、私がよく分からんと言ってるのは、そのもう一歩先というか、手前というか、「なんで需給バランスが需要側に傾いたら物価が上がるのか」ということなんです。

 

MMT現代貨幣理論入門を読みました。
需給バランスによって起こると書いてありました。

財政赤字の神話: MMTと国民のための経済の誕生も読みました。
需給バランスによって起こると書いてありました。

マンキュー マクロ経済学Ⅰ入門篇(第4版)も読みました。
紙幣をいっぱい刷ったらインフレが起きると書いてありました。ハイハイワロスワロス

 

仕方がないので、自分で考えてみることにしました。その考えが多少なりともまとまったので、ここで書いてみることにしました。もしよろしければ、感想や指摘等をいただけたらありがたいです。

ただ、とても長くなりそうなので、「インフレに関する考察」シリーズということで、数回に記事を分けようと思います。5本以上になりそうです。

ということで、シリーズ5本目やっていきましょう。よろしくお願いします。

 

前回までのまとめ

前回までのまとめを確認しておきます。

  • 《インフレ》とは、「任意の財・サービスの価格が上昇すること」である。なお、上昇するのは価格であって、価値ではないことに注意されたい。
  • 《価格》は、できるだけ安く買いたい買い手と、できるだけ高く売りたい売り手が、互いに交渉して、折り合いが付いた値段のことである。つまり、価格とは、人と人との売買交渉の合意点である。
  • 価格と価値の関係性はかなり薄い。価格が価値とは関係なく上下することはいくらでもある。
  • 価格は、人と人の合意さえあれば、何にでも、いくらでも付けることができる

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  • 価格の上昇は、良い買い手が多い【売り手有利】の状況、または良い売り手が少ない【買い手不利】の状況で起きる。

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  • 需給バランスが需要側に偏ることによってインフレが生じる仕組みは、次の図のとおりである。

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  • インフレ・デフレの本質は、需給バランスではなく、買い手側・売り手側それぞれの《競争》のバランスにある。
  • 要因は、需給バランス以外にも無数にあるが、その影響は買い手(売り手)の競争促進(競争阻害)の4パターンに集約できる。
  • 買い手の競争促進と売り手の競争阻害は価格上昇圧力になり、買い手の競争阻害と売り手の競争促進は価格下落圧力になる。
  • 上昇圧力と下落圧力が同時にかかり、大きい方の影響だけがインフレまたはデフレという目に見える現象として現れる。

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本日のお題

前回、プライスボードを使い、株の値動きが競争バランス仮説で説明できることを示しました。

(´・ω・ `)<そこで私はひらめいたのです。

( ゚д゚)<なんじゃー、すずさん。

(´・ω・ `)<すずさん誰やねんて。まあええわ。ぼくは思いついてもうたんや。株価以外の普通の財・サービスの価格変動の仕組みもプライスボードで説明できるんちゃうか?ってな。

( ゚д゚)<ほんほん。逆に考えてみたわけやな。

(´・ω・ `)<そういうこっちゃ。よし、ほいじゃあ早速始めてみよか。

*プライスボードの見方が分からない方は、先に[4-5]をご覧ください。

 

プライスボードによる説明

それでは、前回話題に出した"市場独占"、"コンサート値上げ"、その他いろいろをプライスボードで説明できるか、やってみましょう。

 

市場独占

前回[番外4-4]で、市場独占について、このように説明しました。

独占は、売り手側の競争を阻害します。独占市場では、売り手が1つしか無いので、買い手は「嫌ならよそで買います。」が使えないからです。売り手側の競争が阻害されれば、価格は上昇します。

これをプライスボードで表現すると、こうなります。 

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コンサートチケット値上げ

続いて、コンサートチケットの値上げについては、このように説明しました。

よって、楽団の経営者は、定期的に楽団員の賃上げを実施しなければいけません。定期的に賃上げをしながら楽団の経営を維持するには、定期的にチケット代を上げなければなりません。これは、チケットを安く売ることができなくなっているわけですから、売り手側の競争が阻害されている、と解釈することができます。

つまり、クラシックコンサートのチケット代が上がっているのは、社会全体のインフレによって楽団員の賃上げが必要になったから(そしてクラシック愛好家が値上げを受け入れたから)です。

これもプライスボードで表現できます。 

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10万円一律給付

2020年の第1回緊急事態宣言のときに、政府は、「特別定額給付金」ということで、住民基本台帳に登録されている全員に一律で10万円を給付し、総額およそ13兆円が配られました。[出典]

一般論としては、買い手がカネ持ちになれば、買い手の競争が促進されて、買い注文の量が増えたり、高値の買い注文が出るようになったりして、価格上昇圧力が働き、インフレが生じるはずです。そして、特別定額給付金では13兆円という大きな金額が国民の手に渡ったわけですから、普通は、インフレ発生が予想されます。

ところが、ご存知のとおり、これっぽっちもインフレは起きませんでした。

これは、【原状が相当デフレに傾いてたから、この程度の圧力じゃインフレに傾くには全然足りなかった】ということなんだと思います。これもプライスボードを使って、次のように表現できます。

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超安値のところに大量に貯まった買い注文のうち、いくらかが少しばかり上がってきたとしても、相場価格には、全く影響を与えなかったということなのでしょう。

 

マスク不足

10万円給付では、これっぽっちもインフレは起きませんでしたが、その時期には、マスクの価格だけは高くなっていました。

このマスクインフレは、

  • 中国からの輸入が途絶えて供給が滞った。
  • 緊急事態宣言等によってマスク需要が高まった。

この2つの要因が重なったことによるものだと考えられますが、これもプライスボードで説明できます。

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10万円給付とマスク不足の違い

なぜ総額13兆円の10万円給付ではインフレが起きず、マスク不足では大きな価格上昇が起きたのかは、影響した市場の大きさ(売り注文・買い注文の量)の違いによって説明が付きます。

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( ゚д゚)<そしたら大きな市場ではどうなったら価格上昇が起きるん?

