本章では、現代貨幣の理解に必要な基礎の構築に取りかかる。なぜこれが重要なのか、最初は分かりにくいかもしれないが、我慢してお付き合い願いたい。基本的なマクロ会計を理解していなければ、政府の財政に関する議論はおそらく理解できない(そして、最近多くの国を苦しめている赤字ヒステリーを論評することもできない)。
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当ブログは、こちらの複式簿記を説明した記事を読んでいただいている前提で書いています。未読の方は是非ご一読ください。
当ブログは、私がこちらの書籍を読んで、理解したことや考えたことを記事にしたものです。
1つの部門の赤字は、別の部門の黒字に等しい
以上の議論は、我々を重要な会計原則に導いてくれる。すなわち、1つ以上の部門の赤字の合計は、残りの部門の黒字に等しくなければならない。ワイン・ゴッドリーの先駆的な研究に倣い、我々はこの原則を簡単な恒等式で表すことができる。
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ここまでの復習
本記事は、"ストックとフローの会計の基礎"シリーズの総まとめになります。
まずはここまでの復習をしておきましょう。
- 貨幣は、資産であると同時に負債である。
- 内部資産はゼロに帰る。
- 収支と純資産の動きは必ず一致する。
自分で書いといてなんですけど、初見で読んだら確実に訳が分からないですね。
もうちょっと噛み砕きましょう。
貨幣は、資産であると同時に負債である
詳しくはこちらの記事のとおりですが、
貨幣は資産|負債の取引の記録です。
貨幣は、その所有者にとっては金融資産ですが、一方、その発行者にとっては金融負債です。例えば、銀行預金は、預金者にとっては資産ですが、銀行にとっては負債ですよね。このように貨幣は資産であると同時に負債でもあります。
内部資産はゼロに帰る
詳しくはこちらの記事 xbtomoki.hatenablog.com
部門内部でいくら取引しても、その部門全体を見たときには、純資産は右から左へ移っただけで、合計は増えも減りもしません。
収支と純資産の動きは必ず一致する
詳しくはこちらの記事
黒字収支は必ず同額の純資産増加を伴い、赤字収支は必ず同額の純資産減少を伴います。
マクロ会計の恒等式
以上を総合することで、MMTの根本理論とも言える恒等式を導き出すことができます。それが下記の恒等式です。
国内民間収支+国内政府収支+海外収支=0
この恒等式は「マクロ会計の恒等式」と呼んだり、「3部門会計の恒等式」と呼んだり、単に「恒等式」と呼んだりします。
この恒等式は超重要ですから、恒等式そのものだけでなく、恒等式が導き出される過程や恒等式が意味するところも含めて覚えていただきたいと思います。
恒等式の導出
さて、恒等式はどのように導き出されるのか。
均衡収支の推定
まずは「3.収支と純資産の動きは必ず一致する。」を考えてみましょう。
これを説明するときは「収支が黒字なら、純資産が増える」という具合で、"収支"が主で"純資産増減"が副のような言い方をしました。普通はそのように捉えるのが正当だとは思います。
ただ、ここでは、その逆を考えてみましょう。つまり「純資産に増減が無いとき、収支は必ず均衡収支である。」ということも言えるはずです。
部門が1つなら全てが内部資産
次に「2.内部資産はゼロに帰る。」を考えてみましょう。
このように、あらゆる経済主体は、必ず次の3つのいずれか1つに属します。
- 国内政府部門
- 国内民間部門
- 国外部門
そしてそれぞれの部門の内部でいくら取引をしても純資産が右から左へ移るだけで、部門全体としての純資産増減はありません。
これが「内部資産はゼロに帰る」という意味でした。
さて、ここでも、視点を少し変えてみましょう。つまり、この3部門について、3つに分かれてるのではなく、「全てが"全経済主体"という1つの部門に属している。」と考えてみます。
そうすると、世界に存在する全ての金融資産は内部資産である、ということですから、「世界全体で見たときに純資産増減はいつもゼロに帰る」つまり、「3部門の純資産増減の合計は、必ずゼロである。」という結論に至ります。
恒等式が導き出される
準備は整いました。
「純資産に増減が無いとき、収支は必ず均衡収支である。」 - ①
「3部門の純資産増減の合計は、必ずゼロである。」 - ②
まず②より、
全経済主体部門の純資産増減の合計=0 - ②’
ここで、①(純資産増減がゼロなら均衡収支)より、
全経済主体部門の収支=0 - ②’’
また、全経済主体は民間・政府・海外の3部門から構成されるため
全経済主体部門の収支=国内民間収支+国内政府収支+海外収支 - ③
③を②’’に代入すると、
国内民間収支+国内政府収支+海外収支=0
マクロ会計の恒等式はこのように導出されます。
"海外"っていうのがいまいち正確性に欠けるので、ここからは"海外"ではなく、"国外"と表記します
→国内民間収支+国内政府収支+国外収支=0
恒等式が持つ意味
しつこくてすみません、もう一度、恒等式を見てみましょう。
