経理屋が読み解く『MMT入門』

『MMT入門』(L・ランダル・レイ,2019,東洋経済新報社)をベースにMMTを解説します。ときには自分の思うところを書き綴ったり。

番外5-11.消費税の仕組み【外注化による節税スキーム】

 

本記事は、MMT解説ではありません。

思うところを[番外]ということで記事にしてみた次第です。

 

当ブログは、こちらの複式簿記を説明した記事を読んでいただいている前提で書いています。未読の方は是非ご一読ください。 

xbtomoki.hatenablog.com

 

当ブログの中で「B払い」という用語を使うことがあります。これは私の造語なので、ググってもd払いが出てくるだけです。ただ、使わせてもらわないと不便極まりないので、普通に使います。

こちらの記事で"B払い"って何かを説明していますので、記事途中で「B払いって何やねんな☹️」ってなったらご覧ください。

xbtomoki.hatenablog.com

 

本記事における税制の説明はこちらのwebページで公開されているPDFの内容に基づいています。

www.nta.go.jp

 

目次 

 

本日のお題

前回までで、これらの説明をしてきました。

( ゚д゚)<あのさ。

(´・ω・ `)<なんじゃい。

( ゚д゚)<まだあるん?

(´・ω・ `)<それがあるんよー。

本日のお題はこちらです。

【消費税の外注化節税スキームとは】

( ゚д゚)<外注化って何じゃい。

(´・ω・ `)<社内でやっとる仕事を自分らでやるのをやめて、外部に委託することや。

( ゚д゚)<ほんほん。そしたら節税って何じゃい。

(´・ω・ `)<課税される額を合法的に少なくすることや。違法に少なくするのは「脱税」やな。

( ゚д゚)<ほんほん。あと、スキームって何じゃい。変な横文字やめてや。ぶちのめすぞ。

(´・ω・ `)<ああ、すまんの。そこまで怒られるとは思わんかったけど、日本語でしっくりくるワードが見つからんくての。んーと、「●●を■■して、○○を□□して、ほいで、△△を◆◆して、そうすると▲▲が▼▼になります。」みたいな計画っちゅうか、「詐欺の手口」とか言うやろ。その"手口"が日本語でたぶんいちばん近いワードや。

( ゚д゚)<ほーん。要するに、なんかうまいことやれば、消費税の負担が減らせるっちゅうことか。

(´・ω・ `)<まあ、そういうことや。

( ゚д゚)<おお、そらあええ話やないか。みんなに教えたろうや。

(´・ω・ `)<んー、それはちょっと・・・

( ゚д゚)<ん?あかんのんか?

(´・ω・ `)<ちと問題があっての。まあ、後で分かるわ。それと、説明を単純にしたいから、税率は10%・仕入税額控除は全額控除方式ってことで進めるけーの。

( ゚д゚)<そか。ほいじゃあ、よろしゅう。

(´・ω・ `)<ういー。

 

スキームの説明

例えば、社長のAさん・社員のBさんの2人で経営しているこんな感じ↓の会社(X社)があったとします。

  • 年間の課税売上は3300万円
  • 年間の課税仕入は2200万円
  • Aさん・Bさんの年間給与はどちらも440万円(合計880万円)

[番外5-3]のとおり、給与支払は不課税取引なので、AさんとBさんの給与は仕入税額控除の対象になりません。よって、このときのX社の税引前利益・消費税納付額・消費税引後利益をそれぞれ計算すると、このように↓なります。

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さて、ここで

  1. Bさんをいったん解雇して、フリーの個人事業主になってもらう。
  2. フリーになったBさんと「業務委託契約」を結び、年間440万円で業務を発注する。

すると、Bさんに支払う440万が仕入税額控除の対象になるので、税引前利益は変わらず、消費税納付額が40万減り、消費税引後利益が40万増えます。

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このように、仕事の報酬を【給与】ではなく【外注費】として支払うことで、仕入税額控除を増やして、消費税を節税することができます。

これが「消費税の外注化節税スキーム」です。

 

また、「外注化」には、派遣会社を利用する方法もあります。

例えば、上記のX社が業績好調で社員を1名増やすことを決めたとします。

ここで、普通に求人をして、新規社員を雇って、給与を支払った場合は仕入税額控除の対象にはなりません。

そうではなく、派遣社員を雇って、派遣会社に派遣料を支払う場合は仕入税額控除の対象になりますので、これは消費税の節税になります。

( ゚д゚)<ほいだら、人を雇うんやったら外注化せな損やんけ。こらあええこと教えてもろたわ。おかんに教えたろ。

(´・ω・ `)<じゃけん、やめときて。問題があるて言うたじゃろ。

( ゚д゚)<そんなこと言うとったの。何があかんのんじゃ。

 

税務面の問題

まず、税務面での問題があります。

これは派遣会社を利用する方法なら、あまり心配しなくてもいいんですが、業務委託契約に変更する方法では、実態が伴っていない場合、税務署が仕入税額控除を認めないことがあります。

( ゚д゚)<実態が伴ってないって何よ。

(´・ω・ `)<極端なのやと、契約書の表題を「雇用契約書」から「業務委託契約書」に変えただけで、社員のときと全く同じように働いとる場合とかやな。そういうのは「これ、外注費じゃなくて給与ですね。この分を含めずに仕入税額控除を再計算してください。」って言われる。