(´・ω・ `)<そら、140のところに買い注文が入ったときや。ほいで、140のところに買い注文が入るためには、130のところの売り注文が全部さばけてしまわんとあかんわけやな。

 

おわりに

というわけで、私は、インフレデフレを理解・表現するのには、プライスボードを使うのが分かりやすくて良いんじゃないかと思うわけですが、いかがでしょうか。

もちろん、このプライスボードは、商品の種類の数だけ無数に存在し、しかも刻一刻と動き続けるので、神様でもない限り、実際に把握することはできません。本記事の中で描いたプライスボードの中の数字は、全て適当なものですし、あくまでイメージを可視化しただけに過ぎないので、これを使ってインフレがいつ起こるかを予測したりすることはできません。

そういう何か画期的なツールを発明しましたとか、そういうつもりはありませんが、インフレデフレがどういう仕組みなのかを説明するときには、このプライスボード方式が便利なんじゃないかと思い、提案してみた次第でございます。

( ゚д゚)<うーし、長かったのー。おつかれさん。

(´・ω・ `)<まだあるで。

( ゚д゚)<まだあるんか。何よ。

(´・ω・ `)<たぶんあと1本か2本で最後やな。インフレ関連で答えを出しときたい具体的なテーマが4つあるんや。

( ゚д゚)<ほんほん。と言いますと?

(´・ω・ `)<こちらでござい。

  • 「政府支出の拡大が続くと、どこかで臨界点に達して、ある日突然ハイパーインフレが起きるかもしれない。」という緊縮派の意見を否定したい。
  • 「今後、日本は人口が減少していくんだから、需要は伸びていかない。需要が伸びないんだからデフレが続き、インフレは起きない。」という脱成長論を否定したい。
  • 配当金だけが増えて、賃金が全く増えない問題を政策的に解決できないか。
  • アメリカ株の価格は、今後も上がり続けるのか。

( ゚д゚)<ほんほん。なんか最後のやつだけだいぶん毛色が違うの。

(´・ω・ `)<ぼくが経済に興味を持ったきっかけの1つがこれやったけーの。ここでやっときたいねん。それに、きみもこういうの好きやろ。

( ゚д゚)<まあ、嫌いじゃないけどよ。

(´・ω・ `)<よーし、ほいじゃあ次行ってみよー。

 

 

それでは本日ここまで。

 

 

おまけ

ちょっと暗い話を・・・政府がワクチン接種の推進に一生懸命になってるようで、それ自体は否定するつもりはないのですが、一生懸命な割にはワクチン不足を隠しながら職域接種を急がせたりするんで訳が分からんなとも思うのですが、それは置いといて、不安なことがありまして。

というのは、ワクチン希望者全員接種完了の後の計画が見当たらないんです。

テレビニュースとかでも聞かないし、ググっても出て来ないし、たぶん政府内で考えてないんじゃないかと思うんですよね(´・ω・ `)

(゚⊿゚)<ワクチンが行きわたれば、なんとなくええ感じになってくれへんかな。いや、きっとなるやろ。そうじゃないと困るし、てことは、なんとかなるに違いない。おお、落ち着いて考えてみたら、なんとかなるに決まっとるやないか。いやー、よかったよかった。

とか考えてるんじゃないでしょうか。さすがにそこまでじゃないといいんですが。

 

で、私が何を心配しているかと言いますと、

どうやら重症化予防には効くけど、感染予防にはならないという話もありますし、希望者全員接種完了しても、陽性件数はそんなに減らない可能性もあるかと思うんですが、もし減らなかったときに、

(゚⊿゚)<ワクチン接種が足りない!

とか、「改革が足りない!」みたいなノリで言いださないか、ということなんです。

(゚⊿゚)<ワクチン接種が足りないから陽性件数が減らんのだ!とはいえ、ワクチン接種を希望してない国民に強制はできない・・・そうだ!接種をしてない奴らを悪者にする空気感を作って、接種しないと日本に住めなくしてやれば、自主的に接種するようになるだろう!

( ゚д゚)<それのいったいどこが"自主的"やねん。

私は、いまのところワクチン接種をしないつもりなんですが、こんなんやられたら、さすがにどうしようかな・・・いや、それでも打たんかな。こんなんで打たされたらむかつくし。

 

 

 

日本人は本当はもっと豊かになれます。そのためにはもっと多くの人々が貨幣と経済の仕組みを理解しなければなりません。

私たちが、そして次世代の子供たちが、貧困に怯えずに暮らせる日本を目指しましょう。

 

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