経理屋が読み解く『MMT入門』

『MMT入門』(L・ランダル・レイ,2019,東洋経済新報社)をベースにMMTを解説します。ときには自分の思うところを書き綴ったり。

落書き:クラウディングアウトとは

この記事はMMT解説ではありません。ふと思ったことがあったので、記事にしてみました。

 

きっかけ

ツイッターでマンキューという方の書いたテキストがどうやら主流派経済学のスタンダードらしい、と聞きまして、この本を近所の図書館で借りてきたんです。

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で、この中の第2部「古典派理論:長期の経済」の第3章「国民所得:どこから来てどこへ行くのか」の締めくくりに有名な"クラウディングアウト"が登場するんですが、

これが主流派経済学がどれだけ荒唐無稽かを如実に表してると思ったので、記事にしておこうと考えた次第です。

 

先に断っておきますと、長いです。

 

クラウディングアウトの概説

まずは、クラウディングアウトって何なのかをすんごいざっくり説明すると、

政府の赤字が増えることで企業の投資が抑制されて金利が上がる現象で、これを"クラウディングアウト"と呼ぶ。

これはとても悪いことである。

だから政府はできるだけ何もしない方がよろしい。

っていうものなんですが、これではあんまりなので、もうちょっと詳しくしますと、

 

元々の字義的な意味

クラウディングアウトとは、アルファベットで書くとCrowding Outで、crowdは"混雑する"という意味です。
イス取りゲームをイメージするのが分かりやすいかと思います。
例えば、プレーヤーが10人でイスが10個なら、平和なゲームができますが、
そこに新たに10人が参加してきて、20人のプレーヤーに対して、イスは10個のままだったら、元の参加者が締め出されてしまいます。
混雑して、元からいた人が締め出されたわけです。
 

経済に当てはめると

徴税と政府支出は真反対ですから、徴税を増やすのと、政府支出を減らすのは本質的には同じことです。 で、徴税を増やすと政府の収益が増えて、政府収支が黒字に傾きます。徴税を減らせば赤字化します。政府支出を増やすと費用が増えて赤字化し、減らせば黒字化します。

3-5.財政政策の仕訳 - 国債乱発派のMMT解説
[3-5]でこのように説明したとおり、政府の赤字が増えるということは、
  • 政府支出が増える
  • 税収が減る
この2つのいずれかが起きることです。
 
で、マンキューさんはここに1つの仮定を置きます。
「まず、企業が生産活動をして、一定量の生産物が出来上がる。そして、それを家計・企業・政府がカネを出して取り合うことで経済が成り立っている。」という仮定です。
ここで、生産物がイス取りゲームでいうところのイスで、家計・企業・政府の出すカネがプレーヤーに当たるわけです。
この仮定でいくと、
  • 政府支出増→政府がたくさんカネを出して、生産物を多く取ってしまう。ここで、家計はその影響を受けないので、結局、企業が座れるイス(生産物)が減ってしまう。
  • 税収減→家計のカネが増えるので、家計はたくさんカネを出すようになり、生産物を多く取ってしまう。ここで、政府はその影響を受けないので、結局、企業が座れるイス(生産物)が減ってしまう。

ということで、

政府の赤字が増えるとは、政府支出増・税収減のいずれかですが、いずれにしても企業は座れるイスが減ってしまって、締め出されてしまう(Crowding Out)という理屈です。

 

訳が分からんでしょう。

ところがまだ続きがあるんですな。

 

クラウディングアウトして利子率アップ

企業は、締め出された結果、投資を減らすことになります。

すると、銀行は企業へ貸出をする機会を失ってしまいますので、そのままでは利益が減ってしまいます。ややもすれば赤字になってしまう。

そこで、利子率を上げて、少ない貸出でも多くの利息を取れるようにします。

ということで、クラウディングアウトの最終的なオチは、金利上昇ということになります。

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訳が分からないと思いますので、結局は「訳が分からん」という感想になるのを承知の上で、なんとか分かるように、順を追って説明していこうと思います。

それではいってみましょう。

 