数年分を遡って再計算を求められる、なんてことになると、修正申告でめんどくさいことになりますし、追徴金も請求されるかもしれません。

なので、もしご利用されるのであれば、税理士さん等に事前にしっかりとご相談されてからにすることをおすすめします。( ゚д゚)<てめえの言うとおりに外注化したらエラい目にあったじゃねえか。と言われても、私は責任は取れませんので、ご了承ください。

 

社員側の問題

次に、このスキームで社員(Bさん)側が得をすることは、ほぼ何もありません。

第一に、労働者としての公的保護を受けられなくなります。

Bさんが労働者であれば、各種の労働関連法等によって保護されるため、Aさんは、そう簡単にBさんを解雇したりすることはできません。ところが、個人事業主派遣社員にそんな保護はありませんので、Aさんは、Bさんを切りたいときに切ることができるようになります。

第二に、BさんがX社以外からも仕事を受ければ別ですが、そうでなければ、Bさんの手取りは社員でいたときより確実に減ります。

社員であれば会社が半額支払ってくれていた社会保険料が全額自己負担になりますし、X社から支払われる440万は消費税法上の課税売上に該当するので、免税事業者でなければ、消費税として40万を課税されます。

 

インボイス制度との関連

ちなみに、前回説明したインボイス制度が始まれば、

  • Bさんが課税事業者になり、消費税40万を納める。
  • Bさんは免税事業者のままで、X社が40万の仕入税額控除を受けられなくなる。

X社とBさんは、この2つの選択肢のうち、どちらかを選ぶことを強制されることになります。

とは言え、Bさんが免税事業者でいることを選んだ場合、X社はBさんとの契約を切って、別の課税事業者に乗り換えることもできますので、実際のところ、Bさんに選択肢はありません。

ほんまクソ。誰が得するんか、これ。

 

会社側の問題

そして、これはあくまで私の主観的な見解に過ぎないかもしれませんが、このスキームは、会社にとっても得をする方法ではないと思います。

もちろん(税務上の問題は置いといて)、外注化をすれば、消費税が節税できて、会社の利益は大きくなります。そこのメリットはたしかにあるんですが・・・

例えば10年後のことを考えたとき、Bさんは、会社だけが得をするような契約を10年間押しつけられています。一方で、おそらく、10年の間にそれなりに立派な技術と経験を身につけていることでしょう。

さて、Bさんは、これから先もX社のために仕事をしてくれるでしょうか。してくれればいいですが、そうでなければ、X社はただ10年間せっせと節税をして、カネを貯めただけです。Bさんが去ってしまえば、そこには何も残りません。今度はCさんを見つけてきて、もう一度イチからやり直しです。

派遣会社を利用する場合は、何も残らないことがはじめから分かっています。

私は、これを「会社にとっても得ではない」と思いますが、そう思わない人もいるかもしれません。捉え方は人それぞれだと思いますが、【このスキームを使うことは、人材の蓄積を半ば放棄するものである】という事実だけはハッキリしています。

( ゚д゚)<ほんほん。たしかに「みんなやらなきゃ損やで」っちゅうもんじゃなさそうやな。

(´・ω・ `)<せやねん。じゃけん、もしこれをやるんやったら、よくよく考えてからの方がええで。

 

雇用への罰金になっている

最後に、「消費税の外注化による節税スキーム」が成り立つ、つまり【外注化によって、消費税が節税できる】ということは、どういうことなのかを考えてみたいと思います。

会社が何らかの「仕事をする」というとき、会社自体には実体がありませんから、実際には「誰かに」または「何かに」その仕事をやってもらわなければなりません。

そのときの選択肢は、

  • 人を雇用してやってもらう。
  • 外部の人に発注する。
  • 機械を購入して、機械にやらせる。

だいたいこの3つです。そして、これらを消費税法上の取引区分で見てみると、こういうこと↓になります。

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要するに、「給与支給を不課税取引に区分する」という現行の消費税の仕組みでは、事業者が3つの選択肢のうち、《雇用》を選ぶと消費税の負担が大きくなります。

これは、消費税が事業者の《雇用》に対する罰金として機能する、つまり《雇用》が[5-5]で言うところの"悪行"になっている、ということです。

もちろん実際には、会社が人員を増やすときには、いろんな要素を総合的に判断します。

「消費税を節税できる」という理由だけで、《雇用》ではなく《外注》を選ぶような短絡的な経営者は、そんなに多くないでしょうから、消費税の雇用に対する罰金機能は、それほど明確には働かないかもしれません。

しかし、少なくとも、経営者が《雇用》と《外注》を天秤にかけたとき、消費税は、それを《外注》の側に傾かせる作用を持っていることは間違いありません。

こんなもんさっさと廃止したらええねん(´・ω・ `)

 

それでは本日ここまで。

 

 

おまけ

消費税とは直接関係ないので、本編ではちょろっとしか触れませんでしたが、外注化すると、事業者は社会保険料も節税することができます。社会保険料は、「保険料」という名前が付いていますが、[5-6]のとおり、実質は賃金支給と賃金所得を課税対象とする税です。

詳しくはこちらの動画をご覧ください。

www.youtube.com

 

 

日本人は本当はもっと豊かになれます。そのためにはもっと多くの人々が貨幣と経済の仕組みを理解しなければなりません。

私たちが、そして次世代の子供たちが、貧困に怯えずに暮らせる日本を目指しましょう。

 

( ゚д゚)<最後まで読んでいただき、ありがとうございます!!!

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