国内民間収支+国内政府収支+国外収支=0
恒等式からは、さらに次の4つの命題が導かれます。
- 3部門全てが同時に黒字または赤字となることはあり得ない
- 1つの部門が黒字であれば、他の2部門のうち少なくとも1部門は必ず赤字である
- 2つの部門が黒字であれば、残りの1部門は必ず赤字である
- いずれかの部門が大きな黒字であれば、他の部門の収支合計は必ずそれと同額の大きな赤字となっている
国内視点バージョンの恒等式
経常収支とは
ほんとにしつこくてすみません、もう一度、恒等式を見てみましょう。
国内民間収支+国内政府収支+国外収支=0
この"国外収支"なんですが、これは国外の経済主体が主語です。
つまり、「国外収支が黒字」とは、国外部門が黒字収支であるということです。なんか小泉進次郎みたいで恥ずかしいですね。
さらに、「国外部門が黒字収支である」ということは、「政府部門と民間部門を合わせた国内部門の国外部門に対する収支は赤字である」ということです。
ここで、ありがたいことに、"政府部門と民間部門を合わせた国内部門の国外部門に対する収支"には"経常収支"という名前が付けられています。よって、「国外収支が●●円の黒字ならば、経常収支は同じく●●円の赤字である」ということが言えます。
つまり、【国外収支=-経常収支】が成り立ちます。
経常収支による恒等式の変形
さて、マクロ会計の恒等式の不便なところは"国外収支"が含まれている点にあります。
例えば、恒等式を利用して民間部門の収支を予測するために、恒等式を次のように変形させてみます。
民間収支=-政府収支-国外収支
ここで、民間収支を知るには政府収支と国外収支を調べなければなりません。政府収支は財務省のwebサイトに載ってますが、国外収支、これを調べるのが大変です。まず、調べる対象が膨大です。さらにまともに統計を取ってない国もあります。
どれほど深刻? 厚労省不正統計問題を「超」分かりやすく解説 (1/3) - ITmedia ビジネスオンライン
ということで、国外収支のデータを入手することは、およそ現実的ではありません。
そこで経常収支の出番です。経常収支は政府が調べてくれていますので、政府収支のついでにチョチョイノチョイです。
【国外収支=-経常収支】ですから、恒等式は次のように変形できます。
国内民間収支+国内政府収支-経常収支=0
これがマクロ会計恒等式の国内視点バージョンです。表現方法・利用目的が違うだけで、意味するところは元の恒等式と変わりません。
ここから先では2つを時と場合によって使い分けることとします。
国内民間収支+国内政府収支+国外収支=0
国内民間収支+国内政府収支-経常収支=0
それでは本日ここまで、ありがとうございました。
【本日のおまけ】
下のグラフは、OECDに加盟中の35ヵ国の1990年~2018年における名目GDP成長率です。35ヵ国それぞれにつき、各国の2000年のデータで素のデータを割った値をグラフにしています。名目GDPの変化率は、一般には"経済成長率"と呼ばれます。
例えば、オーストラリア(緑のライン)を見ると、2018年におけるオーストラリアの名目GDPは2000年の約3.5倍であり、およそ20年間でオーストラリアの経済は3.5倍に成長したことが分かります。
図ではオーストラリア、カナダ、アメリカ、イギリス、日本の5ヵ国を強調しています。5ヵ国には"独自の主権通貨を持つ変動為替相場制の経済先進国である"という共通点があり、比較対象として適当だろうと考え、このようにしています。
私が思うに、図から見て取れるのは、まず何と言っても、「日本は"異様"とも言えるレベルで成長率が低い」ということです。そして低いだけでなく、ずーっと100%あたりをウロチョロしています。これは「全く成長していない」ということです。
強調した5ヵ国のうちで、2018年のデータが2番目に低いイギリスでさえ2018年までに1.7倍に成長しています。そしてこの1.7倍という数字は、日本を除けば、OECD加盟国の中で最低レベルです。日本はそれのもっともっと下です。ここから「全く成長していない」ということの異常さを分かっていただければ、と思います。
普通の感覚で言えば、"イギリス経済は長期にわたって停滞している"と評価するべきでしょう。しかし、日本はそれを大きく下回っています。"停滞"以下を表す適当な言葉は"衰退"でしょうか。日本を"衰退途上国"なんて揶揄する意見もときどき目にしますね。
日本は、世界で唯一、現在進行形で経済衰退しているという異常な状態です。なぜこんなことになってしまったのか。それはバブル崩壊以降、およそ30年間、誤った経済理論に基づいてクレイジーな経済政策をずーーーーーっと続けてきたからです。
日本人は本当はもっと豊かになれます。そのためにはもっと多くの人々が貨幣と経済の仕組みを理解しなければなりません。
私たちが、そして次世代の子供たちが、貧困に怯えずに暮らせる日本を目指しましょう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます^^
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