経理屋が読み解く『MMT入門』

『MMT入門』(L・ランダル・レイ,2019,東洋経済新報社)をベースにMMTを解説します。ときには自分の思うところを書き綴ったり。

番外5-1.消費税の仕組み【価格転嫁とは】

 

本記事は、MMT解説ではありません。

思うところを[番外]ということで記事にしてみました。

 

当ブログは、こちらの複式簿記を説明した記事を読んでいただいている前提で書いています。未読の方は是非ご一読ください。 

xbtomoki.hatenablog.com

 

当ブログの中で「B払い」という用語を使うことがあります。これは私の造語なので、ググってもd払いが出てくるだけです。ただ、使わせてもらわないと不便極まりないので、普通に使います。

こちらの記事で"B払い"って何かを説明していますので、記事途中で「B払いって何やねんな☹️」ってなったらご覧ください。

xbtomoki.hatenablog.com

 

本記事における税制の説明はこちらのwebページで公開されているPDFの内容に基づいています。

www.nta.go.jp

  

目次 

 

本日のお題

最近、ガソリン価格の高騰が話題になっていますが、ガソリン価格の構造は、一般に次のように説明されています。

  1. ガソリン税がガソリン1リットルにつき53.8円課税される。
  2. さらに《石油税》がガソリン1リットルにつき2.8円課税される。
  3. ガソリンの本体価格+ガソリン税+石油税に10%の《消費税》が課税される。
  4. ガソリン価格=本体価格+ガソリン税+石油税+消費税

ということで、例えば、ガソリンの本体価格が100円/リットルだったら、ガソリンの販売価格は172.66円/リットルになります。

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これについては、このような指摘がされることがしばしばあります。

ガソリン税や石油税に消費税が掛かるのは二重課税なのではないか。」

 

が、結論だけ述べますと、このときに二重課税は生じていません。

( ゚д゚)<あれ、そうなん。どゆこと?

(´・ω・ `)<それがちゃんと説明しようとしたらちょっとややこい話やねん。

( ゚д゚)<まあまあ、恥ずかしいことじゃないけー、おっちゃんに話してみ。

(´・ω・ `)<ほいじゃあ、たぶん長くなるけど聞いてくれるかな?

( ゚д゚)<いいとも!

 

間接税とは

《間接税》とは、納税者が価格転嫁することを想定されている税のことです。価格転嫁が想定されてないのが《直接税》です。

( ゚д゚)<想定って誰が想定するん?

(´・ω・ `)<徴税する側の政府や。徴税される側の国民がどう考えとるかは関係ない。

( ゚д゚)<ほんほん。それと「価格転嫁」って何じゃい。

(´・ω・ `)<そこや。

( ゚д゚)<ここか。

(´・ω・ `)<せや。そこや。その「価格転嫁」がキモやねん。ただ、いきなり価格転嫁を説明しても分かりにくくなってまうから、その前にガソリン税の仕組みを説明するで。

( ゚д゚)<うい。

 

ガソリン税の仕組み

ガソリン税は「揮発油税法」で規定されている税で、その仕組みは、この↓とおりです。「ガソリン税」は通称で、正式には「揮発油税」ですが、馴染みのある「ガソリン税」で説明を進めます。

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【ガソリン工場からガソリンが1リットル出荷されるたびに、ガソリンメーカーに53.8円の納税義務が生じる】というだけのシンプルな仕組みです。

が、しかし、実際にはこれで終わりではなく、ガソリン税は価格転嫁されます。

 

ガソリン税の価格転嫁

ガソリン税の本来の目的(立法趣旨)は、「道路整備の財源を道路を使用する人、つまりガソリンの消費者に負担してもらおう。」というものでした。税は財源ではないので、この狙いがそもそもナンセンスなのですが、そこはいったん置いときます。一般財源化されて、この本来の目的も失われましたが・・・

ところが、消費者にガソリンを買うたびに税務署に納税しに来てもらったり、税務署がガソリン税徴収のための職員をガソリンスタンドに張り付かせるのは現実的ではありません。

そんなときに便利なのが《価格転嫁》です。

 

例えば、ガソリン税が存在しない世界で、消費者に1リットルのガソリンが届くまでの流れがこう↓なってるとします。

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これにガソリン税が加わると、ガソリンメーカーは政府に53.8円を徴収されて、赤字になってしまいます。

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そこで、ガソリンメーカーは、出荷するガソリンを53.8円値上げして、この負担をガソリンスタンドに転嫁します。そしてガソリンスタンドも販売価格を53.8円値上げして、ガソリン税の負担を消費者に再転嫁します。

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そうすると、ガソリン税53.8円を実質的に負担するのは消費者ということになり、政府は、ガソリンメーカーからの納税を受け付けるだけで、手間を掛けずに、狙いどおりに、消費者にガソリン税を負担させることができます。

これが《価格転嫁》の仕組みです。

(´・ω・ `)<「民間部門でこういうことが行われるだろう」って想定されとるのが間接税っちゅうことや。

( ゚д゚)<ほーん。

 

誰がガソリン税を払っているか

(´・ω・ `)<さて、ここで問題です。

( ゚д゚)<ばっちこーい。

(´・ω・ `)<この図↓の中で、ガソリン税を支払っているのは誰でしょう?