生産量Y

生産量Yは、生産のための資本の量Kと労働量Lによって決まるものとする。

これを数式で表すと、

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となる。この数式を生産関数と呼ぶことにする。

よって、KとLが不変なら、Yも不変である。さらに、この世に存在する資本と労働が最大限利用されていたら、Yはこれ以上増やせないということになる。

 

コブ=ダグラス生産関数

ちなみに、この生産関数は、具体的にはどんな関数なのか、コブさんとダグラスさんは、こんな数式なんじゃないかと考えた。

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これだとAとかαが変わったらKとLが不変でもYが変わるじゃねえかって?こまけぇこたぁ気にすんな。

消費C

消費Cは、家計所得Yと税収Tによって決まるものとする。

なお、家計所得は、世の中の総生産量に等しい(家計所得=総生産量)。違いますけどね。よって、家計所得を表す文字に総生産と同じYを使っても問題ない。

さらに言えば、消費は所得から税収を引いた可処分所得によって決まる(可処分所得が増えるほど消費は増える)ものとする。つまり、

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これはグラフにするとこんな感じになるはずだ。

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わたしゃこう↓だと思いますがね。可処分所得が増えたら増えただけ消費するなら金持ち父さんなんかおらんがな。

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さて、そろそろだいぶしんどいと思いますが、まだもうちょいお付き合いください。

 

投資I

投資Iは、利子率rによって決まるものとする。つまり、

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利子率とは、預金利息の利率のことか?融資利息か?国債?街金?マンキューさんはどれのことを言っているのか、と疑問を持つかもしれないが、

ここでは、預金利息から街金まで、全ての利子率は同じ数値であるものとする。よって、どれのことか?と考える必要は無い。だからこまけぇこたぁ気にすんなって

そして企業は銀行から借入をして、投資をする。利子率が高すぎると、投資して事業を起こしても、その事業の利益より借入の利息の方が多くなって投資をする意味がなくなる。rが増えるほどに投資は減るということである。

よって、I=f(r)をグラフにするとこういうふうになる。

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GDP三面等価の原則

これはまじめに聞いといてもらっても損しません。

GDPとは、収入の合計であり、支出の合計であり、生産の合計でもある。この3つは、必ず同じ数値になる。

これがざっくりとしたGDP三面等価原則の内容です。

なぜこんな奇跡みたいな一致が起きるのか。[2-2]で取り上げた例を使って説明します。

カフェ屋さんが私にコーヒーを提供して、私は550円を支払った。という例です。

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ここで、カフェ屋さんに550円の収入が発生し、私に550円の支出が発生しています。このように、発生する収入と支出は裏表の関係ですので、必ず一致します。タンゴは2人いなければ踊れません。

さらに、コーヒーは、私がコーヒーのために550円を支払った(カフェ屋さんがコーヒーの代金として550円を受け取った)瞬間にはじめて550円の生産としてカウントされますので、収入・支出と生産も毎回一致します。

1回1回の取引において、収入・支出・生産の3つは毎回一致しますから、これが全国規模とかになって、数えきれないほどの回数になっても合計はやっぱり一致するわけです。

これがGDP三面等価になる理屈です。

 

GDP三面等価原則の応用

GDP三面等価原則を応用すれば、「支出の合計を調べれば、生産の合計が分かる」っちゅうことになります。

そこで、輸出入は無視するものとして、世の中の支出者は、家計・企業・政府の3つで全てだとすれば、

総生産=総支出なので、総生産をY、家計支出をC、企業支出をI、政府支出をGとすると、こういう数式が成り立つ。

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数式を集約

いままでのY=f(K,L)とかを引っ張り出してきて、Y=C+I+Gに当てはめるとこうなる。

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これだと、どれが何を表してるのか分かりづらいので、fを元の文字に直す。

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クラウディングアウトします

長らくおつきあいいただきありがとうございました。

やっとこさクラウディングアウトの準備が整いました。

なお、Y=f(K,L)ですが、資本量Kも労働量Lも不変ということにしますので、Yは不変です。よって、Yは変化しない定数ですので、変化しないものに_を付けて、先の数式をこう書き直します。

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政府支出増のパターン

政府支出はGですね。政府支出が増加する(政府支出以外は変化しない)とき、C・Iはどうなるでしょう。

Cは、Y(所得)とT(税収)によって決まります。変化するのはGだけですので、Cは変化しません。よって、

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さらに変形して、

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CとYはどうせ定数なので、YーC=Zということでまとめます。Zは不変です。