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( ゚д゚)<消費者!

(´・ω・ `)<ブッブー、正解はガソリンメーカーでしたー。

( ゚д゚)<えっ、なんでよ。ガソリン税の53.8円は消費者の財布から出とるんじゃないんか。

(´・ω・ `)<消費者は253.8円でガソリンを買っただけや。ガソリン税は払っとらん。

( ゚д゚)<なんやその屁理屈。しばくぞ。

(´・ω・ `)<しばくな。

( ゚д゚)<うい。

(´・ω・ `)<屁理屈だろうがなんだろうが、政府はこういう考え方をしとるんや。まずはいったんそれを理解しんさい。文句を言うんはそれからや。

 

価格転嫁しなかった場合

( ゚д゚)<さて、ここで質問です。

(´・ω・ `)<ばっちこーい。

( ゚д゚)<これさ、ガソリンメーカーが価格転嫁せんかったらどうなるん?

(´・ω・ `)<そらこう↓なるだけよ。政府は価格転嫁されてようが、されてなかろうが、関係なしでルールどおりに1リットルにつき53.8円をガソリンメーカーから徴収しよるで。

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( ゚д゚)<あらま、そしたら価格転嫁せんかったら、ガソリンメーカーは消費者の代わりに税金を負担することになるんか。そらきついの。

 

価格転嫁が行われるのは法の枠外

ここで「揮発油税法」の規定を再確認します。

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政府は、これが価格転嫁されることを想定していますが、あくまで想定しているだけであって、「価格転嫁をしなければならない」という法的強制力は存在しません。

【ガソリンメーカーがガソリンを出荷して、その出荷量1リットルにつき53.8円を納税した】という時点で、"法律上"は、ガソリン税に関するプロセスは完結しています。

ガソリン税はこの↓図のピンクの枠内だけの話であるわけです。

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つまり、価格転嫁は、この枠の外側で民間部門同士が"勝手に"行っていることであって、実際に価格転嫁をするかどうかは納税者(ガソリンメーカー)が決めることです。転嫁しなかった場合の損害は納税者の負担になり、そうなっても政府は「知ったことではない」と、粛々とガソリン税を徴収します。

また、ガソリン税が転嫁された価格(203.8円)は、「本体価格150円+ガソリン税53.8円」という計算で割り出された額ではありますが、ガソリン税は政府と納税者の間だけで完結していますので、その枠外で行われる取引にガソリン税は存在しません。存在するのは、単純に「ガソリンメーカーがガソリンスタンドに203.8円でガソリンを売った。」という事実だけです。

 

なぜ二重課税でないのか

それでは、なぜガソリン税・石油税に消費税率が掛かっている状態が二重課税ではないのかを説明します。

 

石油税の仕組み

石油税を規定しているのは「石油石炭税法」で、仕組みはこうなっています。これも価格転嫁が想定されている間接税です。

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ガソリン税の課税対象が「ガソリンの出荷」だったのが、「原油の輸入」に変わったのだけです。

 

消費税の仕組み

消費税を規定しているのは「消費税法」で、仕組みはこうなっています。これも価格転嫁が想定されている間接税です。

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( ゚д゚)<「事業者」って何?「資産の譲渡等」って何?「対価の額」って何?

(´・ω・ `)<えと、その疑問はもっともやけど、消費税の仕組みはクソ複雑やから、詳しい話は次回以降にさせてちょんまげ。

( ゚д゚)<そか。ちょんまげって何?

(´・ω・ `)<そこはひっかからんでええねん。

( ゚д゚)<うい。

 

価格転嫁がかぶってるだけ

この図に戻って、ガソリン税・石油税・消費税がどこにいくら課税されるかを考えてみましょう。

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  1. ガソリンメーカーの原油輸入に石油税が2.8円が課税される。
  2. ガソリンメーカーのガソリン出荷にガソリン税が53.8円が課税される。
    →本体価格150円に石油税2.8円+ガソリン税53.8円が転嫁されて、出荷価格が206.6円になる。
  3. ガソリンメーカーの出荷価格206.6円に消費税20.66円が課税される。
    →出荷価格が206.6円+20.66円=227円(端数切捨て)になる。
    →ガソリンスタンドの販売価格が227円+50円=277円になる。
  4. ガソリンスタンドの販売価格277円に消費税27.7円が課税される。
    →販売価格が277円+27.7円=304円になる。

( ゚д゚)<訳が分からんぞ。

(´・ω・ `)<せやろな。図にしよか。

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(´・ω・ `)<ほれ、同じとこに2つ課税されとるところなんか1つも無いじゃろ。ただ、たまたま全部の税の価格転嫁の行き先が消費者でかぶっとるだけや。もっと言うと、消費者はガソリン税も石油税も消費税も課税されとらん。課税されとるのはガソリンメーカーとガソリンスタンドや。

( ゚д゚)<んー、まあ、せやけど・・・

(´・ω・ `)<納得しにくいのは分かるけど、いったん飲み込んどいてくれ。まだ話したいこともあるでの。

( ゚д゚)<ういー。

 

気持ちの問題?

冒頭で間接税と直接税の違いは、【価格転嫁が想定されているかどうか】だと説明しました。

ですが、消費税法にも揮発油税法にも「納税者は、この税を価格転嫁しなければならない。」なんてことは書いてないし、政府は、ガソリン税や消費税等の間接税が価格転嫁されることを想定していますが、あくまで想定しているだけです。

つまり、《価格転嫁》は、不文律というか、政府が「私たちはそういう前提で考えますよ」って言っとるだけで、法律上の根拠はありません。

( ゚д゚)<じゃあ、もし政府が「今日からガソリン税は価格転嫁されない前提で考えることにします。」って言ったら、ガソリン税は直接税になるん?

(´・ω・ `)<なかなかそんなことは無いやろうけど、もしそうなったら、そうなるな。

( ゚д゚)<じゃあじゃあ、もし直接税になったとしてやな、それでも民間部門がそれを無視して価格転嫁してたらどうなるん?

(´・ω・ `)<政府はそれを無視して「ガソリン税は直接税だ」って言うやろな。

( ゚д゚)<てことは、その税が直接税なんか、それとも間接税なんかってのは、政府の気持ちの問題ってことか?

(´・ω・ `)<んー、まあ、そーゆーことになるの。

( ゚д゚)<うぇーい。ハイロンパー。

(´・ω・ `)<なんやそれww

 

 

それでは本日ここまで。

 

 

おまけ

経団連財務省が消費税増税が必要な理由として挙げる「直間比率の見直し」について、私見というか勝手な推測を少々・・・

 

( ゚д゚)<あの「直間比率の見直し」とかいうやつはいったい何なん?直間比率を変えてどういう意味があるん?

(´・ω・ `)<ん?経団連とか財務省とかがよく言っとるやつ?「日本は直接税と間接税のバランスが直接税に偏り過ぎてる。もっと間接税の比率を増やして、ヨーロッパ並みの5:5を目指すべきだ。」っていう。

( ゚д゚)<おう、それそれ。

(´・ω・ `)<意味なんか無いよ。

( ゚д゚)<えっ。

(´・ω・ `)<経団連は、大企業の代表じゃけー、株式配当を増やしたいんよ。そのためにとにかく法人税を下げたくって、目指すはゼロ。タックスヘイブンや。んで、消費税は下請けに押し付ければええから、いくら上がっても困らへん。

( ゚д゚)<ほんほん。クソみたいな話やな。

(´・ω・ `)<一方で財務省は、法人税みたいに景気次第で増減するやつより、毎年安定しとる消費税が税収全体に占める割合を増やしたいんよ。

( ゚д゚)<ほんほん。それもクソみたいな話やな。

(´・ω・ `)<その両者の利害が「法人税を下げて、消費税を上げる」で一致したんや。でも、「目指せタックスヘイブン」とか言ったら叩かれるやんか。そこで、何かもっともらしい理由付けが必要になって、ひねり出した"それっぽいワード"が「直間比率の見直し」や。そんだけのことよ。どういう意味も何も、意味なんか無いよ。

( ゚д゚)<なんやそのクソみたいな話。

 

 

日本人は本当はもっと豊かになれます。そのためにはもっと多くの人々が貨幣と経済の仕組みを理解しなければなりません。

私たちが、そして次世代の子供たちが、貧困に怯えずに暮らせる日本を目指しましょう。

 

( ゚д゚)<最後まで読んでいただき、ありがとうございます!!!

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