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いよいよ政府支出を増やします。

例えばG=10、Z=50だとします。

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これがG=20に増えて、Z=50で不変なら、

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ということで、投資Iが減りました。ほらね、政府支出が増えると、投資が減るんですよ。

ここで、投資Iは利子率rによって決まる(利子率が増えるほど、投資が減る)ということにしたのを思い出してください。

このグラフです。

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ですから、投資が減ったということは、利子率が増えているはずです。

よって、結局は、政府支出が増えると、投資が減って、かつ、利子率が増えることが分かります。

 

税収減のパターン

今度は政府支出増ではなく、税収減のパターンを見てみましょう。

税収はTですね。税収が減少する(税収以外は変化しない)とき、C・Iはどうなるでしょう。

さっきと同じ要領で、今度はGに_が付きます。

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変形して、Y-G=Zと置くと、

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もうちょっと変形して、

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ここで、Y=50、T=10、Z=20として、このときのIをI10とすると、

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ここで税収Tを減らして、Y=50、T=5、Z=20として、このときのIをI5とすると、

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Cは( )内の数字(可処分所得)が増えるほどに増えることを思い出してください。

このグラフです。

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よって、C(40)<C(45)だから、

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ということで、やっぱり投資Iが減りました。これで、税収が減ると、投資が減ることが分かりました。

後はさっきと同じ考え方で、結局は、税収が減ると、投資が減り、かつ、利子率が増えることが分かります。

 

結論

政府支出増・税収減、いずれのパターンでも、その結果は、投資(企業支出)の減少及び利子率の上昇でした。

「政府支出増または税収減」とは、「財政赤字」という用語に集約できますので、冒頭のこれに落ち着くわけです。

政府の赤字が増えることで企業の投資が抑制されて金利が上がる現象で、これを"クラウディングアウト"と呼ぶ。

これはとても悪いことである。

だから政府はできるだけ何もしない方がよろしい。

 

しかし、こんな現象は起きません。

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てなもんです。

 

実際に起きていません。グラフで確認しましょう

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1989年~1995年にかけて、日本の財政赤字はどんどん伸びましたが、その間、国債金利はどんどん下がりました。そこから日本の財政赤字は2019年まで、ずーっと横ばいですが、 国債金利は下がり続けています。2020年はコロナショックで財政赤字が大きく増えましたが、国債金利はいまのところピクリともしていません。

 

"国民貯蓄"も減るらしい

ちなみに、クラウディングアウトの影響は、国民貯蓄なるものにも及ぶことになっています。

なお、"国民貯蓄"とは、政府部門の貯蓄と民間部門の貯蓄の合計のことです。ここでいう"貯蓄"とは(たぶん)純資産のことです。詳しい方なら、ここで「閉鎖経済なら、その国民貯蓄とかいうやつは常にゼロだろ」と気づかれると思いますが、マンキューさんの中ではそうではないみたいです。

財政赤字が増える→政府の貯蓄が減る→民間貯蓄は変化しない(!)→国民貯蓄が減る

こういう理屈のようで、マンキューさんは、これもクラウディングアウトの一側面だと言われています。

 

これが間違いなのは、下図だけでも分かりますが、もっと詳しく知りたい方は[3-9]をご覧ください。

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次回予告?

以上、「クラウディングアウトとは」でした。こんなに長い記事を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

記事の途中で、ちょいちょいつっこみを入れてますが、最初はもっとつっこみを書いてたんですけど、全部につっこんでたらキリがなかったので、だいぶ削りました。しばらくは本編に集中しますが、気が向いたら、『クラウディングアウトとは:つっこみ編』も書こうかなと考えています。

 

 

 それでは本日ここまで。

 

 

 

日本人は本当はもっと豊かになれます。そのためにはもっと多くの人々が貨幣と経済の仕組みを理解しなければなりません。

私たちが、そして次世代の子供たちが、貧困に怯えずに暮らせる日本を目指しましょう。

 

‪最後まで読んでいただき、ありがとうございます^^

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